護衛-2
10月13日 1313時 UAE上空
「どれだけ物が足りなかったんだ?すごい数の輸送機だ」
佐藤は、輸送機の大群に目を見張った。C-130、C-17、C-5の他、An-124やIl-76、A-400Mが編隊を組んで飛行しており、更にはB747-8FやMD-11Fも飛んでいる。
『これだけ数が多いと、一部を護衛するのが精一杯だ。敵が嗅ぎつけてこなきゃいいが・・・・』
シュナイダーは自機のレーダーと地上のレーダーサイトとのデータリンクを確認した。
『噂をしていいれば何とやら、だ。不明機が11時方向から接近中』
コルチャックがレーダーで捉えた機体のデータを、味方に転送した。しかし、このネットワーク・システムは"ウォーバーズ"の内部だけで使っているもので、UAE空軍には無線で知らせることしか出来ない。コルチャックのSu-27SMに搭載されているレーダーは、傭兵部隊とUAE空軍が持つ戦闘機の中で、最も探知距離が長い。
『チッ。全く、嫌になるぜ。IFF確認・・・・・応答なし』
コルチャックは矢継ぎ早に無線でUAE空軍の戦闘機に状況を知らせた。どうやら、不明機は複数いるようだ。
『こちら"タランチュラ1"。我々が接近して確認する。他は引き続き、輸送機の護衛にあたれ。"タランチュラ2""タランチュラ3""タランチュラ4"、援護しろ』
『2了解』
『3』
『4了解。援護します』
ミラージュ2000Cが4機、護衛編隊から離脱して、不明機の様子の確認に向かった。
『"タランチュラ1"よりタランチュラ各機へ。レーダーサイトとのデータリンクの確認を怠るな』
「なあ、これだけで大丈夫か?どうも嫌な感じだ」
F-15Eの後席からレーダーと目視で警戒しているケイシー・ロックウェルが相棒に話しかける。
「俺たちのことか?それともあっちに行ったUAEのパイロットのことか?」
「両方だよ。まあ、ある程度は予想していた事態だが、いざこうなるとな」
10月13日 1321時 UAE上空
「レーダーで捉えた。再度IFFを確認・・・・・応答無し。各機、警戒を怠るな。残燃料、兵装、機体の状態のチェックを今のうちにしておけ。あの輸送機は、我々の生命線だ。1機たりとも撃墜を許すな」
編隊長は、マスターアームスイッチを『ON』にして、レーダーを『長距離サーチモード』から『交戦モード』に切り替えた。
『"グランドシーカー"より"タランチュラ1"へ。不明機を確認しているか?』
地上のレーダーサイトから連絡が入った。そちらでも発見したらしい。
「こちら"タランチュラ1"。すでに目標を確認済み。IFFで複数のモードで"話しかけた"が、全く応答無し。民間機のトランスポンダーも確認できず」
『こちらでもIFFやトランスポンダーでの確認をできず。アンノウンは全部で8機。高速で接近中・・・・待て。更に6機。全部で14機だ。注意せよ!』
「クソッ!」
「こうなったら、いちいち判別している余裕は無い。射程に入ったら、再度IFFを確認。味方や民間機の反応が無ければ、撃ってよし」
『ラジャー』
『3了解。AMRAAMスタンバイ』
『4、交戦準備完了!』
編隊長は地上のレーダーサイトとのデータリンクを確認した。こっちのレーダーで捉えた不明機の情報と一致している。
「そろそろ射程距離だ。IFFを再度・・・・・」
『ミサイルアラート!ブレイク!ブレイク!』
「クソッ!」
ミラージュの編隊は、バラバラに散らばってミサイルを避けようとした。が、そのうちの1機にPL-12が命中し、撃墜した。更にもう1発のミサイルがUAE空軍の戦闘機に命中する。
10月13日 1327時 UAE上空
「チッ、やっぱりか。そんな予感がしたんだよ」
カジンスキーはレーダーのモードを"SEARCH"から"Air-to-Air"に切り替えた。レーダー画面に複数の"UNKOWN"の表示が出る。IFFを質問モードに切り替え、不明機を確認した。応答は無い。
『アレは敵機だ!輸送機をやらせるな。あれは俺らの生命線だ』
シュナイダーのユーロファイターがカジンスキーのファルクラムとデータリンク接続をした。キャプターEレーダーが広範囲・長距離探知モードで捉えた敵機の情報がファルクラムのMFDに表示される。
「レーダーロック・・・・Fox1!」
MiG-29のランチャーレールからR-77が放たれた。ミサイルは、放たれた直後は母機からのセミアクティブ誘導で飛んでいき、すぐにアクティブ・レーダーに切り替えた。R-77が捉えたのは、テロリストのJ-7だ。この機体は、かなり旧式だが安価なので、市場には多く流通し、世界中の工場で大量生産されている。しかし、電子妨害装置が貧弱なので、簡単にR-77に捕まり、爆発した。
「"ウォーバード5"、1機撃墜!」
佐藤はF-15CのFCSからAIM-120Cを選んだ。本来ならAAM-4Bを使いたいのだが―――AAM-4Bならば、当たればほぼ確実に敵機を再起不能にできるが、AMRAAMでは、そうもいかない。しかし、AAM-4Bを日本から手に入れるのはかなり骨が折れるため、無駄使いはできない。
「ウォーバード1、Fox1!」
AMRAAMがF-15C機体側面のランチャーから押し出され、ロケットモーターに点火して飛んで行く。最初は母機からのデータリンクで敵機の情報を得ていたが、すぐに先端のレーダーで捉え、その後は"撃ちっぱなし"の状態になった。佐藤はミサイルが自立飛行を始めると、敵の攻撃を避けるため、F-15Cを上昇させながら旋回させた。




