その一 高校一年・夏休み 立村上総の振り回される日々
みどり色の四季だより
その一 高校一年・夏休み 立村上総の振り回される日々
──またかよ。
電話が鳴るたびに起き上がるのが億劫だ。もう夜の九時過ぎだというのに何が楽しくて居間でごろごろしていなくてはならないのだろう。父が部屋に引っ込んでくれたのが救いではあるけれども、また延々と続く電話の嵐に耐えねばならないのはやはりしんどい。
「はい、立村です」
──霧島です。夜分恐れ入ります。
もちろん野郎の声だ。何度聞いたんだ今日は。こちらもそろそろ堪忍袋の尾が切れる。
「あのさ、霧島、今日何度目か数えているよな? 確か一時間前にもかけてこなかったか?」
──おっしゃる通りです。ただ追加の用事がございますもので。
いったい何を言いたいんだ。おちおち風呂にも入れやしない。真夏だから湯船に入らずシャワーで良いじゃないかといわれればそれまでだが、こちらだって気分というものがあるのだ。いろいろすっきりしたいことだってあるというのに。
「明日だと問題あるのかな」
──もちろんです。先輩、お時間よろしいですか?
「できれば明日に回してほしいな。親にかかってくる電話もあるしさ」
嘘ではない。父に母が連絡をよこしてくることは多々あるし、うっかり長電話にひっかかろうものならどんな罵倒が待っているかしれやしない。被害者としてできれば避けたいところなのだ。それを伝えたくとも霧島の耳には全く届かないようだった。
──それではすぐに終わらせます。よろしいですか? 杉本先輩のことですが。
息が詰まる。のどもとにたまるものはなんなのか。背中が急に冷える。身体が少しだけしびれる。コントロールできないこの感覚が上総にはいまだにわからない。
「杉本のことって?」
しくじった、またあいつの思う壺だ。こういうところが自分の間抜けなところなのだ。二歳も下の後輩にさんざん自分の感情をゆらゆらさせられて、ついひっかかってしまう。もし霧島が例の険悪な関係の姉に対してくどくど愚痴るようであれば、あっさり突っ放してやってもいいと思っていた。生徒会事情について、とっくに決着がついたはずの問題を引っ張り出すようであればいい加減にしろと怒鳴ったっていい。しかし。
──立村先輩であれば、これは必ずお知りになりたい内容ではと思いましたので、一刻も早くお伝えしたいかなと。いうことです。
青大附中二年、生徒会副会長。実質的なナンバー1と呼ばれている次期生徒会長確定者。
すでに評議委員会から権力を奪い取り、学校行事はもちろんのこと、他中学との交流活動も積極的に行い、まれに見る輝ける世代として現在、教師たちからの覚えもよいようだ。その理由がトップに立つ佐賀はるみ生徒会長のそつのなさと、陰で支える霧島生徒副会長の名コンビぶりとあっては誰もぐうの音が出やしない。かつては青大附中歴代最悪の評議委員長として冷笑された立村上総には何も言い返すことなどないはず、なのだ。
少なくとも霧島に上から何か申し渡したりすることのできる立場になんて、絶対なるわけがなかったはずなのだ。決して。
もっと言うなら、
「あのさ、霧島。早速連絡してくれたのはありがたいんだ。けど、本当にいいのか? お前、あいつのことに興味なんかないだろ?」
──ご興味をお持ちなのは立村先輩の方でございますしね。
世の中に「慇懃無礼」の実例があるとすれば、霧島真、奴が最強のモデルに違いない。しかも全く言い返せないときている。
「霧島、一応、先輩に対する言い方考えような、俺もあまり細かいこと言いたくないけどさ」
──価値のある方々にはもちろん、僕もそのような話し方をいたします。ただ立村先輩に対しては、もう言うまでもないことですから。
「わかったわかった。よくわかったから、さっさと用件話してくれないかな」
もう霧島に、先輩を敬うべき礼儀を教え込むなど考えない方がいい。とっくの昔にあきらめていることだ。上総が何もしなくても時間に任せておけば必ず何か起こるだろう。時間がすべて解決してくれる。ああきっと、そうさ。そうに決まっている。
──少し混み入った話ですがよろしいですか?
