リスタート-4
10月14日 1521時 UAE上空
まだ"敵機"の機影を捉えてもいないにも関わらず、UAE空軍の新米パイロットは自機のF-16Eの事故防御システムが警報を鳴らし始めたのでたじろいだ。既に敵がレーダーの照射を始めているらしい。
「敵がロックしてきた!ブレイク!ブレイク!」
若い少尉はアフターバーナーに点火して旋回し、敵から逃れようとした。他の戦闘機は2機ずつ、組になって回避機動を取る。セオリー通りのやり方だ。だが、まともに追いかけてきたのはラッセルとロックウェルが乗るF-15Eだけで、F-15Cはそのまま離れていき、ユーロファイターとSu-27SKMに至っては、更に高度を上げて、高みの見物をするかのような動きを見せた。
UAE空軍の少尉は、その動きに一瞬どころか、数秒、気を取られて部下への指示が遅れてしまった。だが、すぐに狙いを付けられそうなF-15Eを2番機とともに追いかけ、3番機、4番機には高度を取った"敵機"の追跡を指示した。
UAEの3番機のパイロットは、4番機がしっかり付いてきているのを確認した。フランカーの後ろ姿がだんだんと小さくなっていた。推力に差があるため、これ以上ついてくのは不可能だと判断し、後ろに注意を払いながら、高度を下げていく。やがて、下に2機のF-15が見えたため、そちらの方を追うことにした。
「スワン3よりスワン4へ。下のF-15をやるぞ」
『4了解。フランカーとタイフーンはどうする?』
「後回しにしよう。但し、後ろには気をつけろよ」
2機のF-16Eは高度を下げ、イーグルを追い始めた。が、そのせいで後ろへの警戒がやや疎かになった。
10月14日 1526時 UAE上空
コルチャックは雲の中を暫く飛び続け、レーダーとIRSTで周囲の様子を確認した。"敵機"のF-16はアフターバーナーを使っているのか、IRSTの画面で丸見えだった。
「"ウォーバード4"から"ウォーバード7"へ。敵機発見。12時方向だ」
Su-27SKMのブラウン管画面に、白黒のF-16Eの画像が浮かび上がった。レーダー画面には、"UNKNOWN"の文字が表示される。
「ロックオン・・・・・Fox2」
コルチャックはR-27T1を"発射"した。ミサイルを"撃たれた"F-16EのパイロットはECMを作動させ、チャフを撒いた。が、このミサイルは中射程ながら赤外線誘導のため、模擬戦用のソフトウェアは"ミサイルを妨害し、回避した"という判定は下さなかった。UAEのパイロットは混乱しながらも、回避機動をとった。が、このパイロットは"撃墜"されてしまった。
ロックウェルはしつこく追いかけてくるF-16Eを見た。ラッセルはバレルロールをした後、インメルマンターンとハイレートクライムでかわそうとする。が、F-16のパイロットは無闇に追いかけようとはせず、遠巻きに様子を見た。ロックウェルはこれを見て、こっちからは仕掛けずに、相手の動きにあわせて攻撃を仕掛けるのが最善の方法だと判断した。機体を左右に振りつつ、一旦、"敵機"から離れた。すると、F-16Eは諦めるつもりは無いのか、アフターバーナーに点火して追いかけてきた。
『こちらウォーバード4、厄介事か?』
コルチャックがラッセルに無線で話しかけてきた。その口ぶりからすると、かなり余裕があるようだ。
「援護を頼む!こいつ、しつこい!」
ラッセルはF-15Eを何度も急上昇、急降下、急旋回させた。アフターバーナーを限界時間ギリギリまで使わざるを得ないため、そろそろ余裕がなくなってきた。
『任せろ!』
コルチャックは既にレーダーでF-16FとF-15Eを見つけていた。ファイティング・ファルコンがストライクイーグルに、まるでブルドッグのように食らいつこうとしている。だが、この様子だと、UAEのパイロットは背中に対する注意がお留守になっているようだ。どう見ても、目の前の獲物だけに神経を集中させ、後ろから敵機が来ることに対して警戒している様子は無い。そこで、ラッセルには、雲の中に突っ込むように指示した。
UAEの若い少尉は、酸素マスクの下で舌なめずりをした。傭兵のF-15Eは、もうすぐサイドワインダーの射程内に入る。AMRAAMも"残って"いたが、それでは面白くない、と思った。いや、待てよ。これだと機関砲でも撃墜できるのではないか?それだ。それがいい。ガンキルができれば、同期にも自慢できるし、何よりも次の獲物に使うミサイルを節約できる。お前らがやられている間、こっちは何機落としたか知っているか、と吹聴できる。そこで、アフターバーナーに点火し、ストライクイーグルまでの距離を一気に詰めた。
ラッセルはコルチャックの指示する通りに飛んだ。そのまま真っ直ぐ、雲の切れ目を目指して。敵機に無防備な背中を見せるように。
少尉はストライクイーグルとの距離をどんどん詰めていき、雲の中から出てすぐに、ついに機関砲のピパーに機体を捉えた。そして、口を開いた。
「フォッ・・・・」
『Fox3!Fox3!』
その宣言と同時に、少尉のF-16Eの全てのMFDに"YOU WERE KILLED"の赤い文字が点滅して表示された。何事かと思い、一瞬、思考が停止する。すると、Su-27が自分の後ろから猛スピードで追い越していくのが見えた。




