Unti-Submarine Warfare-1
アル・ダフラ基地 10月10日 1330時
「では、諸君。集まったな。ブリーフィングを始める」
アル=カディーリが状況説明を開始した。後ろのスクリーンにアラビア半島のCGマップが映しだされる。
「本日未明に行われたミサイル攻撃だが、ミサイルの種類が分析の結果、ロシア製のAS-15"ケント"ことKh-55"グラニート"ということが判明した。厄介なことに、このミサイルは地上のランチャーや潜水艦などあらゆるプラットフォームから発射できるため、発見が困難だ」
そこで、アル=カディーリは一息ついた。
「今回は潜水艦及び地上発射基地を探す。ということで傭兵部隊のS-3Bと我が軍のAS-532SCによる共同作戦となる。地上発射基地は戦闘機による空爆で潰す。だが、空爆または魚雷攻撃が始まった時点で敵は再び都市部にミサイル攻撃を仕掛けてくるだろうから、まずは潜水艦を排除しなければならない。よって、潜水艦の発見と撃沈後に地上発射基地を潰す。非常に困難なのはわかるが、それしか方法がない。恐らく、潜水艦はペルシャ湾のどこかにいるはずだ。イラン海軍のキロ級は巡航ミサイルの運用能力は無いから標的から除外。可能性があるのは、チャーリーⅠまたはⅡ級ないし武漢級だろう。見つけ次第、撃沈すること。ミサイル基地は、戦闘機から空爆をする。以上。解散」
S-3BのパイロンにMk46魚雷が2発搭載され、更に胴体の兵器倉にはMk60対潜爆雷が積まれていく。一方、他の戦闘機にはGBU-38やAIM-120などが搭載されていく。S-3BとAS-532SCは海上で捜索をする一方で、戦闘機は合図が出るまで待機状態となる。
「早く見つけてくれよ。そうでないと、こっちがいつまでも退屈する羽目になる」
ラッセルがクーンツにそう話しかける。
「簡単に言わないでくれ。潜水艦を探すのは、言うならば、でかい藁の山から動き回るちっぽけな針を探すようなもんだ。原潜なら尚更探すのは難しい。だが、ディーゼルなら運が良ければ、簡単に見つかるかもな」
「どういうことだ?」
「原潜は知っての通り、やろうと思えば1年以上もずっと潜っていられる。だが、実際には乗組員のストレスなんかを考えると、せいぜい数ヶ月が限界だ。それに対して、ディーゼル潜水艦はずっと潜っていられる訳じゃない。実は、ディーゼル潜水艦はエンジンを回し続けるためにものすごい量の酸素が必要なんだ。つまり、酸素を取り込むために少しだけ吸気口を海上に出すか、浮上する必要があるんだ。そこを見つけたら簡単に撃沈きるかもしれないが、最近のはそうもいかなくなっているのが現状だ」
「つまり・・・・」
「最新鋭のディーゼル潜水艦にはスウェーデンで開発された"スターリングエンジン"という、非大気依存型エンジンを使っている。簡単にいえば、とんでもなく長い間潜っていられるし、物凄く静かだから見つけるのが難しい。このエンジンを使っているのは、日本のそうりゅう級やドイツの212A型、スウェーデンのゴトランド級なんかが使っているが、まあ、市場に流出したと言う話は聞かないから、その辺の心配は余りいらんだろ。こいつらは巡航ミサイルは搭載できないしな」
「改造されていたらどうする?」
「確かに、その可能性はゼロではないが、国家機密の塊のような最新鋭の潜水艦を簡単に市場に流すと思うか?」
「まあ、ロシア、旧ソ連製の潜水艦の音紋データはあるから、そいつに照らしあわせて攻撃すればいいさ」
アル・ダフラ基地 10月10日 1359時
魚雷を搭載したAS-532SCが4機、離陸する。S-3Bで広範囲を探索し、発見した後はヘリで囲い込む作戦となった。予め、標的になると思われる潜水艦の音紋データは"ウォーバーズ"が持っていたものをアブダビ海軍に提供した。
S-3Bがエンジンをスタートさせた。高い金属音が徐々に掃除機の吸い出し口のような音に変わっていく。この特徴的なエンジン音から、この飛行機はアメリカ海軍の兵士たちからは"フーバー"(注;アメリカの掃除機メーカーの製品)と呼ばれていた。パイロンにはMk46魚雷を爆弾倉にはMk60爆雷を搭載している。
『こちらアル・ダフラタワー。"ジョーズ01"、離陸を許可する』
「"ジョーズ01"、離陸する」




