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鹵獲物

 10月17日 1101時 アブダビ アブダビ国際空港


 今朝の海上での戦闘とは打って変わって、UAE国内は静かになった。押収物は海軍が回収し、分析のためフジャイラ基地へと運び込まれた。調べてみたところ、中身はFH70、T-72M2、99式G主力戦車(MBT)、05式水陸両用戦車、Mi-24D攻撃ヘリ、UH-60A汎用ヘリ、MiG-29M、F-16CJ、トーネードIDS、Su-27など傭兵の間では売れ筋の兵器が大量に出てきた。殆どのものはUAE軍が証拠品として保管することになったが、MiG-29KとF-16CG/CJ、Su-27SK、CH-53E、AH-64Aは部品取りとして、スタンリーがちゃっかりと"ウォーバーズ"が使用している区域に運び込んできた。どんな交渉の手を使ったのかは、この傭兵部隊の司令官は最後まで話すことは無かったが、部下たちは知る必用はなさそうだと判断して、それ以上の詮索はしなかった。

 捕虜の尋問が進むに連れて、敵の正体が少しずつ、明るみに出てきた。どうやら、旧東側の亡霊らしく、共産主義思想に被れ、今でも世界的な革命を起こそうと画策している連中らしい。東欧諸国や北朝鮮、中国出身者や南米の左派ゲリラなどが主体となっており、驚いたことに、毛沢東主義を掲げる者やポル・ポト派を"信仰"する者までいるらしい。しかし、情報が断片的だったので、その全体像を掴むまでには至らなかった。


 F-16Eとミラージュ2000Cが2機ずつ、爆音を立てながら離陸していく。相変わらず24時間体制のCAPは続いており、約3時間毎に戦闘機が離発着している。その間、押収した武器の足取りを辿る作業が、軍の情報部を中心に続けられた。


 スタンリーはマグワイヤと高橋に、手に入れた航空機の部品の分析をさせた。二人が調べた所、ほぼ正規品と変わらないほど高品質なもので、よほど高度な技術がないと、まともに生産できないようだ。また、中の電子部品も最新のものであり、これらを―――特に、極秘裏に―――生産しているとしたら、その闇工場はかなり高度な技術を持っていることになる。

「いやいや、こいつは驚いたな。これなら、俺らがいつも飛行機の部品を買っているスウェーデンやフィンランドのメーカーのものだと言われても、パッと見だけでは区別できんぞ。一体、どこのどいつが、こっそりこんなものを作れるんだ」

 マグワイヤは分解された、鹵獲したSu-27SKのエンジン構造を調べながら言った。彼ほど戦闘機を整備したり、組み立てたりする作業の経験があれば、純正品(か、それに限りなく近い程高品質なコピー品)と粗悪なコピー品の区別くらい、簡単にできる。

「おまけに、このアパッチのTADSSもIHADSも、コピー品とは思えない。まるで完璧だ。俺はハッキリ言うが、こいつをシモンとデイヴのヘリにスペアパーツとして使うとしたら、全てにおいて保証できると断言できるね」

 高橋は鹵獲パーツから組み立てられたAH-64Dにパソコンを繋ぎ、ソフトウェアやアビオニクスのコンポーネントを調べていた。全く問題は無く、正常に動くようだ。彼らは一度、テロリストがこちらに粗悪な部品や、ウィルスの仕組まれたアビオニクスを使わせるための罠だとずっと疑って調べていたが、どうやら本当にテロリストが使うために手に入れた、完璧な製品だと結論を出した。

「やあ、お疲れさん。ちゃんと休んでいるか?」

 格納庫からボスが顔を覗かせた。

「昨日はタップリと寝ましたよ。これは今朝から始めただけですよ」

「ふむ。結論は出そうか?」

「全部完璧。純正品と変わりません。使っても問題無いでしょう。部品に爆薬も無いし、電子機器にウィルスも仕込まれていないです」

「ふむ。君らのお墨付きが貰えるなら、喜んで利用させてもらおうじゃないか」


 10月17日 1107時 オマーン某所


 先日の輸送作戦の指揮官は、頭から出る冷や汗を止めることが出来なかった。敵に全ての武器を奪われた挙句、そのせいで戦力を増強されてしまったのだ。

「さて、前回の作戦だが・・・・起きてしまったことは仕方がない。だが、誰かが責任を取らねばならない。少なくとも、私はコソボではそういうやり方をしていた」

 ボグダン・マルコヴィッチは冷ややかな目で彼を見ていた。隣には、輸送作戦を立案した作戦副部長が立っている。

「勿論、私だってそのようなリスクは知っていた。が、現場であらゆる柔軟な対応をして、作戦を成功に導かねばならないのは現場での隊長だ。残念ながら、彼は降伏してしまい、今では敵の捕虜だが」

 マルコヴィッチは作戦副部長を見た。彼の方も、指揮官をまるでナメクジを見るような目で見下ろしている。

「そこでだ。変わりに、誰かがこの落とし前を付ける必要がある」

 マルコヴィッチは、机の引き出しからCz-75を取り出してスライドを引き、撃鉄を起こした。そして、作戦副部長の頭に銃口を向けて、引き金を引く。ズドン!


 作戦副部長の左側頭部に9mmハイドラショック弾がめり込み、即死させた。指揮官の方は、唖然となって死体を見ているだけだった。 

「君はこの作戦を、敵が飽和攻撃をしてきた場合、防御できる保障は無いと奴に進言したそうだな」

「は・・・・はい」

「それで、全てを海上輸送せずに、一部を陸上、航空と分散して運ぶようにとも」

「そ、そうです・・・・しかし」

「奴はそれに反対した。貨物船にVTOL機を載せておけばいいと」

「はい」

「なるほどな・・・・。こいつの後任を早く決めないとな・・・・・」

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