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演習と情報

 ディエゴガルシア島 10月2日 1439時


 戦闘機が一斉にタキシングを開始した。一列になってマーシャラーの合図を受けてから誘導路を進み、滑走路の(エンド)へ向かう。

『ディエゴガルシアタワーより、ウォーバード1、2離陸を許可します』

「了解、ウォーバード1、離陸」

『ウォーバード2、離陸』

 F-15CとF-16CJが編隊(セクション)で離陸した。異機種編隊で離陸するのは難しい技だが、彼らは難なくそれをこなした。

『続いてウォーバード6、ウォーバード7。離陸を許可します』

F-15Eとタイフーンは1機ずつ、4秒ほど時間を開けて離陸した。続いて、ホーネットとロシア製戦闘機2機が上がり、最後にKC-10が飛んでいった。


 傭兵たちは予め決められた編隊に分かれた。F-15Cと15E、F-16、F/A-18が北西から、MiG-29、Su-27、タイフーンが南東からそれぞれ編隊を組んだまま正面を向き合うようにしてお互いの方向を目指す。やがて、お互いの機影が見えてきた。そして、時速約930kmですれ違う。ファイツ・オン!


 佐藤はまずは新人の腕前を見ようと考え、タイフーンを追った。だが、シュナイダーはそれに気づき、インメルマンターンでかわした後、急上昇した。佐藤はその動きに舌を巻いた。タイフーンがかなりの運動性能を持っていることは知っていたが、実際にどれほどのものかは見たことがなかったのでわからなかった。だが、今の機動を見ただけで、タイフーンが想像以上の運動性を持っていると確信した。周りを見ると、ヒラタが駆るF-16はSu-27に追いかけられているのが見えた。しかし、援護に向かう余裕は無く、目の前のヨーロッパ製戦闘機を追うことに集中した。


 コルチャックはF-16を機関砲のピパーに捉えた。だが、F-16はスピードを落とすとゆっくりとやや右寄りに機首を向けてロールし始めた。スロー・ロールという機動で、速度を落としながら左右どちらかに寄りながらロール機動をする。普通ならば、追いかけてきた敵機がそれに釣られて同じ機動をしようとするが、それが罠だった。F-16は減速しながらフランカーの下に潜り込み、真後ろの位置についた。形勢逆転である。レーダーでロックして「Fox2」を宣告する。"撃墜"されたSu-27は空域から離脱していった。


 一方、コガワのF/A-18Cは苦境に立たされていた。MiG-29が後ろから追いすがり、食いついて離れない。左に旋回すると、ファルクラムはスピードを上げて接近し、機首をこちらに向けてくる。

『Fox3』

ガンキルだ。やられた。ホーネットは左右に大きく翼を振ると、そのまま基地へ向かう。


 タイフーンはいつの間にかF-15Cの後ろに現れた。佐藤はアンロード加速で逃れたが、すぐにシュナイダーはスプリットSで形勢逆転を避ける。タイフーンのクローズカップルド・デルタ翼は高い運動性を発揮するが、イーグルも負けてはいない。2機の戦闘機は"シザース"と呼ばれる機動を繰り返し、激しいドッグファイトを展開した。前方視界にタイフーンを捉えたかと思ったら、いつの間にか後ろから追われている。攻撃側と防御側が目まぐるしく入れ替わり、青空に複雑な飛行機雲を描く。だが、シュナイダーにとっては横槍、そして佐藤にとっては助っ人となるF-15Eが飛び入りしてきたのだ。ラッセルとロックウェルは2人乗りというストライクイーグルの特性を最大限に発揮した。ロックウェルが的確な指示を出して、ラッセルに要撃コースを伝える。タイフーンはイーグルを追いかけるが、そうすると背中に隙が出来てしまい、ストライクイーグルにシュートチャンスを明け渡す事になってしまう。シュナイダーは追跡を諦め、アフターバーナーに点火して愛機を急上昇させて逃れた。だが、2機のイーグルは全く諦めること無く追ってきた。だが、タイフーンの方も負けじと逃げようとする。そんな中、イーグルの後ろからファルクラムが飛んできた。6時の方向(デッドシックス)を見張ることに集中していたロックウェルが警告の声を上げた。ラッセルは"敵機"の追跡を佐藤に任せると、反転してMiGの要撃に向おうとした、だが、カジンスキー機はその動きにすぐに対応した。落ち着いてストライクイーグルに狙いを定める。


