科学者からの依頼 5
少し短めです。
研究所に入ると例のあんまり関わりたくない研究員の方々が歓声をあげる。どうやら情報はもう伝わっているようだ。
「やはり亜人は人間の言葉を理解できるですね。」
「はじめまして鬼族のお嬢ちゃん。ちょっと喋ってみてくれる。」
「とりあえず生体情報から分析を始めませんか。」
「いやとりあえずお友達からお願いします。」
「声帯の分析も始めませんと。」
言いたいことは山ほどあるが、それを飲み込んで会議室と書いてある部屋に滑り込む。
「悪いね。研究のこととなると周りが見えない連中が多いんだ。」
お前が言えた義理かと言いかけるが、これも飲み込む。会議室には私とハルと鬼族の少女がいる。ハルは興味深そうに少女を見つめているが、特に研究しようという情熱というか例の変態的なオーラは出ていない。他の研究員の様にいつもなら確実に付きまとう筈なのに、常識的な距離感を保っている。ちなみに他の研究員はドアの隙間から覗いたり、窓に張り付いたり、天井に忍び込んだりしてる。そんなハルの態度が気にはなるが、今は彼女のことが優先だ。
「まずは自己紹介させてもらうよ。僕の名前は是留舵。でも、みんなの前で呼ばれるとちょっと都合が悪いんだ、ゼロって呼んでくれるかな。」
そう、私の名前はゼルダ。少し前に流行ったキラキラネームだ。両親はもちろん強い男に育つように、例のゲームからとって名前をつけた。全世界で通用する名前だと胸を張る両親に、反抗期だった私が言い放った言葉がある。「ゼルダは王女の名前だ!!」お察しの通り、この名前が原因で数々の困難に立ち向かわなければいけなくなったのだが、それはまた別のお話。
「デ オ」
「そう、ゼロ。君の名前も教えてくれると嬉しいんだけど。」
「>/!%~?&”/%>」’!~&”&%/<)”・?%~」
・・・うん。何言ってるか、全くわからないんですけど。
「ごめんね、ちょっと聞き取れなかったみたい。もう一回、ゆっくり言ってもらえるかな。」
「/;/!;”!”?&’&#’>)%・’?…?&:’>))>)~#…?&+*%:75/」
・・・うん、さっぱりわからない。しかも、心なしかさっきより長くなってません?正直、泣きそうです。ハルの顔を見る。ハルは何か真剣な顔で考えている。助けてくれてもいいんだよ?
「ごめんね。やっぱり僕には君の話す言葉はわからないみたい。もし嫌じゃなかったら、呼び名をこっちで勝手につけてもいい?」
少女が頷く。
と、その瞬間、会議室のドアが開く、窓も開く、そして天井の一部も開く。
「第1回、鬼族の少女の呼び名を決める大会を開催しまーーーーーーーーす。」
歓声が響き渡る。
「司会は私、マッドサイエンティストの右腕、爆撃の科学者マイクが務めさせていただきます。」
「助手はわたくし、最低最悪の狂人の右腕、氷結の科学者スタンリーが務めさせていただきます。」
ちなみにこの研究所の研究員はハルを入れて若干6名。その全員がハルの右腕を自称している。一体彼女には何本右腕があるのだろう。
「まずは提案がある人。」
6本の手があがる。いつの間にかハルも平常運転に戻っているようだ。全員で好き放題名前の羅列をはじめだした。
オに子、オニキス、鬼鬼、オーガール、鬼殺し、鬼切り丸など、その数は100を越えた。彼らの議論はまだ続く。
「鬼嫁。」
そう誰かが呟いたとき、ハルの目が輝いた。
「ティアなんて、どうかしら。ゼロのお嫁さんの名前よ。」
とんでもないものをぶっこんできた。
「却下だ。それに嫁じゃない、もと嫁だ。呼びにくいったらありゃしない。」
「あら、いいアイディアだと思ったんだけど。」
議論が再開していく。候補の数が200を越えたとき、6人の拍手が響き渡った。
「では、満場一致で鬼族の少女の名前はルナに決定しました。」
更にとんでもないものをぶっこんできた。娘の名前だ。
「ちょっと待て、どうしてそうなった?」
「彼女の角が三日月の様に綺麗で」
「瞳は満月のように真ん丸で清みわたっている」
「そして、彼女の赤い髪はまるで月蝕がおこった月のように綺麗な赤」
「大きくなったら月の女神の様な美貌になる」
「以上の理由からルナになりました。」
拍手喝采。
だが断る。
「それはダメだ。それだけは受け入れられない。」
「どうしてですか、理由を教えて下さい。」
研究員の一人が詰め寄る。娘がいることを彼女らは知らない。理由を言ったら余計面白がるので絶対に言えない。ハル辺りは気づいたかも知れないが。
「ルナちゃんだって、ルナって名前、可愛いと思うよね。」
「ル ナ」
そう呟くと少女は小さく頷き、
笑った。
公園で見たときから今までずっと無表情だった彼女が初めて見せた感情。それを見たら反対など出来なくなってしまった。
こうして彼女の名前はルナに決定し、私は購入した奴隷の少女に娘と同じ名前を付けた外道になることが決定した。