ブラックアウト-1
UAE・オマーン国境地帯 10月11日 0004時
アパッチの30ミリチェーンガンが吠え、ZSU-23-4を穴だらけにし、UH-60やCH-53に搭載された12.7mmミニガンが敵兵を挽肉へ変える。その傍ら、23ミリ機関砲弾を受けたヘリがよろよろと撤退していく。真っ暗な砂漠の一角だけ、曳光弾の明かりで照らされ、その度にアパッチやZSU-23の影が浮かび上がる。どちらも後に引く気は毛頭ないようで、時折、機体を機銃弾が叩く"ガン、ガン"という音が鳴る。
『アナコンダ5、被弾!』
「被弾した機は無理せず撤収せよ!」
アパッチが1機、方向転換して離脱していった。このヘリは、特に機体下面やエンジンカバーが分厚い装甲板になっており、30mm機関砲に複数回直撃されても耐えられるように出来ており、ローターのトランスミッション機構も過酷な戦闘に対応できるよう、頑丈に造られてはいるが、それでも限界というものがある。
『くそったれ!航空支援はまだか!』
ベングリオンは左右に首を振り、IHADSS越しに視界に入った標的を片っ端から撃ち始めた。早かれ遅かれ、エンジン機構をやられて不時着したり墜落したりする機体が出てくるはずだ。それに、これだけ狭い範囲でヘリが前後左右に不規則に動きながら射撃をしていると、空中衝突の危険もある。
「ダメだ。ヘリでの攻撃は危険過ぎる。アナコンダ、全機撤退」
アパッチやペイブロウが反転し、UAEの方へと離脱していった。しかし、今度は違う脅威が迫りつつあった。
UAE・オマーン国境 10月11日 0007時
Ka-50"ホーカム"やWZ-10が傭兵部隊とアブダビ陸軍部隊の方へ向かっていた。kこれらのヘリは、中国やロシアから横流しされた後、闇市場に出回ったもので、シリアルナンバーは黒く塗りつぶされていた。スタブウィングには対戦車ミサイルとロケットポッドが吊り下げられ、アブダビ陸軍の機甲部隊を叩く任務を背負っていた。
オマーン国内 10月11日 0013時
兵装転換を終えた戦闘機部隊が国境を越えた。地上配備された早期警戒レーダーは、既にSEAD/DEDによって制圧されていたため、全く働いていなかった、が、急展開したテロリストの移動式レーダーが傭兵部隊とアブダビ空軍部隊の影を捉えていた。
「11時方向、目標4・・・・いや、8機だ。マッハ0.7で接近中。IFF応答なし」
シュナイダーのタイフーンに搭載された、キャプターEレーダーが敵を捉えた。"ウォーバーズ"の戦闘機には、改修によって高度なセンサー・フュージョンシステムやデータリンクシステムが搭載されているため、1機がレーダーで目標を捉えると、全ての戦闘機、そしてウェッジテイルのレーダースコープにも表示される仕様になっている。
『迎撃に上がった機体か。ウォーバード1、中距離空対空ミサイル、スタンバイ』
佐藤はF-15Cのレーダーを中距離交戦モードに切り替えた。搭載兵装を確認する。AIM-9Xが4発、AAM-4Bも4発。
『ウォーバード6、システムチェック・・・・全て問題なし。対空戦闘に備える』
しかし、次の瞬間、"ウォーバーズ"各機のレーダースコープ画面は真っ白になった。
オマーン上空 空中管制機"ゴッドアイ" 10月11日 0014時
『クソッタレ!ジャミングだ!』
『レーダーモードを切り替えろ!』
『ダメだ!どの周波数をやられてる!』
『データリンクを確認しろ!くそ!どうなってる?』
スタンリーはレーダー・スコープを確認した。
「"ゴッドアイ"よりウォーバード各機へ。かなり強力なジャミングだ。各自、ECCMを作動させろ。それでもダメなら、IRSTとデータリンクに頼るしかない!」
リー・ミンと原田は、レーダー・モードをしきりに切り替えた。が、どうやってもジャミングが消える気配は無かった。
オマーン上空 10月11日 0017時
この強烈なジャミングは、アブダビ空軍機も苦しめていた。F-16やミラージュ2000のレーダーが使い物にならなくなり、周囲の状況を確認するには、目視と空気取り入れ口下に取り付けたAN/AAQ-14"LANTIRN"からの画像に頼らざるをえなくなった。
「レーダーがやられた!ジャミングだ!」
『こっちもだめだ!』
現代戦に於いて、レーダーを潰されるのは目を失うことと同じである。そして、更に悪い状況は続いた。
アブダビ上空 10月11日 0029時
アブダビ空軍のE-2Cが1機、"ゴッドアイ"の補佐としてアブダビとオマーンの国境沿いに飛行していた。このホークアイは、E-737とデータリンクでお互いに見えない空域をカバーしていた。
「こいつは参った。目を潰されてしまいましたよ」
レーダー管制員はレーダーの周波数を頻繁に切り替えつつ、ECCMを作動させた。強烈なジャミングで、レーダースコープが砂嵐になっている。
「ECCM作動。レーダーの周波数を変えながら、監視を続けろ。そして・・・・」