やはり長話になりそうだ。上総はそのまま受話器を握り締めたままソファーの背の上に座った。霧島真の話はとにかく長すぎる。女子だってこういう奴はそうそういなかった。
──昨日まで青大附中生徒会合宿がありまして、一泊二日でしたが青潟青年の家にてひたすら語りつくしてきたのですが、その時に興味深い情報を入手いたしました。
やたらとしゃちほこばったしゃべり方をする霧島。一学期の出来事で十分過ぎるほど慣れたし嫌悪感はなし。免疫はある。黙って促すのが勝ちだ。
──最近、杉本先輩に殿池先生がずいぶんと接触しているとのことです。
「殿池先生がか?」
ぴんとこない。もちろん殿池先生が上総の代でC組の担任だったこと、四十台独身だが顔と比例して子どもっぽいしゃべり方をする不思議なキャラクターの持ち主だということは知っている。ついでに言えば、殿池先生は霧島にとって憎っくきあの……。
──そうです。姉の担任だった、あの殿池先生です。
積極的に接したことはないけれども、もちろん隣のクラスの担任だったこともあるので礼はきちんとする。上総の聞き知る限りのんびりした雰囲気で、C組の元気な女子たちも反抗せずむしろ「頼りないおばちゃんだし私たちが支えなくちゃ!」といったムードに持っていったようだ。姉嫌いはなはだしい霧島には悪いが、そのはつらつムードをこしらえたのが、言わずとしれたかの方であることは間違いない。
「だが接触ったって、教師なんだからそりゃあ話くらいするだろう」
──いえ、しかし、担任でもないのに家庭訪問など積極的に行うものでしょうか。
「する、結構当たり前って顔でするよ」
もちろんこれは実体験である。狩野先生の静かな横顔がちらと浮かぶ。そういえばあさっては狩野先生に青大附中に呼び出されているのだがそんなこと言う必要なんてない。
──立村先輩のような問題児ならともかくも。いや、そうか、そうですね。
「お前何一人で納得するんだよ」
がっつり否定ができないのがわが身の脛に傷のある身ゆえ。なんだか霧島としゃべっていると二年後輩の相手に頭を下げねばならない場面が多々出てくる。はっきり言おう、ものすごく悔しい。
──特殊な例はさておき、通常は担任外の、しかも担当なさる学年も異なる先生が出入りするなど、めったにないことではないでしょうか? 少なくとも僕は耳にしたことがございません。
「まあ確かにな。E組がらみで何かあったのかな」
独り言がもれる。青大附中が杉本梨南に対して行ってきた多々の屈辱的扱いは、上総から見ても許しがたいものがある。そのひとつがつい一週間前まで引きずっていたものであり、上総はいまだにその結末を受け入れていない。肝心要の杉本が大人の判断で受け入れて一件落着……と持っていきたいところなのだろうが、上総からしたら「杉本梨南の単純で素直すぎる発想の結末」に過ぎない。一言で片付ければ「賢い奴らに乗せられた」だけである。いい加減気づけと言いたいところだが、肝心の杉本を捕まえて説教する機会がまだない。電話してもなかなかつかまらない。しつこくし過ぎたら電話自体拒否されてしまうかもしれない。こういう時、異性の先輩の立場を呪う。
電話の向こうに聞こえる霧島の声は相変わらず甲高い。耳に響きすぎる。鼓膜に稲妻走ってそうだ。
──杉本先輩はすでに、B組をメインになさってらっしゃると伺いましたが。二学期以降はあの、最低な女子が通うことになりそうですが。
「その言い方はよくない、話を続けてくれ」
素直に霧島は続けた。珍しい。
──僕の記憶によりますと、姉の進学先でもめ始めたのも今思えばその頃でした。もちろん殿池先生は姉の担任でしたから、何かにつけて家庭訪問を行うことに違和感はありません。母は食べるものものどに通らず夏風邪で伏せっておりました。
「そうだろうな、大変だったろうな」
姉・ゆいの進学問題ももちろんだが、霧島姉弟の諍いの激しさを思うにそちらもかなり神経すり減らしていたのではないかと思う。当事者を前にさすがにそれば言えない。霧島家の複雑な事情を本人経由で聞かされてはや二ヶ月近く経つ。
──そこで思い出したのです。
霧島は言葉を切り、思わせぶりに黙った。
「何を?」
──お知りになりたいのでしょうか?