 ディエゴガルシア島 10月2日 1459時


 戦闘機がバトル・オブ・ブリテンばりの模擬空戦を演じている頃、1機のB737-700が滑走路に着陸した。この機体にはオーストラリア空軍のラウンデルが描かれている。日本、マレーシア、インドを訪問していたオーストラリア空軍のカート・コンウェイ中将がスタンリーに会いに来たのだ。だが、半同盟関係にある軍の将軍の来訪とはいえ、部外者であることには変わりないので、将軍は武装した警備兵4人から出迎えを受け、機内全般を捜査された後、来賓用の部屋へと通された。


「久しぶりですな、将軍。わざわざこんな辺鄙な所に来るとは何かあったのですか?」

スタンリーは紅茶を客に差し出した。コンウェイは礼を言うと、資料を机に置いた。

「ああ。早速、本題に入ってしまい済まないんだが、少し気になる情報があったので。何か知っているか、それとも噂で聞いていないか確かめたくてな」

「何の話です?」

「デビスモンサンを知っているか?それからNATOの間でMLK-310と呼ばれていたロシア軍の施設は?」

 スタンリーは勿論、そのどちらも知っていた。デビスモンサンは世界中の飛行機・軍用機マニアには有名なアメリカのスクラップヤードだ。軍用機から旅客機まで様々な飛行機が捨てられている。MLK-310は旧ソ連時代にシベリアの僻地に作られた軍用機を処分する施設だ。こちらも資金難で解体出来なかった旧式の戦闘機や爆撃機などが放置されている。

「どちらも飛行機の墓場ですな。そんなところで何があったのですか?」

「ここ2、3ヶ月でスクラップになった飛行機が次々と盗まれているそうだ。何か心当たりは無いか?」

「初耳ですね。考えられる可能性としては、誰かがPMCや中小国の軍向けに部品、または再生機として売りさばくために盗んだんじゃないですかね?ネットショッピングのサイトを見てみれば、多分、飛行機の部品が大量に出品されているはずですよ」

「我々もその線は辿ってみた。だが、F-16戦闘機やM1A1戦車がカネさえあれば、中学生でも普通にアマゾンでクリックを1回でもすれば買えるご時世だぞ。誰がどこから出品しただなんて、到底、追跡できるものじゃない」

「ところで、何が盗まれたのですか?」

「それが厄介なことにだな。戦闘機や輸送機、空中給油機なんかに加えて、MLK-310からはTu-16、T-22、Tu-95それからデビスモンサンではB-52D、E、Fも忽然と消えていたそうだ」

「なんと」

「CIAやアメリカ国防省(ペンタゴン)では警戒レベルを上げて、同盟国にも警報を出している。取り敢えず、このことが外に漏れたら大騒ぎになってしまうので、くれぐれも内密に。戦略爆撃機がテロリストの手に渡ったら大パニックどころでは無くなってしまう」

「ところで、我々の部隊視察はされますか?もし宜しければ・・・・」

「いや、ここで失礼するよ。君らも忙しいだろうし、私も首相に報告しなければならないことが山ほどある。ここに来るのは全くの非公式で、首相からの内密の命令でね。私は"機体トラブル"で着陸した事になっている」

 コンウェイは立ち上がると、側近である大尉にすぐに帰ると伝えた。

「わかりました。ところで、この話は部下に伝えても・・・・?」

「問題ない。だが、くれぐれも外部に漏らさないように言ってくれ」

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