リスタート-1
10月14日 0556時 アブダビ アブダビ国際空港
アブダビ国際空港は、かつてはドバイ国際空港と並ぶUAEの玄関口として栄え、多くの旅客機やビジネスジェットが離発着していた。更に、チャーター専門の航空会社がエプロンとターミナルの一部を占有し、多くの世界的な大富豪が利用していた。しかし、戦時下である現在では、国際便の旅客機の姿は消え、代わりにUAE空軍のF-16やミラージュ、そして傭兵部隊の色とりどりな航空機が並び、貨物ターミナルには無骨な軍用輸送機が並び始めた。殆どの航空機は退避させることに成功したが、E-737ウェッジテイルという、戦場を見下ろす"目"を失ったというのは、かなりの大損害だった。
昨日の襲撃から一夜明け、ゴードン・スタンリーはE-737を除く航空機と全ての人員が無事なのを確認すると、早速、体制の立て直しを始めた。幸いにも、チャーター便運行会社が使っていたターミナルとエプロン、格納庫、運送会社の倉庫の一部を占有する許可が下りたため、場所の確保には事欠かなかった。滑走路の端の方に目をやると、地平線の向こうから、大きな飛行機がゆっくりとアプローチしてくるのが見えた。やがてそのC-17Aはこの日最後のピストン輸送を終え、滑走路に着陸した。後ろからはKC-10Aが追ってくるのが見える。ハワード・コーベンらC-17Aのクルーたちは、アブダビ国際空港に拠点を移してから、夜通しディエゴガルシア島から必用な物資を送り届けてきた。空中給油機のクルーは、交代でフライトしていたものの、約10時間もの間、インド洋の小さな島とUAEを往復し続けたのは、かなり骨が折れたはずだ。
エプロンで駐機した輸送機のカーゴランプが開き、コンテナに梱包された物資をローダーが下ろし始めた。ロードマスターであるスティーヴン・コールとクリス・ミッチェルが、地上の作業員に指示を出す。夜通し作業をしていたせいか、彼らの目の下には大きな隈ができていた。
スタンリーが作業を終えた輸送機に近づいていった。既にコールとミッチェルは宿舎に向かっており、機体の周囲では、ハワード・コーベンらパイロットと整備員が降機チェックをしているところだった。
「やあ、お疲れさん。それが終わったら、ゆっくり休んでくれ」
「これは堪えましたよ。後で報酬はずんでくださいよ」
副操縦士のジョン・グラントはゲータレードを飲み干して、ボスにやや抗議するように言った。
「流石に輸送機2機は厳しかったか。チャーター便も手配しておいてよかったよ。だが、タンカーのうちどっちかは急な事態に備えておかなきゃならんのだよ」
「わかっていますよ。全部使ってしまうのは、かなり無理がありますからね」
今回はC-17Aに加えて、KC-10Aに貨物を積み込ませて輸送機として利用した。KC-135Rの方は給油機として同行していた。やがて、Su-27SKM、ユーロファイター、F-15C、F/A-18Cが編隊を組んでオーバーヘッドアプローチを行い、1機ずつゆっくりと着陸した。戦闘機には、それぞれ3本の増槽が取り付けられ、空いたパイロンには、空対空ミサイルがフル装備されている。
「彼らも今日は堪えたでしょう。今日はここで休んで、明日、基地に帰ります」
「ああ、それがいい。そうしてくれ」
10月14日 0611時 アブダビ アブダビ国際空港
Il-76やC-130、B747-8Fなどが兵器類、戦闘機のパーツ、その他資材をエプロンに下ろし始めた。これで当分の間は戦うことができる。これらはフィンランドの軍用機生産メーカーから手に入れたものだ。装備品を失ってからのスタンリーの動きは早かった。考えられる限りのコネやネットワークを駆使して、必用なあらゆるもの―――機体、兵装、燃料、資材―――の調達を始めた。だが、E-737だけは予備機のテストにやや時間がかかりそうだった。そこで、ディエゴガルシア島への定期便にパイロットであるハッサン・ケマルとハリー・トムソンを向かわせ、テストフライトを行わせた後、護衛機と共にフェリーさせることにした。
スタンリーは地上クルーが資材を自分たちにあてがわれた格納庫や倉庫へ運び込むまで様子を見ていた。着陸した護衛機がエプロンへタキシングを始めた。パイロットたちは、ようやく休息を得ることができそうだ。それと入れ替わるように、UAE空軍のF-16とミラージュ2000が4機ずつ、CAPのために離陸する。UAEもまた、ここ数週間の戦闘で失われた戦闘機やヘリなどの調達を行っていた。これにはスタンリーが直接、空軍の司令官にUAE空軍が使用している戦闘機の調達ルートを紹介した。F-16やミラージュ2000、MiG-29あたりならば、特にヨーロッパのメーカーが安価に大量生産しているため、誰もが簡単に手に入れることができる。F-15系統やSu-27系統、または第4.5世代機となると、調達へのハードルは―――金額的な意味で―――やや上がるものの、不可能では無い。だが、第5世代機となると、F-22Aは絶対に手に入らないし、F-35でも、傭兵組織やPMCに―――例え、アメリカやその同盟国、NATOのために働いていたとしても―――アメリカ政府は売ることを許可していない。ここで問題となったのは、シュナイダーの乗るユーロファイターだった。探しても探しても、裏ルートで部品と機体を手に入れるルートが見つからなかった。そこで、シュナイダーに訊いてみたところ、なんと生産している会社がPMCや傭兵組織、または個人と直接取引しているのだという。予想外の答えにスタンリーは戸惑ったが、なんとかこの戦闘機のスペアパーツを大量に手に入れる算段をつけることはできた。




