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科学者からの依頼 3

奴隷。


人権という言葉が浸透した現代の地球では絶対に許されない制度。私にとっては、歴史でしか習ったことがない制度だが少なからず私も嫌悪感を持っていた。と、同時に空想やラノベの世界では設定として”あり”だった。そして、この異世界では、私は肯定派でも否定派でもない。郷に入れば郷に従えという感覚なのだろうか、当たり前に存在するものを私1人が騒いだとして変えることは不可能だと頭で理解してしまっているのだろう。この世界に存在する人間、魔族、亜人、そのどの種族も奴隷として売買されている。つまり、奴隷制度を廃するためには、世界の断りを変えなければいけないということだ。魔王討伐しても世界を変革出来なかった今となっては、私にその手段は思い付かない。


否定的に奴隷制度を説明したところで、これから私がすることは、変わらない。奴隷の買付だ。


待ち合わせの時刻、待ち合わせの時間にハルが現れる。


「時間がもったいないので、早速行きましょう。」


「ああ、いいポーターが買えるといいんだが。」


「そうね、可愛い子がいるといいわね。」


どうやら心を読む能力が彼女には備わっているようだ。


この街で奴隷市が開かれるのは月に1度。街の中心にある公園が封鎖され、市場へと姿を変える。公園の入り口で入場者の身分照会が行われ、一定以上の地位とみとめられた者のみ入場出来る。敷居が高い分、質が高いのが売りで、街の有力者のみならず国中の金持ちもこの日を楽しみにやって来るという。


入り口で彼女の身分照会が始まる。照会を担当していた役人が急に畏まりだす。王国史上最凶の科学者が街外れの自分の研究所から出て奴隷を探す。奴隷を探すだけならいいがこの場で実験をし出さないか、不安に教われているのだろう。彼女ならやりかねないと誰もが知っているのだ。役人は恐る恐る尋ねる。


「き、今日は、ど、どういった、ご用件でしょうううう。」


声がひきつっている。


「買い物に決まっているだろう。活きのいいメスを一匹買いにきた。」


彼女はメスと言い切った。彼女にとって奴隷とは実験動物と同じ存在なのだろう。役人は買い物と聞けて少し安心したようだ。


「これは私の助手だ。一緒に通してもらうぞ。」


「はい。お、お通りくだしゃい。」


思いの外簡単に入ることが出来た。多分、役人は彼女の機嫌を損ねたくなかったのであろう。気持ちはわかるが仕事はきちんとした方がいいぞ。


公園の中はまず3区画に別れている。もちろん人間、魔族、亜人という分類だ。さらに各区分毎に細分化されている具合だ。


ちなみに、人間は奴隷と言ってもある程度の権利が認められている。最低賃金と衣食住の保証、病気になった場合は医者に見せる程度の話だが、賃金を貯め、自分の購入金額を主人に払えれば自由になれるという確約を与えられる。しかし実際にそこまでの金額を貯めるのは難しく、自由になった人々は必ずといっていいほど給料形態のいい性奉仕を含む契約を結んでいるらしい。そして、権利が認められていると言っても、脱走や契約違反には厳しい処罰が待っているのは言うまでもない。


魔族、亜人には人としての権利などもちろんない。賃金、衣食住、病気のケア、他の全てのものが必要ないとされている。ただひとつの例外はいつでも死を与えられる環境に彼らを置くこと。魔族は人間の土地にいるだけで弱っていく種族であるが、それでも上位種である事に変わりはない。少し位弱っていたとしても危険生物なのだ。首輪と腕輪がセットの魔道具が販売されており、一般的にはそれが使用される。腕輪を購入者、首輪を奴隷が装着し、購入者の意思で雷系魔法が発動する。これは火種の玉と一緒で魔法を使えないものでも使用できるらしい。ちなみに購入者の生命反応が消えた場合は最高出力の雷系魔法が発動し、奴隷を死に至らしめる。


今回の目的はポーター。つまり、荷物運びの購入なため、人間であることが必須だ。魔族と亜人は私たちと同等か、それ以上の知恵と知識を持ってはいるが、言葉が通じない。高い戦闘能力を有し、状況判断に優れていようとコミュニケーションが取れないなら、足手まとい以外の何者でもない。私は人間の区画に進もうとすると、


「そっちじゃないわよ。今日は亜人を買うんだから。」


亜人。人間と魔族の土地の境界線にしか存在しない種族。神にも悪魔にも見放された種族と呼ばれる彼らは、神の加護も魔素も、どちらからも影響も受ける。ただし、害としてである。その為彼らは普段その領域から出ずに暮らしている。基本的には種族毎、部族毎に村や町を形成し、他の亜人種との交流も盛んらしい。


「いやいや、ポーターなら人しか選択肢はないだろう。」


なぜ亜人なのか。嫌な予感しかしない。


「人だったら、運悪く死んでしまったら問題になるじゃない。」


予想通りの答えが帰ってくる。やはりダンジョンはかなり危険なようだ。そんな私の心中を察してか、


「念のためよ、念のため。もし、人が死んでしまったら手続きとかが面倒くさいのよ。それに比べて亜人なら購入しちゃえば後はこちらの自由だし、値段は高いけど、私、お金なら山ほどあるし。」


「言葉が通じないなら俺1人で行った方がマシだ。」


「それだと少し都合が悪いのよ。最高級の奴隷を買ってあげるから亜人にしなさい。」


まだ何か企んでいるようだが、この依頼を断ると私の生活は木箱と共にということになるので我慢しよう。それに最高級の奴隷という響きは魅力的だ。


「それに最近じゃあ魔族でも亜人でも人間の言葉を理解する個体が出てきているらしいわよ。まぁ、今回の奴隷のなかにそういう個体がいるかはわからないけど。」


確実にフラグが立った。今日、私が買うのは言葉がわかる亜人の女の子だ。しかし気になる点があるので聞いてみる。


「それなら魔族でもいい気がするが、どうして亜人なんだ。」


「あら、私はどっちでもいいけど、あなたが亜人の方が好きかと思って。それともあの辺に群がっているおじさんたちと一緒で『魔族愛好家』だったかしら。」


魔族愛好家。いい言葉風なニュアンスに聞こえるが、蔑まれた言葉で口では説明できない趣味を持つ人たちを指す言葉である。ちなみに私にその趣味はない。


納得して、ハルの後について亜人の区分に移動する。3区分の中で一番小さいセクションだ。絶対数が少ないのもあるが、人や魔族から身を隠して生活しているため、捕まえるのが難しく、奴隷として売り出される数は少ない。その為、今日売り出されている人数は20人。4人の男、16人の女が50センチ四方、高さ2メートルの個人用の檻の中で恨めしそうにこちらを睨んでいる。金髪の髪をなびかせる「エルフ」、背が小さいがクリクリした目が可愛い「ドワーフ」、やっぱり獣の耳が最高「獣人」、日本のその趣味の人が見たら絶叫しているだろう。その趣味でない私も興奮気味だ。この中で好きな女性が今日から俺の奴隷だ。


すると、ハルがとんでもない行動に出る。持っていた魔道具を使用して亜人の女性全てに15センチ強の針を撃ち込む。針を受けた亜人たちは一様に苦しみ出す。


「お前、何してんだ。」


私が問いただす。役人もハルが怖くて止めに入れない。購入客たちがざわつき出し、私たちとの距離をとるが、表立ってハルを非難するものはいない。私たちと亜人を囲むように大きな野次馬の円が出来上がる。


「何って、選別よ。」


そう言って楽しそうに彼女は笑う。そこにいたのは紛れもなく、王国史上最凶の科学者だった。

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