Abu Dhabi Flag Day2-3
アラビア湾 10月10日 0914時
CH-53EとCV-22B、AH-64Dが海上を飛行する。アブダビ空軍のパイロットの救出もするつもりだが、最優先なのは自分たちの仲間の方だ。
「こちら"アナコンダ"。奴のビーコン信号を確認した。現着まであと5分・・・・待て、敵機か?あれは・・・・」
ベングリオンはロングボウ・レーダーで海上を捜索した。そして、大型ヘリが1機、飛んでいるのを確認する。
「それどれ、TADSSを使えば見えるな。ズーム」
ツァハレムは標的を確認する。そして、それを見た時、背筋が凍った。そのヘリはWZ-10という中国製の戦闘ヘリだ。しかも、機関砲を下に向け、脱出して着水したパイロットを撃っているではないか!
「畜生!なんて奴だ!あいつら緊急脱出したパイロットまで殺す気だ!」
ベングリオンはスティンガー・ミサイルの安全装置を解除した。すると、こっちを見つけたのか、敵の戦闘ヘリが向かってきた。
「こちら"アナコンダ"。そいつの相手は引き受ける!お前らは救出を急げ!」
AH-64DはWZ-10へと突進した。敵もそれに気づいたのか、一気に距離を詰めてくる。WZ-10にはAH-1W/ZやAH-64Dと同様に、空対空ミサイルの携行能力が有るとされているため、空戦は避けられない。開発にはアグスタ・ウェストランド社が関わったとされており、パッと見た目はイタリアのA-129マングスタによく似ている。ベングリオンはIRジャマーのスイッチを"STBY"の状態にした。これは、特にヘリや輸送機など低速の軍用機に搭載される装置で、赤外線フラッシュを乱射させて赤外線誘導式ミサイルの目を眩ませるが、どれほど有効なものなのかは未知数である。2機の攻撃ヘリは正面からお互いに突進した。
佐藤は波間を救命ボートで漂った。左手で双眼鏡を持って周囲の様子を確認しつつも、右手は組み立てた装填済みのSiG-SG552アサルトライフルを持っている。ようやくヘリの羽音が聞こえてきた。よく見ると、北と西、両方からヘリが飛んできている。そして、北から飛んでくるのはCV-22BとCH-53Eだということを確認した。だが、西から飛んでくるのは?Z-9が3機だ。クソッタレ、敵が撃墜したパイロットを捕虜に取ろうとしているようだ。よく見ると、Z-9はホバリングを始め、中からクルーが降りる。そこにも撃墜されたパイロットがいるようだ。しかも、クルーは助けに来たを思ったパイロットを不格好な拳銃のようなもので撃つ。パイロットがぐったりとなると、そのクルーはヘリへと気絶した捕虜を吊り上げていった。最悪だ。ロビー、早く来てくれ。
「ターゲット確認。まだ生きている、よし、吊り上げる」
CH-53Eからロープでガードナーが降りてきた。佐藤にハーネスを装着すると、そのまま吊り上げる。どうやら間に合った。だが、敵は諦めるような連中では無かった。
CH-53Eがパイロットを吊り上げるのを見たZ-9編隊のうちの1機の機長は中国語で叫んだ。一方、コパイロットの方は朝鮮語で返す。そして、僚機を連れて猛然とオスプレイとシースタリオンを追ってきた。
アラビア湾上空 10月10日 0943時
「こちら"パイソン1"。雄インコを回収!だが、問題発生だ。敵はどうしても俺らを捕虜にするつもりなのか追ってくる!"アナコンダ"早く来てくれ!」
ブリッグズは無線で報告した。オスプレイは固定翼機モードにしてしまえば、Z-9を振り切る事はできるが、そうするとシースタリオンを置いていく事になってしまう。
「クソッタレ!どうするんだ?」
コナリーが返す。
「IDWSを使え!奴をビビらせてやれ!」
オスプレイのキャビンの中にはGAU-2/Bが有る。これは、普段は機内に仕舞い込まれているが、緊急時にはキャビン下のハッチが開くことで対地射撃可能な機銃となる。しかし、空対空目標を射撃するには、少々敵機に対して高度を取る必要がある。
Z-9のパイロットはオスプレイがなかなか速度を上げないことを不思議に思っていたが、すぐに答えに辿り着いた。CH-53Eの速度に合わせるために、スピードを上げられないのだ。これは好都合だ。そして、標的に狙いを定め、機関砲を発射した。
「クソッ、クソッ!撃ってきた!」
CH-53Eに機関砲弾が当たる。機体は防弾処理されているが、それでも心許ない。弾丸が機体に当たる音がするが、幸いにも燃料タンクやトランスミッター、エンジンに損傷は無いようだ。
オスプレイとシースタリオンは見事な編隊を組み、逃げようとするが重い輸送ヘリは俊敏な攻撃ヘリからしてみたらいい標的だ。
「こちら"パイソン2"。敵の攻撃を受けている!Z-9が2機だ!なんとかしてくれ!」
『こちらウォーバード6。敵はヘリなんだな』
「そうだ、早く撃ち落としてくれ!」
アラビア湾 10月10日 0921時
ラッセルは追われている味方を確認した。だが、ミサイルは演習と交戦でほとんど使いきってしまってい、あと1発しか残っていない。機関砲は、下手したら味方を撃つ恐れもある。そこで、彼は3つ目の選択肢を試すことにした。敵のヘリ目掛けて急降下する。
「ウェイン、どうする気だ?ミサイルは1発しか無いし、機関砲は下手に撃てないぞ」
ロックウェルは相棒が何をしようとしているのかわからなかった。だが、彼は無言でストライクイーグルを飛ばした。
「"ウォーバード6"より"パイソン2"へ。合図したら右へブレイクしてくれ。繰り返す、合図したら右へブレイクしろ」
『了解だ。何をする気なんだ?』
「まあ、見てろよ。今まで誰もやったことがないと思う事をするからな」
ストライクイーグルは急降下してWZ-9とオスプレイの間に割り込んだ。そして、エンジン出力を慎重に絞り、時速約300kmというF-15の最低飛行速度で飛ぶ。
「ブレークしろ!」
ラッセルが合図した。そして、味方が自分の進路上から離れるのを確認すると、スロットルを一気に前に倒してアフターバーナーに点火した。
WZ-9のパイロットは、突然、戦闘機が目の前に現れて驚いた。相棒の北朝鮮人も目を丸くしている。F110エンジンのテールパイプがハッキリと見えた。だが、すぐにWSOに朝鮮語で撃てと命じた。北朝鮮人のWSOは引金に指を掛けたが、イーグルがアフターバーナーに点火した。凄まじい推力で空気がかき乱され、ヘリは錐揉み状態になった。パイロットは中国語でまくしたてたが、コントロールを失ったヘリと共に、アラビア湾へと沈んでいった。
「一丁上がり!ようし、次だ!10時の方向!」
WZ-9がもう1機、飛んでいる。ラッセルはそれをJHMCS越しに睨み、ロックオンした。
「Fox2!」
AIM-9Xの最後の1発を発射する。勿論、ヘリは逃げられるはずも無く、空中で爆発した。




