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リスタート-2

 10月14日 0631時 アブダビ アブダビ国際空港


 エプロンと空港外周地区にホーク対空ミサイル、ZSU-23-4、PAC-2、ゲパルト対空機関砲、ZSU-23、VADSが並び始めた。おまけに、どこのメーカーが生産したのか、調達中止になって実戦配備すらされなかったはずのM247サージャントヨーク自走対空機関砲まである。スタンリーが調べた所、ロシアやイスラエル、サウジアラビアなどに、試作されたものの結局採用には至らなかった兵器のデータを手に入れて、生産してPMCや諸外国の軍に納入している企業があるようだ。これらのメーカーが生産している商品のリストには、RAH-66コマンチやスティングレイ、チョールヌイ・オリョール、Yak-141、ラビなど今では幻となった兵器が目白押しだ。しかも、想像に反して、これらの兵器の売上は上々だという。一体、どこの国やPMC、傭兵組織がこんなものを欲しがるのか、と不思議に思えてくる。が、このようなメーカーを利用する連中には、正規品を買えない事情があるのは確かだ。

 エプロンから梱包された戦闘機の部品がハンガーへ、ミサイルや爆弾が急ごしらえの弾薬庫―――と言っても、運送会社の倉庫にすぎない―――へと運び込まれていく。ハンガーの中では、作業員たちが戦闘機の生産ラインとは程遠い状態の格納庫の中で組み立てを開始していた。部品自体は、それぞれがある程度形になった状態でやってくるため、後は最終組み立て/チェック(FACO)さえすれば済む状態になっている。


 空港の中で一番大きな格納庫の内部は、戦闘機の組み立て工場と化していた。組み立て途中のF-16が数機並び、すぐ外では組み立てが終わった機体の塗装作業が始まっている。組み立て作業を行っているのは、兵器メーカーから派遣されてきた技術者だ。近年、兵器の需要が高まっているせいか、生産元メーカーでは特に、PMC向けと正規軍向けの両方を対象にした生産ラインを確保するのが難しくなっていた。そこで登場したのが、正規メーカーと契約を結んで兵器をノックダウン生産やライセンス生産するメーカーだ。これらのメーカーは、正規メーカーの監査の下、兵器を生産してPMCや傭兵組織へ納入している。勿論、これらのメーカーが生産するものにはライセンス料やロイヤリティが単価に上乗せされるが、大量生産によってそれを押し下げられているというメリットがある。これによって、兵器を売る側と買う側に、まさにWin-Winの関係ができあがっていた。しかし、これらの話は、あくまでも主に西側諸国での話であった。


 10月14日 0653 アブダビ アブダビ国際空港


 ムスタファ・アル=カディーリは戦力の立て直しの進捗に満足していた。大きなハンガーから組み上がった戦闘機やヘリが次々と外に運びだされて行く。今のところ、UAE政府としては、先の戦闘で失った航空機と同数よりも若干多めに生産を依頼しているようだ。確かに、戦時下であるため、こういった兵器が多く必用なのは確かだ。その傍ら、ホーク練習機と複座のF-16D、F-16F、ミラージュ2000Dが次々と離陸していき、更にA330MRTTも3機続く。不足しているのは機体だけではなく、パイロットも同様だった。そこで、まずは海軍と空軍の兵士のうち、23才以下、階級は3等軍曹以下という条件に当てはまる全て兵士にパイロットの適正テストを行うことになった。この条件に適う兵士を、まず1600人見つけることが出来た。その兵士を更に厳選した結果、80人の候補生が残った。そして、今、彼らには実際の戦闘機を使った訓練の中期段階の科目が与えられていた。


 10月14日 0659時 UAE上空


 F-16Fの後席で、ジェイソン・ヒラタは自分と一緒に乗っている20歳の訓練生の教官を務めることになった。ベテランパイロットが数多く戦死した結果、教官となる人間が不足してしまい、ムスタファ・アル=カディーリが直接、アメリカ空軍での教官資格も持つヒラタに訓練生へのトレーニングを依頼したのだ。だが、実戦部隊での経験しか無いヒラタにとっては、実戦部隊で―――既にF-16の操縦資格を修得した―――後輩パイロットを教える事はあっても、これから操縦資格を得ることを目指す新米の面倒を見るのは、これが初めてだった。


 ヒラタは暫く静かに、自分よりも10歳ほど若いパイロットの操縦を観察した。悪くは無いが、どこかぎこちない。まだ今まで乗っていたホークとの、特に推力と機動性の違いへの戸惑いが消えていないようだ。

「ムハンマド。君がこれでの飛行時間はどれくらいだ?」

「ええと・・・・・これに乗り始めて、今日で10日目なので、16時間程度です」

「1日に1時間のフライトを1、2回程度か。今日からはそうもいかんぞ。まず、このフライトでは編隊飛行に加えて、空中給油もやってもらう」

「ええと・・・・シミュレーターでやったことはあるのですが・・・・」

「いずれ身につけなきゃならない技術だ。なあに、オペレーターの言うことをよーく聞いて、その通りに飛べばいい」

 ヒラタは後ろのF-16Fを見た。2番機のパイロットは自分が担当している訓練生に比べて、更にぎこちない感じだったので、今頃、コックピットの中で、教官から口うるさく小言を貰っている頃だと思った。

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