表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/71

ブラックアウト-3

 オマーン湾 10月11日 0106時


「我々がいた証拠を残すな。全て撃破しろ」

 Su-57に乗ったボグダン・マルコヴィッチが僚機に命令した。彼が乗っているSu-57の主翼の下にはKh-35U―――NATOコード名AS-20"カヤック"―――がぶら下げられている。よって、ステルス性は損なわれているが、それよりも自分たちここで活動している証拠を消すのが先決だった。この作戦を始めてから、暫くはどの国も単なるオマーンとUAEの石油資源を巡る紛争だと思っていた―――石油は貴重品だ―――が、各国がこっそり"覗き見"しているうちに、どうやら自分たちの存在がバレる可能性があると判断して、このイランの情報収集艦の破壊を決めたのだ。

 確かに、今では正規軍よりもPMCや傭兵部隊が幅を利かせているものの、特にアメリカやロシア、イスラエルに目を付けられると厄介だ。これらの国の軍隊は弱体化はしたものの、特殊部隊や無人機によるテロリストの排除、諜報員などによる情報収集は未だに以前と変わらない規模で続いている。部隊の一部では、自分たちの存在を明かし、ビジネスパートナーを募るのも手では無いかという意見もあったが、マルコヴィッチ自身がコソヴォでの"行動"で30ヶ国から訴追されている現状を見ると、それは無理なことであった。


 Su-57はレーダーと避けるため、海面を低空飛行した。ステルス設計であるため、大型ミサイルを翼に下げていたとしても、特に正面からならば、F-16やJAS-39よりもレーダー断面積は小さい。恐らく、レーダーにはやや大型の鳥くらいの大きさにしか映っていなかっただろう。後ろからはJ-10Bが3機、ついてきている。その260マイル程東には、Su-24とQ-5が長距離対地攻撃ミサイルや魚雷を搭載して飛行している。この飛行隊の標的はインド海軍の情報収集艦だ。この組織は、過去にアフリカや南米でも活動していたが、尽く情報収集に来る国の海軍の艦船や空軍機を破壊して、自分たちの存在を隠していた。

「ESMスタンバイ。できるだけレーダーは使うな」

 攻撃編隊のうち、J-10が機体下のハードポイントにESMポッドをぶら下げていた。これはパッシブ式のセンサーで、自ら電波を出すこと無く、相手が発する電波を"拾う"ことによって標的を探しだすことができる。蒋玲峰は、そのESMのデータを確認し、微弱ながら反応があるのを見た。イランの情報収集艦は、対空・対水上レーダーで監視をしているようだ。

『ボグダン、どうする?ジャミングが効いているとはいえ、あまり近づいたりするのは危険だ』

 マルコヴィッチは少し考えてから、Q-5のパイロットと交信した。

「射程までどのくらいだ?」

『あと20分程です。そのまま真っ直ぐ行けば』

「いや、一旦、東に逸れて、南北から二手に分かれてから侵入して攻撃しろ」


 オマーン湾 10月11日 0108時


 Q-5とSu-24の編隊は編隊を解き、低空飛行を続けながら旋回し、一旦ターゲットから離れる軌道を描いた。やがて、攻撃に最適なコースを探した。パイロットはミサイルの射程に入ると、すぐに発射した。AS-20はロケットモーターを点火させて暫く飛び、ロケットエンジンの燃料が切れるとラムジェットエンジンに切り替えた。対艦ミサイルは慣性誘導で飛び続け、標的へとまっすぐ向かっていった。


 "シャー・ザハーン"の乗員が攻撃に気づいたのは、地平線からミサイルが現れて随分経った後だった。

「まずい!対艦ミサイル4発!ECM作動!コールチクスタンバイ!総員、戦闘配置!繰り返す!総員戦闘配置!これは演習ではない!繰り返す!演習ではない!」

 情報収集艦には、防御用の対空ミサイルなど、一発も搭載されていない。よって、頼りになるのはECM装置とコールチク機関砲だけだった。


 実は、テロリストの放った対艦ミサイルはただの囮だった。低空飛行で近づいてきたH-6Kが、爆弾倉を開いた。そこからYu-7魚雷が投下された。


 中国製の魚雷は海中に投下されると、まずはパッシブソナーでイランの情報収集艦のスクリュー音を捉えた。魚雷は特急列車のような音を立てながら、海面近くを高速でターゲットへ向かっていった。


「対艦ミサイル接近!数は2・・・・いや、4発か!?」

「コールチクを自動追尾モードにしろ!クソッ!クソッ!」

 

 ロシア製機関砲が30mmの砲弾を毎分6000発の速度で撃ち出し始めた。曳航弾が暗い海上を真っ赤に照らし、ミサイルへ向けて砲弾をばらまき始める。しかし、ECMのせいでレーダーがうまく標的を捉えきれない。が、運良く砲弾が命中したのか、ミサイルが爆発し、海面へと落ちていった。


 イラン海軍情報収集艦"シャー・ザハーン" 10月11日 0114時


「やったぞ!撃墜だ!」

「油断するな!ミサイルはまだ来るぞ!」


 2発のミサイルがECCMの影響で"シャー・ザハーン"から逸れていった。しかし、海中にいた魚雷はそうもいかなかった。


 4発の魚雷がイラン海軍艦の真下で爆発した。その圧力で"バブルジェット"が発生した。音速を遙かに超える早さで膨張した巨大な水泡が艦を真っ二つに引き裂き、撃沈した。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