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越境攻撃-5

 オマーン・サウジアラビア国境上空 10月10日 1711時


 戦場近くで飛んでいた飛行機は何も傭兵・アブダビ空軍連合部隊とテロリスト部隊だけでは無かった。トルコから離陸したアメリカ空軍のRC-135Vリベットジョイント電子偵察機が空戦の様子を監視していた。アメリカ中央軍はこの戦争に関わってはいないが、トルコのNATO基地に偵察機や特殊部隊を派遣し、状況の把握に勤めていた。在外米軍はかなり縮小し、戦闘部隊が常時置かれているのは、今や日本、イギリス、オーストラリアだけとなってしまった。かつて大規模な戦闘部隊を置いていた韓国、ドイツ、イタリア、サウジアラビアからは後方支援部隊を除いて大部分が撤収し、本土またはアラスカやハワイ、グアムへと再配備がなされている。オペレーターたちはアブダビ軍やオマーン軍、イラン軍の通信を傍受しようと務めている。しかし、アブダビ軍以外の軍に目立った通信の増加は無く、その代わりみたいに、正体不明の組織が通信を行っているようだ。中央軍司令部からは、両国の領空に接近することを厳しく制限されており、離れた所からの傍受に務めていた。アブダビ空軍との演習に参加していたPMCが参戦しているとの情報があるが、独自の秘話回線を使っているようで、内容がイマイチ掴めない。

「おい、サウジ空軍だ。ここから出て行けとさ」

 パイロットは窓を見ると、2機のF-15Sが後ろから追い越して行くのが見えた。

「仕方がない。アビアノに帰るぞ」

 RC-135は北へと進路を変え、離脱していった。以前はディエゴガルシア島を使うことができたが、もう放棄してしまったため、現在の中東やアフリカ展開の最前線基地はイタリアのアビアノ空軍基地だ。そのため、偵察活動や警戒活動を行う米軍機は長距離飛行をせざるを得ない状況となっていた。


 オマーン国内 10月10日 1724時


 上空がだんだん静かになってきた。どうやら、航空部隊は弾切れになってきたらしい。だが、地上では激しい戦闘はまだ続いている。T-55がジャベリン対戦車ミサイルの直撃を受けて爆発し、重機関銃の射撃で兵士が倒れる。攻撃ヘリがミサイルやロケットを発射して、装甲車やトラックを破壊する。だが、敵軍の勢いは衰える様子は無い。BMP-3やT-90が轟音を響かせながら突進してくる。

「1時方向、T-80。ぶちかましてやれ!」

 ロスが構えているジャベリンの発射機に新しいランチャー・チューブをバークが載せた。ロスは発射モードをトップアタックに切り替え、照準器で戦車を捉えた。ロックオンを知らせる電子音が鳴り、彼は発射ボタンを押した。ミサイルは圧縮ガスでランチャーから押し出され、急角度で上昇していった。そして、最高度まで上昇すると、シーカーがターゲットを捉える。戦車は前面、側面の装甲は分厚いが、天井、後方は薄い。そこで、最新の赤外線/レーザー/ミリ波誘導の対戦車ミサイルは戦闘車両の上面を破壊できる"トップアタック・モード"がある。ジャベリンは真っ直ぐ下に落ちていき、T-80の上面を直撃した。

「1両破壊!次!」

 バークは双眼鏡で更なるターゲットを探す。今度は05式水陸両用戦車と99式戦車が見える。

「11時方向、戦車2、歩兵戦闘車4!」


 AH-64が8機、編隊を組んで低空飛行する。本来ならば、森林や建物の陰に隠れながら飛ぶのだが、砂漠地帯で物陰がほとんど無いので、姿を晒しながら飛ばざるをえない状況だ。RQ-2から送られている画像をMFDで確認した。

「ターゲットはここから20km、戦車と装甲車だ。データリンク確認」

 アブダビ空軍の大佐はそれぞれの機にターゲットを割り振った。それぞれの機がどの戦車を攻撃するか、MFDに即座に表示された。

「ターゲットロック・・・・発射!」

 ヘルファイアミサイルが火を噴いて飛んで行く。ミサイルはそれぞれ設定された標的を捉え、破壊した。

「12時方向、敵歩兵!」

 ベングリオンはIHADSSでAKやG-3を持った敵兵を睨み、引金を引いた。30mmの劣化ウラン弾がテロリストを瞬く間にハンバーグの材料に変えた。

「次、2時方向に敵歩兵、トラック・・・・」

 70mmロケットが一斉に発射され、暗くなってきた砂漠を一瞬、明るく照らした。

「こちら攻撃部隊、残弾無し。帰投する」


 アル・ダフラ空軍基地 10月10日 1754時


 整備員たちがウェポン・ローダーとタンクローリーを一斉に着陸してきた戦闘機へと向かわせた。機体はエンジンを回したまま燃料と兵装の補給を受けた。その傍らで、滑走路に潜水艦を撃沈したS-3BとAS-532が着陸してきた。対潜水艦部隊は先程まで第2、第3の敵潜水艦に備えて海域を警戒していたが、その様子が無く、燃料も危うくなってきたので帰投したのだ。


「意外と敵の抵抗が激しい。兵装をこれに取り替えてくれ」

 コガワは帰投している時にノートに書き起こしておいたメモを破って整備員に渡した。

「おいおい、これは備蓄が少ないんだぞ。後で手に入れるのもどれだけ骨が折れるのか知っているのか?」

「わかってはいるが、どうしても今、必要なんだ。さっき敵の掩体壕を見つけた。そこには戦車だの装甲車だのたくさん隠されているが、周りをハリネズミみたいなSAMサイトに囲まれて近づけやしない。その画像を撮った無人機はすぐに撃ち落とされたんだ」


 F-15Eのコンフォーマルタンクと胴体下のハードポイントにはGBU-39Bが幾つも搭載され、Su-27SKMのミサイルランチャーにはR-77とR-73がたくさんぶら下がっている。そんな中、F/A-18Cの翼の下には、サーフボードのような形の物体が2つ、ぶら下がっていた。"ウォーバーズ"のパイロットたちは、なぜコガワが貴重なJASSM-ERを搭載するように整備員に強く主張したのかわからなかったが、彼が意味もなく武装を切り替えるような真似をするような人間ではないと、"ウォーバーズ"の誰もが知っていた。 

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