Unti-Submarine Warfare-2
ペルシャ湾 10月10日 1411時
S-3Bが海上約6000メートルを飛行した。これは、対空ミサイルを避けるためで、敵の潜水艦にシエラⅡ級やキロ級攻撃型原潜などが護衛に付いていた場合、SA-N-5"グレイル"やSA-N-11"グレムリン"を垂直発射装置に搭載している危険性があるためだ。ロシア(旧ソ連)は西側にはない思想だが、効果的で独特な兵器運用をしている。この潜水艦に対空ミサイルを搭載するのもそうだが、戦車の主砲から発射する腔内発射型対戦車ミサイルや空母(もっとも、ロシアは条約で空母を通過させることの出来ないダーダネルス・ボスポラス海峡を通過させるために『重航空巡洋艦』を名乗っているが)に対艦ミサイルを搭載させるということまでしているのだ。
「MADに反応は無いな。ソノブイ投下」
マッキンリーが一定間隔でソノブイを5つ投下していく。MADには反応は無い。とは言え、基本的にはソノブイからの音響データとESMを利用して潜水艦を探し、MADは最終的な目標指示をする時のみ利用するので、探している間はそこまで重要なものではない。
「現在、反応無し。データリンク確認・・・・あっちも反応無しのようだ」
モーガン・スレーターは戦術ディスプレイを眺めながらポテトチップスをつまみ、その袋をマッキンリーに差し出す。ヴァイキングの搭乗員は、とにかく刺激がない。しかし、潜水艦が見つかった途端、ゲームが始まる。これは、最高のチキン・ゲームの一つで、潜水艦は逃げ切ったら勝ち、哨戒機は撃沈すれば勝ちだ。だが、今回のケースを考えると、ミサイル攻撃は今朝の一回だけでは済まなさそうだ。つまり、2回目以降の攻撃が行われる時が巡ってくれば、絶好のチャンスが出来るわけだ。だが、敵も馬鹿では無いだろう。UAEがAS-532SCで潜水艦狩りを始めるのは百も承知だろうし、そうなると、虎の子の潜水艦を簡単に前線に出しはしないだろう。
ペルシャ湾海中 10月10日 1417時
NATOコードネーム武漢級こと033G型巡航ミサイル潜水艦『白虎』は静かに海中を進んでいた。この潜水艦は中国海軍が持っていたものであったが、新型の潜水艦が配備されたことにより闇市場に流れていったものだ。当然のごとく、こういった潜水艦は傭兵部隊やテロリストに目を付けられ、この『白虎』もテロリストの手に渡っていった。そして、今、この潜水艦はアラブ首長国連邦へのミサイル攻撃に利用されている。
「おい、次はどこを攻撃するんだ?サウジか?それともイスラエルか?」
テロリストの1人が言う。今回、の攻撃の後、一度港に入ってから兵器を補給し、次の攻撃に備えたのだ。
「いいや。次は所謂"無制限潜水艦作戦"をやるつもりだ」
「何だそれは?」
「この潜水艦の近くを通る商船を片っ端から撃沈してやる」
「本気か?そんな事をしたら・・・・」
「ほう。そして、誰が止められると言うんだ?イラン軍はやる気は無いし、他の国もまともな対潜哨戒機を持っていない。我々を止めることなどできるはずはない。おまけに、これは命令書にもあることだ。見てみろ」
「どれどれ・・・10月10日1430時を持って、『白虎』は無制限潜水艦作戦を行うこと。標的は、アラビア湾指定警備海域を通る全ての商船と及びアブダビ海軍の軍艦。これか」
「ああ。あと10分程で作戦開始だ」
「それで。タンカーも潰して、軍艦も潰して・・・・制海権は我々のものか」
「ああ。例えば、世界に向けて金を払わなければ商船も客船も撃沈し続けると脅すこともできるが、そうすると我々はお尋ね者になってしまうから、勿論、公表などしない」
「そして、ペルシャ湾全域を我々のものにできるわけか」
「そうだ。だが、この作戦には少々問題が有るのは確かだ。我々の存在が知られたら、即座に追い掛け回されるだろう」
「最初の標的は決めている・・・・これとこれだ。この貨物船を攻撃する。対艦ミサイルと魚雷だけを搭載しろ。巡航ミサイルはもういらない」
「了解だ。あまり時間はなさそうだ。急ごう」




