1 Undead(2)
車の行きかう道路の向こう側には、公民館のような黒い大きな建物があった。ふいに藤野は、その建物から人が数人出てくるのを見た。先頭の3人は、見覚えのある人たちだった。自分の両親と兄貴が、それぞれ胸に小さな箱を抱え、晴れ晴れとしたような、泣き濡れたような、みな同じ表情で歩いていく。
想像通り、とまではいかないが、十分に悟った。
(葬式が・・・終わってる・・・?)
じゃあ俺は誰なんだろう、と藤野は思った。
「全くさ、走馬灯にもお目にかかれなかったんだぜ。あっけなかったなぁ」
「情緒的な説明のあとに、それかい」
俺と藤野は町の小さな図書館に移動し、その隅で医学やUMAの本をめくりながら話していた。
「俺が思うに、お前はゾンビに近いんじゃないかな。葬式とのタイミングがまだ全然説明つかないけど・・・」
「棺おけに入ったの、本当は俺じゃなかったりして」
「あー、間違われて葬られて、それでこの世に恨みが残った・・・って、ないない」
この現代でそうそう死体を間違うものか。
それに変な言い方だが、藤野はかなりきれいだった。
「多分、死に方が良かったんだろうな」
「そっか、ボロボログチャグチャで復活しなくて良かったー」
「いや、でもだからっていきなり待ち伏せするのはやめろよな・・・」
「ははは、ごめん悪かった」
藤野に声をかけられたとき、俺は塾へ行く途中だった。家を出てすぐの角でわっとおどかされ、俺はびっくりしつつも、しばらく付き合うと答えたのだった。早めに行って自習するつもりでいたから良かったものの、あと30分もすれば授業が始まってしまう。今日は休めない。
「・・・俺、あと30分で行くわ。明日なら学校も休みだし出歩けるんだけど、待てるか?」
それとも、俺のいない間に死んでしまうのだろうか。不安に思いながら尋ねたのに、藤野はきょとんとして言った。
「あ、そっか。俺、真田と一夜を共にする気でいた」
「阿呆。あと、その言い方・・・気色悪い」
「あんまり親身になってくれるからつい。でもどこにいればいいかなあ」
「河原の橋の下だったら、人目につかないかも。草むらだけどな。野良猫に気をつけろよ」
俺の提案に、藤野は少し考えたあと、うなずいた。
「分かった。また明日な」
-つづく-