Ocean Watch
アル・ダフラ基地 10月10日 0041時
"ウォーバーズ"の戦闘機の改造が着々と進んでいる。F-16とユーロファイターはレードームを開けられて中がむき出しになり、そこに新たなレーダーを取り付ける作業が進んでいる。MiG-29とSu-27はコックピットの一部も取り替えられるため、かなり大規模な改修作業が行われている。大きな皿が関節の先に取り付けられたようなレーダーが外され、その代わりみたいに小さなが突起が無数に並び、その面を動かす関節の無いレーダーが装着されているが、ユーロファイターには関節のあるものが取り付けられている。
「ようし、後はエンジンだけだ。全部完了したらテストしないとな」
マグワイヤは作業の様子を見ていた。思ったよりハイペースで進んでおり、7日以内には実戦化できそうだ。既存の軍用機や戦闘車両、またはコルベットや哨戒艇などの小型艦船の近代化改修キットは欧米やロシアなど、様々な国で生産されており、その殆どがPMCや傭兵組織向けに販売されている。しかも、大手PMCならばそれらを自前で生産したりもしている。
「全部でどれくらいかかるだろうか。敵は待ってはくれないぞ」と、様子を見ていたトーマス・ボーンが言った。
「もう一回日付が変わって、そこから日が昇るには完了するさ。そして、全部テストするのに丸1日かかるから、完全な実戦化は3日後だな。F-15の方は組み立てだから5日後だな」
マグワイヤが返す。
「そんなにかかるのか」
「プラモデルと一緒にしないでくれ。とにかく、組み上がったらシステム全部を一度自己診断システムでチェックしてから試験飛行をしなきゃならない。戦闘機はあんたが思っている以上にデリケートなんだ。これでも技術部門の人間が総出なんだぞ」
「わかった、わかった。悪かったよ。俺は歩兵出身だから、そこんところがどうも疎くてね」
S-3Bが深夜のパトロールのために離陸した。すぐ後にアトランティック哨戒機が着陸する。ペルシャ湾に配置された潜水艦やフリゲートから巡航ミサイルによる攻撃が行われる危険性がある上に、イラン海軍に対する監視という重要な役割もある。テロリストに狙われている現状だけでも大変なのだが、イランがこれに便乗してペルシャ湾を封鎖しようとしないとも限らない。また、テロリストが潜水艦で攻撃してくる可能性もある。だから、対潜哨戒機が必要だった。これにはあまり不自由はしなかった。アメリカでP-8、日本でP-1が配備されていったため、大量のP-3Cが余剰兵器市場に出回った。航空戦力を主体とするPMCがこぞってこれを買っていったため、哨戒機を持たない小国は警戒任務をそういったPMCに委託していた。
ペルシャ湾 10月10日 0047時
S-3Bヴァイキングが円を描くような動きでペルシャ湾上空を飛ぶ。ここで見つかる潜水艦は大抵はイラン海軍のキロ級であろう。だが、それには巡航ミサイルを搭載する能力は無いので、恐らく、テロリストが使用したのはエコー級かヴィクター級であろう。どちらの音響データも持っているため、そこにいればすぐに分かるはずだが、潜水艦を見つけるというのは非常に骨の折れる仕事だ。喩えるなら、藁の山から一本の動き回る針を探すようなものである。洋上に出るとMADブームを伸ばして、潜水艦を探し始めた。
アラン・マッキンリーはじっと磁気探知機のデータ表示画面を眺めた。これは、地球の磁気を表示しており、潜水艦のような大きな金属の塊の上を通ると、平坦な緑の線が乱れる。今のところは潜水艦はこの近辺には進出していないようだ。
「今日はこんな遅くに飛ぶとはな。いい加減、体内時計がおかしくなってくる」
彼は不満をこぼした。S-3Bのクルーは真夜中に離陸して朝方に着陸、デブリの後、昼間に睡眠をとって夜に出撃、というタイムテーブルで任務を行っている。だが、他に展開しているPMCがいないので、必然的に"ジョーズ01"ことマッキンリーたちにしわ寄せがやって来る。
「この辺で潜水艦があるとすると・・・イランのキロ級くらいか。だが、中共が漢級潜水艦をイランやパキスタンに提供している、という話もある。まあ、そういうのを見つけて撃破するのが俺たちの役目だけどな」
モーガン・スレーターが返す。
「まあ・・・・今のところは反応は無いな。もうちょっとイラン側に行けるか?」
「駄目だ。UAE周辺海域から出るなとのお達しだ。それに、今日は2時間で戻るぞ。それ以降になると、天気が荒れる」




