新たな翼-2
インド洋上空 9月29日 0842時
F-16CJとF-15Cは新たにやってきた空中給油機と2機の戦闘機を確認した。情報通り、F-15EとタイフーンFGR.4、KC-10Aだ。戦闘機には増槽がフル装備されている。しかし、なぜ第4.5世代とも第4世代+とも呼ばれている機体を持った傭兵がいるのだろうか。
「ターキー・エクスプレスへ。こちらウォーバード1、こちらが見えるか?」
佐藤が無線で呼びかけた。
『こちらターキー・エクスプレス。こっちは夜通し飛んでいたんだ。早く着陸させてくれ』
ジェリー・クルーガーが答える。
「了解だ。ここからそのまま東に飛んでくれ。着陸はGCAで誘導する」
『頼んだぜ。風はどうなんだ?』
「北風だから、ランウェイ31に誘導すると思う。疲れているだろうから、優先して着陸させる。エスコートするから、このまま付いてきてくれ」
『了解だ。あとどのくらいだ?チャートとGPSはしっかり見ているが、見渡す限り海ばかりで見当もつかなくなってきている』
「あと20分もしないうちに滑走路が見えてくるさ」
ディエゴガルシア島 9月29日 0851時
管制官はGCAで飛行機を誘導した。レーダーと窓の外を見て、飛行機を誘導する。
「ウォーバード6、あと35マイルです。風は12時の方向から3メートル。横風は無し。ギアをチェックして下さい」
『ギアダウン確認。最終着陸チェック完了。着陸します』
「アレだな。来たぞ」
スタンリーは管制塔から双眼鏡で滑走路の向こう側を見た。ユーロファイターがギアを下げてのろのろと進入してきた。このヨーロッパ4カ国共同開発のダブル・デルタ翼の戦闘機の初期及び中期型が市場に出回っている、という話は聞いたことがあった。しかし、次に降りてきたF-15Eに乗ってきたパイロットとWSOには、一体どうやってこの機体を手に入れたのか、是非聞いてみたかった。
「さて、迎えに行ってくるよ。司令官である私が顔を見せない訳にはいかないだろう」
エプロンに駐機したF-15EとタイフーンからパイロットとWSOが降りてきた。ストライクイーグルのパイロットであるウェイン・ラッセルはアメリカ空軍出身で、スラリとした長身のアフリカ系アメリカ人だ。一方、WSOのケイシー・ロックウェルはアイルランド系で戦闘機パイロットにしては珍しく、かなり筋骨逞しく、レスリングか柔道の選手と言っても違和感は無かっただろう。一方、タイフーンに乗っていたハンス・シュナイダーは金髪、碧眼の美男子で、もし1938年ならば、間違いなく親衛隊隊員募集の広告ポスターのモデルになっていただろう。スタンリーが歩み寄ると、3人はサッと敬礼した。
「楽にしてくれ。ようこそ"ウォーバーズ"へ。ここでは、今まで君らがいたところとまるで違うかと思うが、きっと気にいると思う。そうそう、彼らが・・・」
スタンリーはタキシングして来たF-15CとF-16CJの方を見た。
「君らの新しい家族だ。今日は疲れているだろうから、ゆっくり休んでくれ。だが、明日からはそうもいかなくなる。急で悪いのだが、1週間後にはアブダビ空軍との演習が控えている。我々はその準備をしているところだ。今度の演習はきっと、これからの任務で役に立つ経験ができるだろう。質問があれば、そこら辺にいる人間を適当につかまえて、適当に聞いてくれ。それでは、宿舎に案内しよう」
インド洋上空 9月29日 0901時
AH-64DとCV-22Bが編隊を組んで飛行している。普通の飛行訓練なので、アパッチのスタブウィングには増槽が4本吊り下げられ、オスプレイの機内には内蔵燃料タンクを搭載している。
「こいつは結構キツイな。どこを見ても海だ。早く帰りたいな」
ベングリオンが呟く。
「確かに、砂漠や平原の上を飛んでいる方が安心できる。おまけに何かしら目印になるものが少ない」
ツァハレムも同意する。
『何だ何だ。百戦錬磨、天下のイスラエル空軍のパイロットが弱音か?』
ブリッグズがからかうように言う。
「あまり海の上を飛ぶのには慣れていないんだ。市街地や砂漠の上なら平気だけどな」
ツァハレムが言い返す。アパッチを強襲揚陸艦やヘリ空母に搭載して運用するのは、基本的に陸上自衛隊やイギリス陸軍くらいしかしない。アメリカは海兵隊がAH-1Zを持っているし、オランダ陸軍やイスラエル空軍にはそもそも、海上でアパッチを使う、という思想そのものが無いに等しい。
『今日はもう戻ろう。大規模演習が控えているし、新人にも挨拶しておきたいからな』
ブリッグズの言葉に全員が同意し、オスプレイとアパッチは基地に向けて帰投を始めた。
アラート待機の当番になったジェイソン・ヒラタのF-16CJとニコライ・コルチャックのSu-27以外の飛行機がハンガーにしまい込まれた。この日の夜は歓迎会が開かれ、翌日は休暇となった。