Abu Dhabi Flag Day1-2
アラビア湾上空 10月9日 1425時
2機のミラージュがSu-27とMiG-29の編隊を追っている。だが、2機のロシア製戦闘機は高い運動性を生かして、時折、アブダビ空軍のパイロットをおちょくるような動きをする。これが実戦であったら、ミラージュはこの"敵機"の真横の位置に来た途端、忽ち撃墜されていたであろう。"ウォーバーズ"のフランカーとファルクラムはキャノピーの前に搭載されたIRSTと連動するスーラ・ヘルメット装着目標指示装置を使用するため、左右60度までの範囲にいる敵機にR-73を発射することができる。だが、これを使ってしまってはさすがにフェアではないとコルチャックは考え、正攻法で戦うことにした。これは"実戦"ではなく、あくまでも模擬戦なので、多少のフェアプレーは許されるだろう。後でボスにこっぴどく怒鳴られるかもしれないが、それは自分の流儀ではない。だが、カジンスキーの方はHMDでロックすると、あっさりとミラージュを"撃墜"した。
コルチャックは素速く旋回して"敵機"をかわそうとした。案の定、エンジンのパワーと機動性で劣るミラージュ2000Cはついて行けない様子だった。向こうはアフターバーナーを使ってようやくこちらを視界に入れているのに対して、傭兵が駆るSu-27はミリタリー・パワーであっさりと振り切る。だが、ミラージュのパイロットは簡単に諦めるような腑抜けではなかった。
ミラージュのパイロットは舌を巻いた。フランカーと模擬戦をしたのは初めてだったが、多くの戦闘機パイロットがこの機体を脅威に感じるのはもっともだというのを改めて認識した。こちらが追跡できたのはほんの数十秒だけだったが、逃げる時にアフターバーナーをあまり使っていない。これは、エンジンのパワーにかなりの余裕があることを示しており、機動性も抜群である。この戦闘機に対抗できる機体があるとしたら、第4世代以下ならばF-15しか無いだろう。フランカーは突然、機首を急に真上に近い角度に引き起こした。プガチョフ・コブラだ。あっと思った時にはオーバーシュートしてしまっており、形勢逆転したSu-27が今度はこっちを追ってくる。そして、フランカーを振り切ることができない。急上昇してからスプリットSも試してみたが、全くもって効果が無かった。
『Fox3』
ガンキルだ。これは彼にとっては屈辱だった。ガンキルされたということは、向こうはいつでも短射程ミサイルによる撃墜宣告をできたということだし、相手は自分の命を握っていたも同然だったのだ。
1番機を"撃墜"されたシュナイダーは自分を奮い立たせた。これが実戦であったならば、仲間であるヒラタは死んでいたのだ。その代償は必ず"敵"に払わせると決心した。今は先程ヒラタを"撃墜"したF-16を追っている。だが、そのF-16はもう1機と合流して飛んでいる。これで格闘戦になっては分が悪い。よって、彼はこの"敵機"を遠巻きに観察することにした。
「こちらウォーバード7、援護を要請する。敵機1時方向。座標は・・・・」
『俺の出番かな?8時方向を見てくれ』
シュナイダーが後ろを見ると、F/A-18が僚機の位置に入ってくるのが見えた。
「ウォーバード3、援護しますので指揮をお願いします」
『いや、ハンス。君が1番機になってくれ。後ろは任せてくれ』
シュナイダーは戸惑った。なぜ自分が1番機を?確かに空軍にいた頃はエレメントリーダーの資格は持っていた。だが、ここではその資格を持つほどのレベルに自分は達していないと感じていた。F/A-18やMiG-29は現役時代も演習で見慣れていた機体だったが、コガワもカジンスキーも今まで出会ったそれらに乗るパイロットとはまるで違う動きをするのだ。だが、今は考えている時間は無かった。
『ウォーバード7。復唱、確認せよ』
「了解、ウォーバード3。我に続け」
空中戦は更に続いたが、燃料が限界を迎えたため、決着が付かずに終わった。
アル・ダフラ空軍基地 10月9日 1504時
演習を終えた戦闘機が次々と着陸した。パイロットの誰もが激しい模擬空戦を演じたため、KC-10だけでは燃料が足りず、急遽KC-135Rを離陸させることになった。幸いにもガス欠になってしまう前に間に合ったため、大切な戦闘機を墜落させる事態だけは避けられた。
デブリーフィングが始まった。アブダビ空軍のパイロットたちは1機撃墜判定を出したものの、"ウォーバーズ"が5機撃墜という結果だった。傭兵部隊の勝利だ。
「1機しか"撃墜"できなかったのは不本意だった。しかし、これで我々は彼らの実力がどれだけのものかわかっただろう。我々はもっと戦技を磨かねばならないことは明白だ」
アル=カディーリは一度、言葉を切った。
「さて、翌日の予定だが、午前中に実弾射撃訓練を行う。場所はアラビア湾上空。標的は無人機を使う。使うのは機関砲と空対空ミサイルだ。以上、解散」




