リスタート-3
10月14日 1511時 UAE上空
F-15C、Su-27SKM、F-15E、ユーロファイターの4機が編隊を組んで飛行している。佐藤たちは、操縦資格を得たばかりのパイロットに対する空戦訓練での対抗部隊役をUAE空軍のお偉いさんから仰せつかった。特に、佐藤は航空自衛隊で飛行教導群に所属していた経験があり、スタンリーから直々に対抗部隊役にはうってつけだと売り込まれたのだ。確かに、佐藤は飛行教導群にいた頃、F-15DJでほぼ完璧に―――機体の特性上、どうしても不可能な部分は除いて―――Su-27の動きをコピーしたことがある。それを見た、小松基地に移転訓練にやってきたアメリカ空軍のパイロット―――そのパイロットは、インドネシア空軍のSu-27やSu-30とDACTを行った経験があった―――から"パーフェクト"と言われたのだ。
『アブダビタワーより"ウォーバード1"へ。そろそろ会敵時刻です』
無線から原田の声が聞こえてきた。今回の訓練では、原田とリー・ミンが佐藤たちの邀撃管制官を務めることになった。一方で、訓練生側の邀撃管制官はUAE空軍の兵士が務めている。
「了解、アブダビタワー。ROEはブリーフィング通りで。変更は無いか?」
『ありません』
「了解だ」
訓練生が乗る4機のF-16Eは、まだ対抗部隊をレーダーに捉えていなかった。が、邀撃管制官からは傭兵部隊の状況の報告は受けていた。訓練生たちの総飛行時間は、平均して500時間程度であり、総飛行時間3000時間以上にもなる"ウォーバーズ"のパイロットに比べたら経験の差が大きい。が、この基地の司令官は、彼らに世界でもトップレベルのパイロットの腕前を経験させる調度良い機会だとかなり乗り気であった。
「いいか。相手は経験豊富な傭兵だ。絶対に気を抜くな全機、交戦を許可する」
訓練生の飛行隊長を務めるサイード・ハッサン・ナジブ中尉はこの編隊の中で最も階級が高く、また年長者でもある。
「邀撃管制官の言うことをよく聞いて行動しろ。戦術は・・・・ブリーフィング通りに。ROEをしっかり守るように」
10月14日 1513時 UAE上空
今回はそれぞれの戦闘機は増槽1本と、赤外線誘導ミサイルのキャプティブ弾を1基搭載している。レーダーモードの中距離空対空ミサイルシミュレートの使用は禁止、フレアは使用可能、武器は短距離空対空ミサイルと機関砲のみというROEの、ドッグファイトを念頭に置いた訓練だ。コルチャックのSu-27SKMが先にレーダーで"敵機"を捉えたらしく、F-15Cコックピットにレーダースコープ画面の代わりに設置されたMFDに、"Target Out Range"という文字が表示される。これは、まだAAM-4BやAIM-120の射程に入っていないことを示している。佐藤は自機のレーダーモードを中距離探知モードから短距離交戦モードに切り替えた。どっちにしろ中距離で交戦することは無いし、"敵機"の探知はデータリンクで十分だった。
コルチャックはレーダーを遠距離交戦モードのままにしておいた。自分の役割は、遠距離で捉えた目標のデータを視界内交戦距離に入るまで味方に送り続けることだ。が、その役割もすぐに終わるはずだ。
10月14日 1516時 アブダビ アブダビ国際空港
元々、空港の管制室だった部屋は、今ではこの国の防空を司るオペレーション・ルームとなっていた。"ウォーバーズ"のゴードン・スタンリーらには4つのコンソールが与えられ、空中戦の指揮を取れるようになっていた。スクリーンの1つには訓練空域の様子が映しだされ、緑がUAE空軍、黄色が"ウォーバーズ"の戦闘機を表示している。もう一つのスクリーンは、UAE上空を飛んでいる航空機全般が映しだされている。が、今は、物資の輸送に来るPMCの輸送機、CAPで飛行するUAE空軍の戦闘機、そして訓練を行っている航空機しか映し出されていない。現在は、民間機の飛行が原則、禁止されているため、他の航空機が入ってくるとしたら、それは敵機を意味している。
「"ウォーバード1"、敵機は距離140マイル、方位078、高度エンジェル13。マッハ1.1で接近中。あと4分で交戦距離です」
原田は極めて冷静に"敵機"の動きを読み、味方に適切な指示を与えている。彼女は、戦場全体を俯瞰して見る能力に非常に長けており、それは戦時航空管制での場にはとどまらなかった。"ウォーバーズ"の隊員の中で、彼女にチェス、将棋、または大戦略やファミコンウォーズで勝った者はいない。
「"ウォーバード4"、"ウォーバード1"の援護位置についてください。高度を1500フィート上げて、50マイル左斜め後方の位置を保ってください。"ウォーバード6"と"ウォーバード7"は高度26000フィートで待機しつつ、敵機の動きに注意して行動してください」
10月14日 1519時 UAE上空
佐藤はアフターバーナーを短時間だけ燃焼させ、F-15Cの高度を上げた。後ろから僚機のSu-27SKMがピッタリとついてくる。レーダーを見てみると、"敵機"は編隊を保ちながらこちらの動きについてくる。一方、ストライクイーグルとタイフーンは編隊を解いて、少しずつ距離を離していく。
『"ウォーバード4"より"ウォーバード1"へ。敵を捉えた。データリンク開始』
コルチャックのSu-27SKMが搭載しているレーダーは、恐らくは戦闘機に搭載されるもので、最も探知距離が長いものの一つだ。正確には明かされてはいないが、低RCSの目標であっても最大で400kmの距離から探知可能とされている。Su-27SMは捉えた遙か遠くの"敵機"の正確なデータを味方機に送り始めた。




