Final Option-2
10月23日 0754時 UAE・オマーン国境地帯
CV-22BがAH-64DとUH-60A、CH-53Eの編隊を先導している。レーダーを避けるため、かなり低空で飛行しており、時々、パイロットたちはレーダー警報装置に神経質そうに目をやった。今回の作戦は奇襲であり、攻撃を開始するまで、敵に見つからないようにするのが絶対条件であった。
『"パイソン1"から"アナコンダ"へ。もうすぐ目標地点だ。攻撃準備せよ』
ブリッグズは、GPSの地図と外の様子を交互に見た。黄色い砂漠が広がり、時々、ラクダやアカシカの群れを見かけるが、人間はいないようだ。
「"アナコンダ"了解。朝焼けの空。繰り返す、朝焼けの空」
UAE陸軍の特殊部隊が、一斉に行動を開始した。隠れ場所から出てきて、オマーンの早期警戒レーダーにレーザーを照射する。これは不可視光のため、映画のように緑色の光の筋が伸びたり、赤い光の点が目標の建物の外壁などに映ることは無い。また、敵に無線を傍受されるのを防ぐため、ヘリ部隊からの暗号無線に返事をすることもしなかった。
オマーンのレーダーサイトや国境警備隊の基地が一斉に攻撃を受けた。ヘルファイアミサイルや2.75インチロケットの爆発で、早期警戒レーダーや監視施設が、誰も他の基地に連絡する暇も無く壊滅した。
10月23日 0801時 オマーン国内
UAE陸軍の機甲部隊が、雪崩れ込むように国境を越えた。やがて、彼らは正面に武装勢力の地上部隊の姿を確認した。そこには、オマーン陸軍の制式戦車である、チャレンジャー2の他、T-90や99式G戦車の姿もあった。
レーダーサイトが破壊され、手薄になった空域に航空部隊が侵入を開始した。F/A-18C、F-16CJ、タイフーン、F-15Eは攻撃目標に向かい、F-15C、Su-27SKM、MiG-29Kは輸送機の護衛をする。
『ターゲット確認・・・・・発射!』
シュナイダーのタイフーンから2発のストームシャドウ巡航ミサイルが投下された。目標は、スハール空港の管制施設やレーダー施設だ。巡航ミサイルを2発とも投下すると、タイフーンは目標を対空に切り替えて他の味方機の直衛を始めた。
10月23日 0809時 スハール国際空港
『レーダーに反応あり!目標、2!低空!かなり小さい』
管制官はそう言いながら、空襲警報を鳴らした。サイレンが響き渡り、パイロットが一斉に戦闘機へ走っていく。
ボグダン・マルコヴィッチはSu-57に乗り込む前に、チェ・ジャンギと蒋玲蜂、楊州徳の3人を呼んでこういった。
「いざとなったらわかっているな。プランEだ」
「了解だ、ボス。全員に伝える」
"赤い鳶"のパイロット全員に、緊急時は"プランE"を行うとの通信が行われた。しかし、元オマーン空軍のパイロットや、オマーンでの活動を開始した後にやってきた、単に金で雇われたパイロットには伝えられなかった。
MiG-23やJ-8Ⅱ、JF-17がタキシングを開始した。更にMiG-21やJ-7といった旧式機も続く。マルコヴィッチの部隊は、これまでの戦闘で疲弊していたものの、まだ継戦能力はあった。
10月23日 0811時 オマーン上空
「上がってきたな。蹴散らしてやれ」
スタンリーはレーダーに新たな反応を見つけ、UAEの航空部隊を差し向けるよう指示を出した。F-16Eとミラージュ2000Cの編隊を3つ、新たに現れた敵機へ差し向ける。
「UAE空軍が交戦を開始しました・・・・・敵機1機撃墜。味方1機の反応が消えました」
原田は冷静な声で、戦況を伝える。その隣で、スタンリーは味方機の邀撃コースを頭のなかで組み立てていた。
E-737のコックピットの中で、ハッサン・ケマルとハリー・トムソンは、航法装置やGPS、MFDに映る敵味方の位置データを見ながら、戦闘空域に入ってしまわぬよう、慎重に操縦した。窓の外を見てみると、UAE空軍のF-16Eの編隊が自分たちを護衛しているのが見えた。UAEのパイロットが、こちらを安心させるかのように、親指を立てる。ケマルも返事代わりに、パイロットへ親指を立てて見せた。
「もうすぐ目標地点だ。降下用意」
C-17Aの機内で、UAEの空挺部隊の隊長が隊員へ最終チェックをさせた。兵士たちが、パラシュート、銃、無線機の点検を始める。クリス・ミッチェルとスティーヴン・コールがカーゴランプの操作を始めた。扉が開き、機体後部の床が下がり、強烈な風が機内に吹き込む。
「降下10分前!」
ハワード・コーベンとジョン・グラントは、飛行コースを再確認した。今のところ、対空攻撃は無く、作戦は順調に進んでいる。
「お前らはなんだ!?飛ぶ以外、何も取り柄の無いへなちょこか!?」
「「「俺たちは最強!俺たちは最強だ!」」」
空挺部隊の隊長の檄に対して、隊員たちが一斉に決まった返事をする。これは、彼らの出撃前の儀式のようなもので、訓練だろうと実戦だろうと、同じことが繰り返される。
「よし!お前たちは最強部隊だ!それならここから飛び降りろ!」
「「「俺たちは最強!俺たちは最強だ!」」」
彼らはそうやって自分たちを鼓舞し、士気を高めた。




