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越境攻撃-6

 オマーン国内 10月10日 1803時


 99式G戦車の部隊が驀進し、その上をWZ-10やKa-52が飛行する。この部隊はオマーンのイブリーからアラブ首長国連邦(UAE)のアル・アインに向けて進軍を開始していた。実際には後3日後に侵攻を開始する予定でいたのだが、UAEからの空爆が始まったため、急遽移動を命じられたのだ。部隊を率いる師団長は急な部隊の移動命令に対して不満タラタラだったが、仕方がない。それにしても、突如として無政府状態のこの国に入り込み、軍を動かしている組織については全く、何も情報を手に入れることは出来なかった。だが、この組織はかつての政府よりは良い給料を支払ってくれているし、装備も真新しい。一部の兵士からは、彼らに対して疑問の声が上がったものの、それを口にしたものは尽く"行方不明"となっていった。


だが、その様子はアメリカ空軍のE-8Cによって捉えられていた。E-8Cの胴体下には、地上監視レーダーであるAN/APY-3は非常に特殊なレーダーで、地上にある移動物や建造物を正確に捉えることができる。と、言うのも、空中に向けられるレーダーならば、航空機以外にレーダー波を反射するものはないので、簡単に航空機を捉えることができるが、地上ではそうもいかない。まず、地面そのものが電波を反射するため、それが建物なのか、車両なのか、それともただの岩山なのかを区別するのが難しい。なので、このE-8Cに搭載されているレーダーは非常に高度な技術によって設計されていた。これ程正確に地上物を捉えられるレーダーは、他にはAH-64Dに搭載されるロングボウ・レーダーくらいのものであろう。

 E-8のクルーは逐一、UAEとオマーンの国内の様子をNORADやペンタゴンに送信していたが、あくまでも"監視"のみを目的としていたため、国境付近には接近しなかった。


 オマーン上空 10月10日 1814時


「南の方に別の機体を捉えました。マッハ0.6、大型目標です。大きさからすると、A330か340くらいと思われますが、これは・・・・」

 原田はレーダースクリーンに映った新たな目標を見て額に皺を作った。動きを暫く見ていたが、そこら辺をうろうろするような動きをしており、とても旅客機とは思えない。

「多分、RC-135VリベットジョイントかJ-STARSだろう。アメリカ軍が覗き見にやって来たか」

 スタンリーは自分が新たな標的の監視を努め、原田とリー・ミンには現在の戦場の様子に集中するように命じた。近年、アメリカやロシアは紛争に介入すること無く、偵察機を出して紛争の推移を監視する任務を重視している。殆どの場合は無人機に頼っているようだが、時折、有人機を派遣してくるときもある。スタンリーらPMCはその行動を"つまみ食い"と呼んでいる。情報だけ手に入れて傍観し、もし、自分たちの国益に叶いそうになった場合は、いきなり介入してくるのだ。


 アル・ダフラ空軍基地 10月10日 1857時


 補給を終えた戦闘機が、アフターバーナーを焚いて再出撃していった。その傍らで、ヘリの編隊が補給のために降りてくる。ヘリもまた、ローターを回した状態で燃料と兵装の補給を受けた。

「こっちの戦車部隊は壊滅させた。次は国境近くの機甲師団を攻撃しよう」

 ツァハレムは端末上の情報を見て、アブダビ空軍の飛行隊長に話しかけた。

「駄目だ。その手前にハリネズミみたいなSAMサイトがある。そこに突っ込んだら、全滅だ」

「くそう。どうする?」

「ふっ飛ばしてもらおう。地上の連中に連絡をしてな」


 オマーン国内 10月10日 1901時


 DPVに載っていたロスたちは、CH-53からガソリンと兵装の補給を受けていたところだった。弾薬と予備銃身、ジェリカンを車に載せていた頃、無線機が受信を知らせる"カチッ"という音を立てた。

「ロスだ」

『こちら"アナコンダ"。ちょっとばかり厄介事になっているから、手伝ってくれ』

「それが"ちょっとばかり"だった試しがあるか?いつも、ヤバイことになっているじゃないか」

『後でビールを奢ってやるから落ち着いて聞いてくれ。SAMサイトがそこから北に50マイルばかり行った所にウジャウジャ生えてやがる。そこに飛行機が突っ込んだら、間違いなくオシマイだ。だが、ヘリなら低空で飛んで行って破壊することもできる』

「で、俺達にも手伝え、と」

『ああ。重火器はどれだけある?』

「TOWとジャベリン、スティンガー、M-2にMk-19だ。弾は勿論、焼夷徹甲弾。アブダビ陸軍の自動車化対戦車部隊もいるから、充分だとは思うが」

『了解だ。頼んだぞ』


 新たなターゲットを指定された地上部隊は北へ転針し、砂漠を駆け抜けた。SAMサイトがどれだけの規模かはわからないが、航空部隊が全滅した場合、UAEはオシマイである。そのため、何としても対空火器は見つけ次第、排除しておく必要があった。辺りはすっかり暗くなり、移動や戦闘には暗視ゴーグルに頼らざるを得ない。しかし、敵の正体は何なのか、なぜUAEやバーレーンを狙うのか、それが解せなかった。最初は、イランとイラン政府に支援されたテロリストだと考えていたが、それが果たして正しい答えなのかはわからない。だが、ロスはすぐにそんな考えを頭から消し去った。今は、対空兵器を排除して、航空部隊の安全を確保することが最優先事項だ。万が一、航空部隊が全滅ということになれば、アブダビはこれ以上、敵に反撃できなくなる上に、自分たち"ウォーバーズ"は全滅の憂き目にあう。これだけは絶対に避けなければならなかった。

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