Abu Dhabi Flag Day2-1
アル・ダフラ基地 10月10日 0837時
ウェポンローダーにAIM-120やAIM-9、ミーテイア、R-73、R-27といった各種空対空ミサイルが載せられて運ばれている。今日、午前中の訓練内容は空対空の実弾射撃で、それが行われる空域と海域は全面的に軍の飛行機や艦船以外は立入禁止となった。標的になるのは無人機化されたMiG-21やMiG-19だ。全ての戦闘機に空対空ミサイルを搭載させ、予備の燃料タンクも多めに搭載させる。この日のブリーフィングは既に早朝のうちに済まされており(例によって、パワー・ブレックファストとなった)、パイロットたちは飛行機の離陸準備が完了するのを待つだけだった。
標的になる無人機のコックピットに遠隔操作装置を組み込む作業が進んでいた。撃墜されて終わるので、燃料は片道分と必要時間滞空するための最小限度の量だけ給油された。
佐藤は自分のF-15Cにミサイルが搭載される様子を見ていた。が、"ウォーバーズ"の整備員がAIM-9Xを搭載しようとしているのを見て、すぐに呼び止めた。
「おーい、羽のランチャーには1発だけアレを搭載してくれ。今日、試す予定だったんだ」
彼が指さした先にはウェポンラックがあり、そこには弾体前部カナードが無く、そのかわりみたいに長いストレーキが付いているミサイルが10発程載っている。
「なんですか?これ」
「こいつを手に入れるのは、だいぶ骨が折れたよ。数が少ないから大事に使わないと。今、持っているのはこれで全部だからな」
このミサイルはAAM-5、別名04式空対空誘導弾だ。日本製で海外には出回っていないが、佐藤は裏ルートを使ってこれを手に入れたのだ。だが、武器輸出規制が依然として他国に比べて厳しい日本からましてや戦闘機用のミサイルを手に入れるのは骨が折れた。
「了解です。ところでボスはこれを知っているのですか?」
「知る必要は無いさ」
アル・ダフラ基地 10月10日 0900時
背中に大きなレーダーを背負ったボーイング737が先に離陸した。スタンリーは訓練空域の様子を調べた。先に離陸した標的用の無人機が飛んでいるのを確認する。やがて、傭兵部隊とアブダビ空軍の戦闘機が予定通り15機、離陸した。編隊を組み、訓練空域へ巡航速度で飛んでいく。今回は空中給油機はすぐ離陸できるように待機させてはいるが、まだ必要な時ではなかった。予報によると、今日はよく晴れて低気圧の接近もなく、穏やかな1日になるはずだった。
AH-64DとCV-22、CH-53がアブダビ空軍のUH-60Mと編隊を組んでコンバットレスキューの訓練に向かった。
「中東の辺りを飛ぶのは久々だな。まあ、今日は海上だから砂漠を見ずに済みそうだ」
パイロットのブライアン・ニールセンは砂漠が嫌いだった。喉は乾くわ、暑いわ目に砂が入るわ。アフガニスタンやイラクで従軍していた時も、砂漠にいい思い出は無い。砂を巻き上げて、それがエンジンに入り込んでトラブルを起こすし、帰ってきてから砂まみれのヘリを夜が明けるまで洗っている整備員を見ると、気の毒でならなかった。
「何だあれ?」
窓の外を見ていたクルーチーフのストークリー・ガードナーがボソリと言った。
「何?何を見たのよ」
コパイロットのキャシー・ゲイツが訊く。
「今、イランの辺りかな?戦闘機らしきものが飛んでいたような気が」
「イラン空軍?」
「かもしれない。だが、こんな所まで何をしに・・・・ん?」
「次は何なの?」
「俺の見間違いじゃなければ、H-6Kだなあれは」
「本当かよ?」
ニールセンはコックピットの右側の窓から外を見た。確かに、たくさんの大型飛行機が飛んでいるが、それが何なのかはわからない。
「空軍上がりの金持ちが旅客機で編隊飛行をしているんじゃないのか?ここじゃ珍しくもないだろ」
「いや、間違いない。あれはクソロシア製のクソ爆撃機だ」
『こちら"アナコンダ"。"サラマンダー2"どうした?』
ツァハレムが無線で呼びかける。
「3時の方向に爆撃機の編隊を見たとストークが言っています。何か見えましたか?」
『いや・・・・ん?待て、レーダーに反応があるな。全部で1・・・いや2つだ。何だこれは。速度が早くて識別できない。"ゴッドアイ"に聞いてみよう』
アラビア湾上空 10月10日 0902時
「司令官、"アナコンダ"から入電です。何か奇妙なことになっているようですが・・・・」
原田がスタンリーに通信を繋いだ。
「どうしたデイヴ。何か問題でも?」
『司令官、ストークが国籍不明機の編隊を見つけたと言っています。今、繋ぎますね』
少しガリガリという音がして、ガードナーが無線で応答を始めた。
『ボス。確かに見ました。レーダーで調べてみてください。H-6KかTu-16が飛んでいます』
「レーダーは中距離モードで使用中だ。そんなものは何も映っていないぞ」
『では、遠距離モードを試してみて下さい。あれはコースから考えると、ドバイに向かっています』
スタンリーは不満気に唸ると、レーダー・モードを切り替えた。すると、"unknown"と表示されたアイコンが一気に増えた。3つ程のグループになっており、コースと速度から考えると、全て同時にドバイ上空に到達する。
「これは一体・・・・何だ?」




