護衛-1
10月13日 1254時 アル・ダフラ基地
An-124やIl-76、C-130などの輸送機に混ざって、B747-400Fが次々と着陸する。これらの機体は、戦場への輸送を専門に行う航空会社『ローグ・エクスプレス社』の飛行機だ。このPMCは、民間の貨物機を使っているが、戦場への物資の輸送を専門に行っており、PMCや傭兵、または各国の軍の注文があれば、どこでも何でも運ぶということで有名だ。これらの機体には、IRジャマー、ミサイル妨害装置、チャフ・フレアディスペンサー、更には、翼の下に曳航デコイが装備されており、戦闘機や地対空ミサイルによる攻撃に対して―――最低限度ではあるが―――対抗手段を持っている。
PMCや傭兵部隊、または正規軍の戦闘機の護衛を受けられることもあるが、基本的には、上空援護の無い状況で危険な空域を飛行することを想定しているため、C-130にはAIM-9M/Lサイドワインダーを2発搭載できるよう、LAU-128を翼の下にそれぞれ1基ずつ取り付けるという改造が施してある。しかし、戦闘機とは違い、機動性には限界があり、そんなことをしても、気休め程度にしかならない。
その傍らで、UAE空軍のF-16Eと傭兵部隊が離陸していった。今日は、大規模な物資の輸送作戦がUAEの各地で行われている。彼らは、オマーンとの国境に近いアル・アイン国際空港への物資の輸送を援護するよう命じられた。UAE政府は、兵装や戦闘機の部品を世界各地からかき集め、それをPMCの貨物便で運んでもらっている。政府は乏しくなった武器を出来る限り補充するため、ありとあらゆる運送会社、兵器製造企業に声をかけた。発注先の選定はスタンリーが助言をし、信用できるPMCや兵器メーカーをいくつか紹介した。UAEの空港では、軍関係の物資輸送を除いて、全ての便が停止されているため、軍がチャーターした航空機を除けば離発着は無く、エプロンや旅客ターミナルは閑散としており、その空いた場所すら、軍が必要とする物資の積み下ろしに利用されていた。
10月13日 1257時 ドバイ・マリーナ
民間の便が止まったのは港湾施設も同様で、かつて豪華客船が頻繁に入港していたドバイ・マリーナにも、灰色の貨物船が、PMCが所有するオリバー・ハザード・ペリー級フリゲートやキロ級潜水艦などに援護されながら入港し、様々な軍事物資を港に下ろしていた。通常の港湾警備員の姿は無く、その代わり、M4カービンを持つUAE陸軍の兵士たちが警備を行い、機関銃を取り付けたUH-60やAH-64Aが上空で警戒しているという、物々しい厳戒態勢が見られる。UAEは国内に運びこむ兵器類などの警備国内に入ってくるまでPMCに委託し、積み降ろした後は、軍に警備をさせている。兵器メーカーとPMCの間には、UAEに武器が高く売り込めるという話が流れた。更に、幾つかの傭兵組織もUAEに運びこむ物資の警備をしている。下ろされた武器弾薬は、即座にトレーラーに積み替えられ、各基地へと運ばれていった。
10月13日 1304時 UAE上空
「来たぞ。例の輸送機だ。周波数はええと・・・・134.78か。コールサインは・・・・」
佐藤はブリーフィングの時に渡されたメモ帳を見てから、無線機の周波数を変え、コールサインを確認した。この輸送機の情報が書かれている。
「バイカルだ。バイカル1-1。こちらウォーバード1、基地まで我々が護衛する」
『こちらバイカル1-1。よろしく頼むぞウォーバード1』
「君らが無事に降りてくれなきゃ、こっちが困る」
F-15CとF/A-18Cを先頭に、両サイドをF-15E、ユーロファイター、F-16CJが固め、フランカーとファルクラムがしんがりを務める。
「レーダーに今のところ、他の反応は無し。しかし、連中はSu-57を持っているから注意しろ。オレグ、ニコライ。IRSTに反応は?」
佐藤はレーダー画面を注意深く確認した。"unkown"の文字は、今のところは表示されていない。
『赤外線にも反応は無い。でもな、これはレーダーほど遠くが見えないから気をつけてくれよ』
IRSTは赤外線を利用するため、レーダーに反応しにくいステルス目標に対しても有効であるとされているものの、レーダーに比べて探知距離が短く、範囲も狭いのが欠点だ。おまけに、今日は楽な任務になる、と読んでいたため、E-737は飛んでいない。そのため、自機のレーダーと地上のレーダーサイトや味方機とのデータリンクだけが頼りだ。
『ええと・・・・ウォーバード1、こちらバイカル1-1。知っていると思うが、後ろから何十機もの輸送機や貨物機が飛んできている。しっかり頼むぞ』
AEWはまだ完全な状態では無いため、出撃することは出来なかった。レーダーサイトとデータリンク、自機のレーダーだけでは、やはり探知範囲が狭まっていた。
佐藤は、愛機であるF-15Cに1基だけ増設されたMFDの画面をチェックした。今のところ、味方機と輸送機の他に飛行機は見当たらない。だが、今までのところ、敵はこうした場合、即座に攻撃してきた。よって、今回も全く気の抜けない任務になる。




