ブラックアウト-4
UAE・オマーン国境付近上空 10月11日 0115時
レーダーは未だにクリアにならなかった。データリンクで送られてくる、カジンスキーのMiG-29とシュナイダーのタイフーンに搭載されているIRSTの映像が、唯一の情報源だ。スタンリーは窓の外を見た。少し離れた所に、佐藤のF-15CとコガワのF/A-18Cが見える。しかし、特定の周波数ではあまりジャミングが酷くないため、その周波数を使うことで、周囲の状況を確認できた。特に、シュナイダーのタイフーンに搭載されている"CASER"とも"キャプターE"とも呼ばれるレーダーは、ジャミングに強く、最新式のECCM機能があるため、かなりマシであった。が、ジャミングが続いていると、使える周波数の帯域が極端に減ってしまうため、やはり排除する必要があった。
「おい、ウォーバード2、HARMのHTSは載っけているか?」
シュナイダーがヒラタに訊く。
『ああ。何をしろってんだ?』
「そいつで妨害電波がどこから出ているか見られるか?そいつは電波の発生源を見つけるんだろ?」
『ところがどっこい、AARGMが無いんだ』
「クソッ!見つけることはできるか?」
『ああ。どうするんだ?』
「見つけたら、ウォーバード6に爆撃させりゃいいさ。おい、ウェイン!」
『なんだ?』とラッセル。
「爆弾は持っているか?」
『ええと、GBU-12とMk82がいくつか』
「それだけでいい。あとはジェイソンの指示に従え」
オマーン湾 10月11日 0124時
Su-57はサウジアラビア海軍の情報収集艦"アル・ファイサル"に狙いを定めた。レーダーで標的を捉えると、最大射程でKh-35Uを発射して、ステルス性を確保するため、ハードポイントからパイロンを切り離した。
Kh-35Uは慣性誘導で暫く飛んだ後、搭載されたレーダーを作動させて標的を見つけた。"アル・ファイサル"はジャミングの影響もあり、正確にミサイルを捉えることが出来なかった。
"アル・ファイサル"にミサイルが衝突した。最初の1発目は寝室棟を直撃して、非当直の水兵を皆殺しにした。更に追い打ちをかけるように、H-6Kから投下されたYu-7魚雷が2発、船体の真下に潜り込んで爆発した。
爆発した魚雷の炸薬は、膨大なエネルギーを生み出し、一気に気化した。その結果、炸薬の体積は発火前の数千万倍に膨れ上がった。そして、圧力が低下し、発生した気泡は急速に収縮したが、それによって、泡の内部圧力が高まるため、再び泡は膨れ上がる。そのサイクルを海中から上昇する間、逃げ道のない"アル・ファイサル"の船底へと向かった。
"アル・ファイサル"の真下から凄まじい水柱が上がった。その直後、竜骨がへし折られ、爆発の近くにいた乗員の殆どを即死させた。
UAE・オマーン国境付近上空 10月11日 0125時
ヒラタはHTSの操作画面で、幾つか周波数を切り替えながら、電波の発信源を探した。すると、奇妙な電波を拾った。レーダーではなさそうだ。
「こちら"ウォーバード2"、変な電波を探知した。これが問題のジャミングみたいだが、高速で動いているようだ。多分、電子妨害機だ」
『了解だ、優先して撃破する。後は撃破するだけだな』
F-16はアフターバーナーを蒸して、敵機へと向かっていった。後ろからはカジンスキーの乗ったMiG-29Mが援護をする位置についた。カジンスキーの愛機であるファルクラムに搭載されたロシア製のPPARは、通常はSu-35Sに搭載されるものであるが、レードームのサイズが同じなので、電子装備を少々いじるだけで楽に搭載することが出来た。
「こちら"ウォーバード5"。お客さんだ。速度、マッハ0.9、電子戦機を含めて4機だな。援護が必要だ」
『こちらウォーバード1、援護する。そろそろ、新しいオモチャも使ってみたかったところだ』
佐藤が乗るF-15Cの胴体側面ランチャーには、AAM-4Bが4発、搭載されている。この日本製の空対空ミサイルは、一応は中射程とされているが、最大射程が長射程空対空ミサイルに匹敵する100km程度とも言われている。佐藤は、兵装切り替えスイッチをAM-5からAM-4Bに切り替えた。AAM-4BとAN/APG-63(v)3の組み合わせは良好なようで、データリンクを介して敵機を補足すると、しっかりとロックオンしたようだ。
「FOX1」
F-15Cの胴体から、2発のAAM-4Bが続けざまに落下し、ロケットモーターに点火して、目標目がけて飛翔した。このミサイルの先端に搭載されているアクティブ・レーダーはECCM性能に優れ、空自でのテストでは、命中率が95%以上だったとも言われている。しかしながら、実は、このミサイルが実戦で発射されたのは、これが初めてのことであった。
AAM-4BはF-15Cのレーダーから送られたデータを元に、Su-24MPへと向かった。ジャミングの影響下にも関わらず、日本製のミサイルは敵機を正確に追跡し始めた。
Su-24MPのパイロットはECMを作動させ、チャフをばら撒きつつ、アフターバーナーに点火してミサイルから逃れようとした。が、AAM-4Bのレーダー・シーカーは激しいジャミングの中から、正確に標的である電子戦機を見つけた。




