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 アル・ダフラ空軍基地 10月9日 1215時


 思いがけない事態となった。演習は当然のごとく中止となり、全ての軍、PMCのパイロットは基地へ帰還した。佐藤は基地の軍医から診断を受けたが、脱出した時に左腕に軽い切り傷を負っただけで済んだようだ。脳震盪や脳挫傷も無し。スタンリーは急遽、ディエゴガルシア島と連絡を取り、F-15Cの予備機を運ばせるよう手配した。アブダビ空軍のパイロットは警戒待機体制となり、通常の訓練も停止。常時4機の戦闘機が空中哨戒を行い、更に4機が待機状態となる。ニュースはすぐに世界に広がった。まずはアルジャジーラが。続いて、CNNやBBCがこの事件を報道し、あっという間に世界を駆け巡った。


 アル・ダフラ空軍基地 10月9日 1953時


 佐藤は救護室のベッドで横になっていた。眼鏡は隣のキャビネットの上に置いてある。軽傷だったのが幸いし、予備機が届いてアブダビ空軍の医官から許可が下り次第、フライトに加わって良いと司令官から直々に伝えられた。自分を撃ったのはSu-57だった。恐らく、ロシアがこっそり闇市場に流したのであろう。

「よう、気がついたか?」

 扉から覗きこんだピーター・ギブソンが話しかける。佐藤は手を振って答えた。

「もう、それほど痛まないな。診断結果はどうだって?」

「擦り傷と切り傷が幾つか。脳震盪も骨折も、脊椎や内蔵の損傷も無しだが明日の朝までは安静にしてろとさ。それから、彼女に感謝しろよ」

 佐藤はギブソンの視線の先を辿った。原田が椅子に座ったまま眠っている。

「やれやれ、子供じゃないんだから」

だが、ギブソンは肩をすくめただけだった。

「ところで、奴らは何者なんだ?何か犯行声明のようなものは?」

「無しだ。敵もどこから来たのかは不明。予備機は明後日には完成するから、すぐにフライトに復帰できるだろう。それから、腹は減ってないか?」

「何か食わせてくれ。空腹だ」

「なら良かった。だが、いきなり固形物を食べるのは感心できんから、スープとゼリー、それからココアがいいだろう」

「コーヒーは?」

「今、カフェインを飲んだら頭痛が酷くなるぞ。それよりも、ブドウ糖をたっぷり摂っておけ」

「アイアイ・サー」


 C-17が滑走路に着陸した。これでアブダビとディエゴガルシア島を2往復したことになる。エプロンにタキシングして、駐機し、貨物を下ろし始めた。中身はAN/APG-63(v)3レーダーやF-110エンジンだ。

「まさかユウが撃墜されるとは・・・・」

 スティーブン・コールは降ろされたF-15の部品を見て言った。戦闘機の飛行隊長が墜とされるだなんて信じられない。

「撃ち落としたのはPAK-FAに乗ったパイロットだ。多分、フリーランスの傭兵かテロリストだ」

 ラッセルが答える。

「PAK-FA・・・そんなものをどうやって手に入れたんだ?ロシア空軍にまだ実戦配備もされていないだろ?」

「ああ。初期作戦能力取得はあと2ヶ月のはずだ。それまではまだ実戦配備はされていないはずだ」

「くそっ、どうなってやがる」


 オマーン某所 10月9日 2011時


 地図に載っていない滑走路にSu-57が着陸する。その後ろからJ-20、J-31、J-10Bが続く。この滑走路、実は洞窟の外に南北それぞれ1000メートル程が出ているだけで、残り3000メートルは厚さ17メートルの岩盤に隠れている。洞窟は幅約780メートル、高さは一番低い所で55メートル、高い所で230メートルとかなり巨大だ。

 

 ボグダン・マルコヴィッチは今回の戦果にはあまり満足していなかった。撃ち落としたのはF-15Cが1機だけ。パイロットは運の良いことに脱出するのを確認した。

「ボグダン」

 声をかけたのは蒋玲峰という中国人の女だ。

「あんたは何機落とした?」

「1機だけだ。だが、聞いて驚くなよ。落としたのは、あの空戦無敗と呼ばれたF-15だ。ようやく、あの傲慢なアメリカ人の自慢の戦闘機の経歴に傷を付けることが出来た」

「こっちは4機。でも、全部ミラージュ。次はどうするの?」

「今回はほんの小手調べだ。今度はアレを使う」

 マルコヴィッチはTu-22を指さした。

「空爆?」

「ああ。ドバイを攻撃する。ところで、潜水艦の方はどうなった?」

「準備完了よ。どうするの?短距離弾道ミサイルなんかで?」

「潜水艦からミサイルでバーレーンを攻撃する。今回のは失敗だったが、今度こそあそこを壊滅させる」

「ふぅん」

「UAEの対潜能力だなんてたかが知れているだろ」

「まあ、日本に比べたらずっと攻撃し易いわね」

「あの国を潜水艦で攻撃するのは愚の骨頂だ。あそこには最新鋭の哨戒機がある」

「ところで、私たちの存在を公表しなくていいの?」

「まだその時じゃない。まあ、その時になったら世界に教えてやるさ」


 アル・ダフラ空軍基地 10月9日 2034時


 F-15Cが組み立てられている。急を要するが、スタンリーは技術者たちをあまり急がせなかった。プレッシャーをかけ過ぎると、返って良い仕事はできない。だが、それほど時間はかからないはずだ。

「ボス」

 話しかけたのは技術主任のスペンサー・マグワイヤだ。彼はアメリカ空軍エドワーズ空軍基地でF-35のテストパイロットを務めていた経歴を持つ。その後ろにいるのは高橋正。海上自衛隊第51飛行隊という試験飛行隊にいたパイロットで、P-1やUP-3Cを飛ばしてきた。

「F-15Cのことですが、アレを試させて貰おうと思いまして」

 マグワイヤはF-15Cの機首に付いている奇妙なコブのような物を指さした。

「何だこれは?」

「IRSTです。それから、エンジンをF100-PW-220EからF110-GE-129に換装してみました。まだ試してみたいものがありまして・・・・」

「何だ?」

「F-16のレーダーをAN/APG-66(v)9からAN/APG-80に取り替えたいのですが。そして、ユーロファイターのキャプターをキャプターE、つまりはシーザーに。フランカーのレーダーをN035イールビスEに、ファルクラムにはファザトロンN-019に替えてジュークAに」

「そんなに改造して大丈夫なのか?」

「問題無いですよ。操作方法は変わらないですし、レーダーの範囲とモードが多少増える程度です。まあ、後で私が5人にレクチャーしますよ」

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