「だって教えてくれるって言ってたから、知りたいさ。聞いてなかったらそれほどでないかもしれないけど」
──立村先輩は正直な方ですね。
もういい、何言われようがかまわない。もう上総は自分が超極上の飾り釣り針にひっかかってしまったものだと覚悟している。最初に「杉本先輩」などと言われていなかったら早く電話を終わらせる言い訳も見つかっただろう。すでに青大附中卒業式英語答辞の事件をきっかけに、上総は霧島を含む多くの全校生徒および教師たちからお笑いの種となることを義務づけられてしまったのだから。事実ではなくても、受け入れる覚悟はある。
「それで、何を思い出したんだよ」
──この時期にいらした殿池先生が、母に何を薦めにきたのか。です。少なくとも絽の着物を新調とか、花火大会のために浴衣を一枚などと考えたわけがございません。
「浴衣はともかく、今から絽を作るってのはないだろ、いくらなんでも時期選ぶし」
──立村先輩さすがです。そこのところだけは褒めて差し上げます。
「ああわかった、褒められてうれしいよ」
投げやりに答えるしかない。夏の暑い盛りに身にまとうならやはり絽の着物だろう。そのくらいの知識は持っている。母に植え付けられた、とも言う。ただ今から緊急で新調するのならば恐らく、殿池先生に縁談でも……いや、そういう話ではない。
──おそらくですが、進路のお勧めではないではないか、ということです。
この一言さえ最初に口にしてもらえれば、こんなくどくどしい話を続けなくてすんだのに。上総は片手で首筋を軽くもんでみた。どうも、血のめぐりが悪い。めまいがする。水分補給しなくてはならないようだ。
「そうか、進路か」
思い当たる節がないわけではない。杉本の進路については上総の方が圧倒的に詳しいはずだ。でなければ自分が許せない。一年時に起こしたさまざまなクラスとの不協和音がきっかけで、杉本の青大附高推薦は現段階で消えたはずだ。現在三年B組の担任である桧山先生の強い説得で、現在は公立の青潟東高校進学のため、今日も学校で特別授業を受けているはずと聞いているが……?
「たぶん、公立の受験勉強やってるんだろうな。その関係かな。でも殿池先生というのが謎だよな、確かに」
──そうです。僕も杉本先輩の進学先が青潟東ということは耳にしておりました。ですからなおのこと違和感があるのです。
「殿池先生、家庭科の先生だったよな。そのあたりかな。杉本は一般的な家事とか手芸とかそういうの得意だから」
──さすが、よくご存知ですね。
殿池先生に対してか、杉本に対してかによって張り手を一発かましてやりたくなるかが分かれる。不必要にヒートアップは避けたい。上総は深呼吸をひとつして、尋ね返した。
「ただ、進学といってもとっくの昔に公立高校受験は決まっているし、考えねばならないとすると滑り止めくらいか。公立落ちてしまったら行くところなくなってしまって困るし、うちの学校でも引き取ってもらえそうにないし、となると選ぶことは必要だろうな」
──立村先輩、非常に近いのですが、違います。
またいやみったらしく甲高い声が受話器から響く。
「なんだよ、答えわかっているなら早く言ってほしいんだけど」
──ヒントは、姉がどのようにして、あの女子刑務所と噂される可南女子に進学したかです。お分かりですか?
