越境攻撃-4
オマーン国内 10月10日 1641時
DPVが夕暮れの砂漠を疾走している。運転しているのはロスで、バークとクラークはそれぞれ車載兵器の引金に指をかけて警戒している。後ろからはアブダビ陸軍のM998HMMWVが続く。周りは砂漠が広がるばかりで、ラクダに乗った遊牧民すら見えない。地対地ミサイルや巡航ミサイルの地上発射式ランチャーは、恐らくは砂漠に掘られた穴の中に入れられ、更にバラキューダーなどで偽装されているだろうから、見つけるのは難しそうだ。そこで、アブダビ空軍はオマーン上空にRQ-2パイオニアを飛ばして探しだすことにした。この無人機にはレーザー・レンジファインダーが搭載されているため、レーザー誘導式のAGM-114Kヘルファイア・ミサイルを標的へと向ける事もできる。1度、標的を見つけると、データリンクでアパッチやF-16のMFDに座標などを表示させることもできるため、この無人機の役目は重要であった。だが、上空からの光学・赤外線センサーやISRレーダーによる捜索は、案外簡単な偽装に騙されてしまうことが多いため、地上部隊の"人間の目"による確認は重要だ。勿論、人間の目には見えない赤外線やズーム機能で遠くを見る能力は、人間よりも機械の方がずっと優れて入るが。
敵は地上部隊をこの辺りには配備していないようだ。ミサイルのランチャーも、装甲車も見かけない。しかし、DPVやHMMWVには対戦車ミサイルを搭載してはいるが、勿論、装甲車両とまともに撃ちあっては勝ち目は無い。なので、いざ交戦となったら、素速く移動しながら一撃離脱戦法を取るしか無い。しかも、敵は巡航ミサイル潜水艦まで用意していた連中だ。勿論、地上にも何かしら"隠し球"のようなものを用意しているだろう。なので、念のため、地上部隊は対NBC装備を用意していた。自動小銃を肩から吊り下げ、ガスマスクとNBC防護服に身を包んだコマンド部隊は時折、双眼鏡で周囲を警戒しながら進んだ。手持ちのタブレットからは無人機からの映像がリアルタイムで送られているので、完全ではないものの、この先の状況がわかるのがありがたい。航空部隊は、スカッドミサイルなどをどんどん片付けているらしい。ロスは、一度、UAVからの映像を確認すると、地上部隊に停止するように命じた。
「何だ?どうしたんだ?」
バークが言う。
「スナイパーだ。ここと、ここ。それから、ここに」
ロスはUAVが発見したスナイパーの位置を味方に伝えた。そして、アブダビ陸軍の部隊は迫撃砲を設置し始めた。対スナイパー戦は非常に難しい。何しろ、向こうにはこっちの姿が見えているのだが、こっちが敵を見つけた頃には手遅れになっていることが多い。しかし、UAVの普及のお陰で、多少はやりやすくなった。勿論、先手必勝だ。すぐにポンポンと迫撃砲が発射される音が聞こえ始めた。数秒後、目の前の斜面が爆発する。
「やったか?」
バークは着弾地点を双眼鏡で見ながら言う。
「もう一回UAVで確認しないとな。奴らが死んだと思い込んで動くのが一番危ないからな」
ロスは再び味方に砲撃の準備だけをしておくように指示を出した。
オマーン上空 10月10日 1651時
空中戦はまだ続いていたが、傭兵・アブダビ空軍連合部隊とテロリスト双方の何機かがミサイルを使い果たし、基地へと帰還せざるを得なくなっていた。佐藤はまだ残っていたミサイルからAAM-5を選択して、すぐ近くを飛んでいたフランカ-に狙いを付けた。そのフランカーの翼端にはミサイルランチャーの代わりに妙な丸いフェアリングが見える。恐らく、オリジナルではなく中国がコピーしたJ-11だろう。HMDのキューイング・システムのターゲットサークルの中心に敵機を捉えた。緑色の目標指示ボックスが電子音が鳴ると同時に赤くなる。
「Fox2」
密輸した日本製の赤外線誘導空対空ミサイルは完璧に役目を果たした。J-11のパイロットはミサイルに気づき、フレアをまき散らしながら上昇、反転しようとした。しかし、AAM-5はフレアとエンジンの排気熱をしっかりと見分け、そのままJ-11のテールブームと右のエンジンの間に突っ込んだ。パイロットは脱出したようだが、機体は真っ逆さまに墜落し、砂漠に叩きつけられて数千万ドルの鉄屑となった。
シュナイダーのタイフーンはJ-10Aを追っていた。どちらも運動性の良いクローズ・カップルド・デルタ機で空戦の性能は抜群だ。J-10は逃げるためにアフターバーナーに点火したが、すぐにそれをIRIS-Tのシーカーが捉えた。シュナイダーは発射ボタンを押し、発射する。空戦はますます混迷を極めていた。JF-17が火を噴いて墜落し、ミラージュ2000が爆発する。
『ウォーバード2、ウィンチェスター。撤退する』
ヒラタのF-16がミサイルを使い果たし、補給のために基地へと撤退を始めた。
『了解ですウォーバード2。ウォーバード1、4、援護を』
F-15とSu-27が前後を援護する隊形を取り、基地へと帰投する。傭兵・アブダビ空軍連合部隊とテロリスト部隊の双方ともミサイルを使い果たした機体が出てきて、次々と一時的な撤退を余儀なくされていった。




