約束
年に一度しか会わないなんて、七夕みたいだね。
私たちがサークルの活動会費捻出のためにはじめた、お祭の日の夜店は後輩たちにも受け継がれ、すっかり伝統行事になりつつある。
OBになってからも暗黙の約束で、毎年同じ面々が顔を揃える。
別に手伝う訳じゃない。ちゃんと手は足りている。
ただ、誰かに会えるからと足を運ぶだけだ。
みんな思いは同じようで、お祭の日は賑やかなOB会になる。
あいつは―――今年も来てる。
彼女は連れてない。
去年はバツが悪かったもの。お互いに相手連れてきちゃって、気まずいのなんの。
いや、いいんだけどね。
色っぽい関係になんてなったことないし。
「よっ!久しぶり」
片手を挙げながら、すでに少し呑んでるね、ご機嫌な顔。
「おう、一年ぶりだな、達者だったか?」
年寄り臭い言葉遣いは変わんないね。
去年連れてた女の子はずいぶん年下だったと思うけど、直してもらえなかったのかな。
「おまえ、去年の男は?」
・・・デリカシー、ゼロ。
「別れた。そっちはどうなのよ?」
「あっ聞いてくれちゃう?今度の子は年上。上だけど、頼りなくて可愛いの」
勝手に言っとけ。
お祭を一周しようと歩き出すと、人混みに流されてはぐれそうになった。
集合場所はわかってるんだから、はぐれても問題ないけど途中からあいつと手をつなぐ。
ざわざわと人の波の中、あいつが声を張り上げて言う。
「俺たちってさ、七夕みたいだよな。年に一回だけ会う機会があるの」
「そうだね、七夕みたいだね」
「浴衣、似合うじゃん」
―――ああ、そう。
その言葉が聞きたくて、暑い中帯締めて来たんだよ。絶対に言わないけど。
これからも、毎年会っても絶対口になんか出さないけど。
お祭の灯りが落ちて、売上を纏めている後輩たちに声をかけて、OBたちは夜の街に繰り出す。
もうじき、お別れの時間。
またね。
またね。
また一年後に会いましょう。
左手に水風船を持ったまま、来年の約束をして解散する。
また一年後に会いましょう。
fin.