「それはもちろん、受験したからだろう?」
謎かけのようなことを言う霧島。ここでいらいらしてはならない。何せ杉本のことなのだ。杉本に関して入ったちょっとした情報が大事件に発展したことが多々あるわけだ。そのひとつにかかわった霧島だてわかっているだろう、そのことは。
──それではもうひとつヒントを差し上げましょう。
満足げに微笑んでいるであろう電話先の霧島、気品ある王子顔していながら、おそらく今の格好はしゃれっ気もないTシャツに短パン姿ではないだろうか。想像するだけでも笑える。
──一受験には、一般受験ともうひとつ、別の方式がございますね?
「……まさか」
──先輩の想像なさった通りです。
無言で受話器を握り締める上総を、霧島の声が楽しそうにいたぶってくる。本人に悪気がないのはわかっている。ただ結論につながりたくない。
──推薦か。
一般受験では名前を書くだけで合格できるのではと噂された可南女子高校。
さすがに青大附中評議委員を三年務めた霧島ゆいが一般試験を受けても落とされるとは考えづらい。しかし、万が一ということもある、と殿池先生が霧島親を説得し、私立単願を選ばせたと聞いている。
それが、この時期ということか。
「でもまさか、あの杉本だぞ? 今でも学年トップを譲らない杉本がまさか」
──立村先輩、僕が申し上げたいのはそこではありません。僕もまさか杉本先輩が可南女子に推薦入学を希望しているなぞとは思っておりません。もちろんです。ただ、時期と殿池先生が絡んでいるということはなんらかのつながりがあるのでは、と思うのですがいかがでしょうか?
「霧島、連絡ありがとう。だがたぶん、少し違っているんじゃないかな……」
耳をひっぱり、髪の毛をかき回し、片手は受話器から離さず上総はまず礼を言うことにした。確かに気になる情報ではある。杉本と殿池先生とのつながりがそんなにあるとも思えないし、周りが違和感を感じるのもわからなくはない。ただ、いくらなんでも女子の底辺高校に無理やり推薦を出すよう説得するとは、現実味なさ過ぎる。
「青潟には私立の女子高がまだまだあるしさ。俺もあまり詳しいことわからないけど、私立の高校にはそれぞれ校風があってそれに見合った学校を選ぶのならまだわかるよ。ただ、杉本の場合可南の校風には、あまり合わなさそうな気がするしさ」
──僕もそう思います。少なくともお嬢様学校の雰囲気ではないですね。
さすがに霧島も上総の機嫌を損ねたいと思ったのか、その辺はあわせてくれたようだ。もちろんだ。杉本が万が一私立高校に進学するとしたら、それなりのレベルでかつ、良妻賢母をモットーとするような学校でないと耐えられないのではないかと思う。音楽の授業でオペラを聴いたり、手芸は一針ずつ縫い取っていくクロスステッチ、料理の授業ではマドレーヌに色のよく出た紅茶がセット。そんな雰囲気の学校でなくては。
──ただ、そういう雰囲気ではないのが青潟東という学校ではないのでしょうか?
「それとこれとは別だよ、公立は別」
あさっては本条先輩にも会えるのだ。青潟東の噂もちゃんと聞いてくる。杉本に会った時にはしっかり伝えられるようにしておかないとならないことだから。本条先輩のことを思い出しただけで心が落ち着く。狩野先生たちをはさむ形にはなるけれども、いいさ、いろいろ聞いてもらいたいことだってたくさんある。例えばこんなしょうもないことをべらべらしゃべられてどう対処すればいいのかとか、ほんとにたくさんあるったらない。
──ただ、やはり気になることがまだありまして。ただ実は、今後ろで。
「後ろ?」
思わず振り返って見るが誰もいない。父も降りてきていない。
──姉がどうも僕の後ろで、様子を伺っているようです。残念ながらここでいったんお電話を置かねばなりません。
思わず心でつぶやく。「霧島さんありがとう」と。もちろん、姉の方である。
──ですが、先ほど僕がお伝えしたかったことは、まだお話できておりません。
「いいよ、明日で。また電話くれればいいよ。俺の方からかけるか?」
──いいえ、このことは機密事項ですので、先輩、明日のお時間はいかがでしょうか?
