いらない
どれほど泣いたのだろう。
涙がもう出なくなってしまった。
泣いて残ったものは、疲れた事だけだった。
目の奥がジンジンして、目もいつも通りにはひらかない。
声を出して泣き過ぎて喉も痛い。
ベッドによりかかって、いつも持ち歩いてる母がくれた紙を財布から出してみつめる。
辛い時はいつも何度でもこれを見る。
『凛々しく歩く』
ほんと、名前の通りの由来だ。
だけど、この由来が嬉しくて、この紙を持ち歩いてるのではない。
母が書いてくれた、その事に嬉しくていつも手放せずにいる。
10年くらい前のものだから、もう色あせてボロボロだ。
だけど、その分大切にしていると言うのが自分でも伝わってくる。
私は、今日はこの紙を持ったまま眠ることにした。
朝になると、リビングには誰もいなくて、母もいなかった。
あの人はどれだけ裏切れば気が済むのだろ
う。
ホントのお父さんの事だって、今回のことだって。
私には、家族というものがわからない。
なぜ分からないのだろう。
「家族なんて…」
そう呟いた。
が、その後の言葉は出せなかった。
『もしかしたら』と言う淡い期待がまだ心のどっかにあったから。
それと同時に、母がちゃんと私を見てくれるかもしれない。
と、そんな気がした。
だから、呟いた言葉の先を続けることはできなかった。
だから、余計に悔しくて、何故か悔しくて。
家族なんて…、『いらない』って言葉は飲み込んで、心の奥底に沈めた。