壊滅
10月13日 1542時 UAE上空
『ウォーバード各機へ、こちら"カンガルー"。可能な限り交戦を避け、これから指示する方向へ行け。繰り返す』
無線からC-17Aのパイロットであるハワード・コーベンの声が突然聞こえてきたので、"ウォーバーズ"のパイロットは目を白黒させた。
『"カンガルー"よりウォーバード各機へ。交戦を避け、これから指示する方向へ行け。繰り返す・・・・・・』
「"ウォーバード1"より"カンガルー"へ。一体何が・・・・?」
『いいから命令を聞け。敵との交戦を避け、今から言う場所へ向かえ』
「了解"カンガルー"。ウォーバード各機、我に続け」
佐藤たちが暫く飛んでいると、KC-10AとKC-135R、C-17Aが大きく間隔を空けた編隊を組んで飛んでいた。さらに、C-17Aのすぐ後ろを、S-3Bがコバンザメのように飛行している。すかさず護衛する編隊を組み、周囲の空域を警戒する。
「"カンガルー"、一体どうしたんだ?どうしてこんな・・・・」
佐藤は驚きの声を上げたが、すぐに仲間たちに護衛の体制に入るように命じた。
『"ウォーバード"各機へ。こちら"カンガルー"まずは我々の護衛を頼む。今からデータリンクで目的地を指示する。それと、給油が必要なら、すぐに言ってくれ』
「了解だ"カンガルー"。"ウォーバード1"より"ウォーバード"各機へ。輸送機を護衛しつつ、周囲を警戒せよ」
10月13日 1546時 アル・ダフラ基地
「空対地ミサイル接近!」
「SAM発射!」
残った古参の兵士たちが、ホークミサイルを続けざまに発射させた。ミサイルは赤い炎と白い煙を吹き出して、やや日が傾き始めた空へと飛んで行く。発射機が空になると、ミサイルの弾体を乗せたローダーがすぐに近づいてきて、装填を開始する。
「敵機接近中!」
「来るぞ!各自、弾着に備えろ!」
Su-24やJH-7から発射された空対地ミサイルが基地を襲った。まず、Kh-55が数発、格納庫と弾薬庫に着弾し、近くにいた兵士全員を瞬殺した。更に、KD-88が続けざまに滑走路、エプロン、宿舎に命中、爆発する。
「クソッ、ダメだ!退避!退避!」
周囲には炎上した車両や機材、黒焦げた死体が散乱し、燃料、火薬、そして人体が焼ける、なんとも言えない異様な匂いが漂い始めた。が、誰もそれを気にしている余裕は無かった。
「負傷者を運び出せ!」
「使える車は全部使え!」
「重傷者を優先して乗せろ!歩ける奴は歩け!」
「隊長は・・・・・。隊長はどこなんだ・・・・」
「隊長は死んだ!俺が代わりに指揮を執る!」
大きな爆発音が響き、格納庫の屋根が吹き飛ぶ。更に、ターボジェットエンジンの音が重なって聞こえてきた。攻撃の第二波だ。
「ミサイルだ!」
「伏せろ!」
負傷者を乗せて炎上する滑走路を走っていたトラックが直撃を受け、大爆発を起こした。負傷者を支えていた空軍曹長が顔を上げると、上から千切れた左腕と頭、そして肉片が降ってきた。
「クソッ!」
軽傷で済んだ者は皆、重傷者を支えたり抱えたり、背負ったりしながらトラックやハンヴィーの方へ向かっていった。が、彼らの希望は次なる攻撃で打ち砕かれた。
10月13日 1550時 アル・ダフラ基地
ミラージュF-1とシュペル・エタンダールの編隊が、滑走路のすぐ上を飛びながらデュランダル滑走路破壊爆弾を投下していった。この爆弾はパラシュートで減速した状態で空中をふわふわと漂った後、後部のロケット・モーターに点火して、猛スピードで落下し、滑走路のアスファルトを貫通し、少し浅めにめり込んでから爆発した。JH-7とQ-5がType81-DPICMとAO-2.5RTMなどのクラスター爆弾を投下していき、追い打ちをかけた。
小爆弾が地表で連続した爆発を起こし、殺傷範囲内の車両、航空機、機材、兵士などを全て破壊し、殺傷した。建物は全壊または半壊し、滑走路は穴だらけになり、基地機能は完全に失われた。
10月13日 1602時 UAE上空
ボグダン・マルコヴィッチは炎上する敵の航空基地の近くを飛んだ。彼の周囲には、当たり前のように仲間が乗ったJ-10Bが編隊を組んでいる。少し高度を落として、地表に近づいて、滑走路の直上をフライパスする。そして、今度は着陸速度で、かなりゆっくりとローアプローチを行った。そして、エプロンに壊れた航空機が殆ど無いことに気がついた。
『ボグダン、どうした?』
マルコヴィッチは蒋玲峰の言葉を無視し、黙ってもう一度、Su-57を低速・低空で滑走路上をフライパスさせる。エプロンの方をじっくり眺める。
「飛行機の残骸が殆ど無い。どこへ行った?」
『あれだけのミサイルを撃ちこんで、空爆もしたんだぞ。残骸しか残っていないはずだ』
「使ったのは通常爆弾だけか?化学剤や細菌は使っていないな?」
『そうだ。お前が指示しただろ。高性能爆薬以外は使うな、と』
「後で地上部隊を送り込め」
『何?』
「聞こえただろ。地上部隊を送り込んで確認しろ」
『どうする気だ?』
「死体、兵器の残骸、その他全てを調べろ。この基地に元々あった戦力を知りたい」
『・・・・・わかった。ヘリボーン部隊を送り込む』
マルコヴィッチは最後に、基地の上空で円を描くように飛んでから、基地へと戻っていった。そして、この基地に対する彼の疑念は消えることはなかった。