「明日? 一応暇だけど」
──それであれば、僕のほうからお伺いいたします。先日お伺いした際に道はきっちり覚えましたから、先輩のように道に迷わないでもたどり着けます。
「俺がいつ道に迷ったっていうんだよ。すごく失礼だな」
──とにかく、お伺いします。朝、十一時ごろに。それでは失礼します!
突然ぶつりと切れた。上総の脳裏には、弟の片手に握り締められた受話器を姉が勢いよくひったくり、毎度の姉弟喧嘩に突入している光景がありありと浮かんだ。ふたりとも同じ顔しているから、さぞ見ものだろう。誰が仲裁するのかなんて、さすがに品山からそんな心配する気なぞない。まあ、難波がいればまた別の展開があるかもしれないが……。
──けど、なんだよあいつ、この前来たばかりなのにまた来るのかよ。
再度電話がかかってこないうちに急いで湯船に浸かった。入った時は熱くとも、汗が気持ちよく流れるせいか身体がほぐれるような感覚がある。麦茶をペットボトルに入れて飲み続けていれば夏の長風呂も多少は楽に過ごせそうだ。
夏休みが始まり一週間が経つが、霧島から電話の来ない日など一日もない。もっと言うなら一回で終わることもない。たまたま今は上総が家にいるから問題も起きないが、今後留守番電話に残ろうもんならどうなるだろう。父にも、下手したら母にも怪しまれるかもしれない。いや、母にばれたらもっと面倒だ。美里に対してだってかなり勘の鋭いところを発揮していた母のこと、霧島の家庭事情を知ったりしたらどうなるだろう? 面倒なことになりそうだ。
──まあいっか。明日は誰もいないし、どうせ俺も寝て過ごすつもりだったし。あさってのために。
本条先輩、および狩野先生、それぞれと青大附中校舎で語る予定がすでに明後日入っている。多少霧島に訳のわからないことを言われても、本条先輩にぶちまければなんとかなりそうだ。狩野先生にも、実は少し数学がらみのことで相談したいことがあるのだが、それはそれでまたその時だろう。
上総は湯船で何度か顔を洗った。半分麦茶を飲み干した後、天井を見上げた。湯船で両足を伸ばしてぐんと反り返って目を閉じた。
──杉本と連絡とらなきゃな。
今頃杉本は、わき目も振らずに青潟東高校進学を目指して受験勉強に没頭しているはずだ。もしかしたら友だちの桜井愛子あたりと仲良く遊んだり、花森なつめに長い手紙を書いたりしているかもしれないが。目標が青潟東高校入学ならば言うことはない。どうせ本条先輩と同じ高校なのだ。上総が二年以降でも足を運ぶ機会はいくらでもある。今のうちに青潟東の詳細情報も得ておけば鬼に金棒だろう。
──他の高校行ったって青潟から出て行くわけじゃないし、それに青潟東高校ならそんな遠くないしな。殿池先生が杉本に家庭訪問攻撃かけているとしたら、やはり、秋の学校祭で喫茶店企画用意されているとか、そういうほうが可能性高いと思うだけどな。関係ないけど、駅前の「アルベルチーヌ」とかいう紅茶のまずすぎる店に比べたら、杉本の入れてくれた紅茶の方が確実においしいに決まってるし。それとも手芸かな? 霧島もずいぶん大げさなこと言ってたけど、結局は霧島さんの推薦入学を馬鹿にしたかっただけなんじゃないかな。いくらなんでも「女子刑務所」っていうのは失礼だよな。明日家に来るようなら、それきっちり言った方いいんだろうか。どうしようかな。
両手を頭の後ろに組んで、もう一度上総は目を閉じた。
──そう、青潟から出て行くわけなんて、ないんだからさ。
─終─