科学者からの依頼 10
第19部分 「科学者からの依頼 9」の最後の一文で大変なミスをしてしまいました。
「ゼロ」と書いてしまったのですが、正しくは「ルナ」です。
訂正はさせていただきましたが、混乱させてしまった皆様申し訳ございませんでした。
引き続き楽しんで読んで頂けると幸いです。
「えっと、確認なんですけど、俺が鬼語を話してるんであってる?」
「はい、とても綺麗な鬼語なので本当に驚きました。一体、どこで覚えたんでしょうか、鬼族は社会性が乏しく、同じ希望の民同士でも交流を持つことは殆どないと父上様から聞き及んでいたのですが。」
「希望の民?」
「はい、わたくしたちは自分たちをそう呼んでいます。もっとも、人間や魔族からは亜人と呼ばれているらしいのですが。」
なるほど、亜人というのは当の本人たちからしたらあまり良い呼び名ではないのかもしれない。『亜』と、いう意味をきちんと覚えていないが、亜種とか聞くと一風変わった種のような響きだし、別に悪い意味が無かったとしても、本人たちが呼んでいる呼び方の方が礼儀正しいだろう。
「そうか、これから俺もそう呼ぶことにしよう。で、鬼語の件なのだが、例の秘術の副作用に鬼語が話せるようになるとかはなかったかな。」
考えられる可能性はそれしかない。
「なるほど、その可能性は失念しておりました。てっきりゼロ様が元々話せるものとばかりに・・・。鬼族以外に分魂の術を使ったという話は聞いたことがないもので、確認の方法はないと存じますが、元来の使い方として鬼姫が次の鬼族の頭領を任命するためのもので、回復することを目的というよりも魂を分け与えることが目的とされておりますので、或いはその魂を通じて鬼語を理解することも可能かもしれませんね。」
あれ、今さらっと凄いこと言って来なかった?
「えっと、ルナさん。確認なんですが、たぶん今鬼姫って仰いましたが、ルナさんは鬼族のお姫様であられるということでよろしいでしょうか?」
「はい。私が生きている限りはそうです。ただ、私が死ぬと分魂の術が使える新しい姫が誕生します。」
「では、鬼族の次の頭領って言うのは・・・。」
「はい、もちろんゼロ様です。」
頭が痛くなった。寝耳に水とはまさにこの事だ。戦いで死にかけて、回復してもらって鬼語が話せるようになって、次は鬼族の頭領?
あれっ、って、ことは。
「ルナさん度々確認なんですが、頭領の嫁って言うのは?」
「はい、もちろん鬼姫であるわたくしでございます。」
ゼルダは鬼族の姫(幼女)を嫁に貰った。
「と、申し上げたいのですが、一族の許可を取らずに勝手に分魂の術を使ってしまったので、先のことは何とも言えません。ただ、わたくしは誘拐されたので一族のものが探しに出てくるということも考えられますが、一番可能性がありそうなのはわたくしが死ぬまで頭領代理を立てて体裁を取り付くことではないでしょうか。その場合、もし無断で分魂の術を使ったのが判明次第、追っ手がかけられる可能性も御座います。」
一族の威厳を保つための刺客か、よくある話だが器量の狭い。
「俺の為にすまない。もし、追っ手が差し向けられた場合は全力でルナを守るよ。」
「あら、それは自分の命を守るためですか?」
こいつは何を言ってるんだ、そんなはずないではないか!!と、怒りそうになって気付いた。さっき私は命を救ってくれた彼女に同じ台詞を言ったんだと。
「重ね重ね、すまない。」
彼女は微笑んで、
「冗談です。少し意地悪をしました、申し訳ありません。私はゼロ様の奴隷なのでこれからのことはゼロ様が決めてくださいませ。ただ、今お話しさせていただいた通り、鬼族に追われる可能性も御座いますのでその場合はご容赦くださいませ。」
「ルナ、このタイミングでいうのは正しいのかわからないが、この依頼が無事に終わったら、俺は君を故郷に返そうと思っていたんだ。もし、君を無事に故郷に返したらどうなる。」
ルナは嬉しそうな、それでいて悲しそうな表情を浮かべて、
「正直わかりません。ゼロ様の生命エネルギーの高さに畏怖し、頭領として受け入れるか、わたくしを一族以外の者に術を使った裏切り者と判断し殺そうとするか、いずれにせよゼロ様には好ましくないことが待っていると思われるのでございます。わたくしのことを考えてくださってのこととは重々承知しておりますが、どうかご自分を大切になさってくださいませ。」
「ルナ、正直俺は自分の命が大切で、死にたくないと思ってる。でも、君は希望の民の領域でしか生きていけないはずだ。今だって神の加護の影響で本当は苦しいんだろ。希望の民の暮らせる領域は狭い。そこで暮らしていればいずれ発見されてしまうだろう。だったら、怯えてその時を待つより、先に嫌なことを済ませちゃわないか?」
ルナの目から大粒の涙が溢れる。
「何、心配するな。何も一族の長になりに行く訳じゃない。頭領代理をきちんとたててもらって、民主的に解決をだな・・・、いや、もしそれが無理だったら、ルナを守りながら逃げることぐらいできるから、そうなったらそうなった時に考えよう。」
「ゼロ様、ご自分が何を仰っているかわかっているんですか?」
正直自分でもわからないが、彼女は絶対に守ってみせると決めた。
「うーん、いまいちわかってないかも。でも、決めた。一緒に、鬼族の里に行こう。」
ルナは顔を手で押さえているが、その涙は隠しきれていない。
「ゼロ様は優しすぎます。このまま人間の土地にれば幸せに暮らせるかもしれないのに、鬼族の里に行けば殺されるかも知れないのに、ひょっとしたらわたくしが死んだらご自分が死ぬなんて嘘かもしれないのに疑いもせずに!!」
ルナが感情的に大きな声を出す。
「ルナ、もう決めたんだ。一緒に行こう。」
私は力強くもう一度ルナを誘う。
ルナは小さく頷いた。




