パワー・ブレックファスト
アル・ダフラ空軍基地 10月9日 0541時
まだ夜が明けていない飛行場にアブダビ空軍のミラージュ2000が編隊で着陸した。その後ろから、様々な種類の戦闘機、輸送機などが着陸し、最後にヴォルガ・ドニエプル航空の3機のAn-124貨物機が降りてきた。巨大なウクライナ製貨物機からは、CV-22、AH-64D、CH-53Eが降ろされる。アブダビ空軍の兵士が傭兵部隊の機体を予め指定していたエプロンへ動かし、傭兵たちには格納庫と宿舎が与えられた。
「アブダビへようこそ、ミスター・スタンリー。長旅でお疲れでしょう」
今回、合同演習を行うアブダビ空軍第7戦闘飛行隊隊長ムスタファ・アル=カディーリ大佐が出迎えに来た。
「このような演習にお招きいただき、ありがとうございます」
スタンリーはお辞儀をすると、アル=カディーリの手を握った。
「いやいや、こちらこそ。軍とは異なる考えを持つ人との演習はいいことです。では、部下たちを紹介しましょう」
スタンリーとアル=カディーリはお互いの部下を対面させた。アブダビ空軍のパイロットは、特に日本人のイーグルドライバーに興味を示したようだ。そして、傭兵たちに話しかけ始め、アラビア語がわかるツァハレムとベングリオン、ケマルは通訳に奔走した。
アブ・ダフラ空軍基地 10月9日 0645時
佐藤はハンガーから基地の様子を見た。元々はアメリカ軍やオランダ軍が駐屯していたが、今は撤退してしまっている。ようやく日が昇ってきた飛行場では乾燥した風が吹いていて、目や喉に焼け付くような感覚がある。明日からの演習のため、整備員が入念に戦闘機を点検している。ウェポン・ローダーに載せられたマジック550やMICAといった空対空ミサイルが運ばれ、燃料満載のタンクローリーが走っている。
「おーい」
マッキンリーが走ってきた。
「パワー・ブレックファストになった。食堂へ行くぞ」
「パワー・ブレックファスト?」
「ああ、すまんすまん。朝飯を食いながらのブリーフィングだ。午後からどうやら演習を始めるみたいだ。早いな」
「ほう」
「内容はまだわからんが、ブリーフィングですぐにわかるだろう」
「そいつはなんと」
「じゃあ、食堂で待っているからな」
マッキンリーはそう言って去っていった。
食堂には様々な現地の料理が並んでいる。だが、イスラム教国らしく、豚肉だけはどこにも見当たらない。朝食にしては随分豪華な感じだが、客人を手厚くもてなす中東圏の文化が如実に現れていた。しかし、奥の壁にはスクリーンが張られ、パソコンと映写機が置かれている。既にアブダビ空軍のパイロットは席についており、傭兵たちはまた別のテーブルが用意されていた。
「それでは、皆さん揃ったようなので、始めます。今日は空対空の戦闘訓練を行います。赤外線誘導空対空ミサイルのキャプティブ弾をそれぞれ装着し、ブルー・フォースを第7戦闘飛行隊が、レッドフォースを"ウォーバーズ"の皆さんが演じます。想定は空爆する攻撃機の迎撃訓練。判定は、攻撃機のストライクイーグル、ホーネット、ファイティングファルコン、ユーロファイターを全滅させたらブルーの勝ち、そのうち1機でも基地上空に到達させたらレッドの勝ちとします。空域はこの基地から、南に890マイル、東西790マイル、高度制限は6700フィート以上とします。何か質問は?」
アブダビ空軍のパイロットの一人が手を上げた。
「どうぞ」
「今回、AWACSもといAEWはどっちの味方なんだい?」
「今回はレッドフォースの味方としますが、演習全体の安全管理も行います。よって、AEW、つまりコールサイン"ゴッドアイ"からなにか特別な指示があった場合は、これに従って下さい。演習が行われている間、当該空域内には民間機が入って来ないよう通達は出ていますが、万が一、やむを得ない状況などにより進入してきた場合は演習の一時停止、または中止の可能性もあります。その場合は、司令部と"ゴッドアイ"との調整によって続行ができるかどうかを決めます」
「なるほど」
「では、スケジュールです。本日の1400時に離陸開始。空域には1415時頃に到達、演習は40分程度ですので、演習終了予定が1455時頃。帰還完了が1515時頃を予定しています。それでは、解散。デブリでまた会いましょう」