Unti-Submarine Warfare-4
ペルシャ湾 10月10日 1534時
近くを警戒していたアブダビ沿岸警備隊の巡視船が救助活動を開始していた。だが、最初に出動できたのはカウカッド級巡視艇"トーバン"とダファール級巡視艇"ガウダンファー"と"ハッザ"だけだったため、一度に全員を救出するのは難しかった。空中から警戒していたS-3Bは燃料が減ってきたため、KC-135も出動しなければならない事態になった。
「クソッ、これじゃあ奴を見つけても魚雷を撃てないな。要救助者を巻き込んでしまう」
窓の外から様子を見ていたスレーターが苛立たしげに言う。まさか、こんな混乱した状況で対潜作戦を行うとは思ってもいなかった。魚雷を搭載したAS-532は救難作戦に切り替えて、溺れかけている人々を拾い上げている。
「反応は無い。もう少し向こう側に行って探すか?」
アラン・マッキンリーが提案する。
「ネガティブ。要救助者をほっとく訳にはいかない」
スレーターは窓から海上の様子を見ていた。溺れかけている人々がしきりにこちらに手を振って、助けを求めている。あと少しでヘリが来るから、あとほんの数十分だけでいいから持ちこたえてくれ・・・・・。
アル・ダフラ空軍基地 10月10日 1537時
UH-60、CV-22、CH-53Eが一斉にローターを回して離陸していった。全部で14機だが、これで間に合うとは到底思えなかった。ロシアのBe-200や日本のUS-2といった救難飛行艇が有れば一番なのだが、無いものねだりをしていても仕方がない。更に、S-3Bに空中給油が必要になった時に備えて、KC-135Rも離陸していった。だが、相手がロシア製潜水艦となると、救難活動に危険が伴う。ロシア製潜水艦はSH-3やSH-60といった対潜哨戒ヘリへの対抗手段として、VLSに対空ミサイルを搭載しているものがあるのだ。
ペルシャ湾 10月10日 1543時
巡視艇"ハッザ"の乗組員たちは、次々と溺れかけている人々を救い上げていった。小型のRHIBも海面を駆けまわり、遭難者を引っ張り上げる。しかし、非情にも、テロリストはさらなる攻撃を仕掛けてきた。
「12時方向、音からするとダファール級巡視艇だ」
北朝鮮人のソナー員が振り返って艦長の方を見た。決断を促しているらしい。
「やれ」
その一言で十分だった。
「3番、魚雷装填ののち注水」
「3番装填完了。注水開始」
魚雷発射管にはYu-6魚雷が送り込まれ、ゴボゴボという音とともに中が海水で満たされる。やがて、特急列車が走るような音と共に、潜水艦前方の魚雷発射管から記法が出て、ワイヤーを曳きながら魚雷が発射された。
ところが、魚雷発射管への注水音と魚雷の発射音はS-3Bが投下したソノブイに拾われていた。ソノブイは音響データを即座に飛行機へと転送した。
「見つけたぞ!ここから北に17kmだ!すぐそこだ!」
マッキンリーが興奮して、大声で叫んだ。
「何!?ほんの目と鼻の先じゃないか!よし、MADを使って最終位置を割り出そう。それからロックオンだ!」
スレーターが返す。
「魚雷安全装置解除!MAD準備よし・・・・・データリンク確認」
S-3Bの機体後ろから、長いMADブームが伸びてきた。普段は機内に仕舞い込まれているものの、攻撃の最終段階に差し掛かった時だけ、この装置は小さな機体から出てくる。しかし、巡視艇を救うには、もう遅すぎた。
Yu-6は巡視艇目がけて海中を走った。やがて、標的を捉えるとアクティブソナーを作動させた。巡視艇の真下に潜り込んだ魚雷は爆発し、バブルジェットを発生させた。
凄まじい圧力がかかり、巡視艇は真っ二つに折れた。爆発の衝撃は乗組員を死傷させ、海中へと吹き飛ばした。しかし、これがこの潜水艦の最後の攻撃となった。
S-3BからMk46が投下される。もう1発は攻撃が失敗した時のための予備として残しておいた。S-3Bは給油を受けるべく、上空へと一旦離脱した。
アブダビ海軍のAS-532もMk48を投下した。パラシュートでゆっくりと落とされた後、海中に沈み、ソナーを作動させる。やがて、予め入力されたデータ通り、武漢級潜水艦の推進音を捉えると、真っ直ぐ標的へと向かっていった。
凄まじい水柱が上がった。AS-532のクルーはディッピング・ソナーから拾った音から、潜水艦は撃沈されたと判断し、司令部に作戦成功、と知らせた。




