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第13話 「起死回生」——意外な救世主



大爆発。 直後、砂埃と爆風が視界を全部奪った。


「バロロぉッ……ジャック……!!」

叫ぼうとしたのに、声が上手く出ない。喉が焼けたみたいにひりつく。


数十秒――永遠みたいな沈黙のあと、ようやく視界が戻ってきた。


そこで目に入ったのは、背中一面を酷い火傷で覆われた片腕のバロロと――その腕の内側に、守られる形で身を縮めていたジャックだった。


バロロは、誰がどう見ても瀕死だった。骨がむき出しになっている部分すらある。 痛々しい。――そして、尊い。


守り抜いたジャックは、ほとんど無傷。 その事実だけが、胸の奥を殴ってくる。

……とはいえ、もうバロロは動けない。 アクラも立っているだけで精一杯だ。 予想通りツヴァイは、とっくに使い物にならない。


動けるのは――ジャックだけ。

「バロロ……くん……」

バロロは、まだ息をしている。 だが助かるかどうかは、分からない。


「ぜったいに………」

まだ魔族はそこにいる。 だから。

「許さないんだから……ッ!!!!」

怒りで震える手。 普段の、おっとりした天然顔は消えていた。今のジャックは鬼の形相で、魔族を睨み潰している。



――だが、魔族もまた。 さっきと同じように、再生を続けていた。


「くっそ……これが魔族のフツウなのかよ……!」

アクラの本音が漏れる。

「ガハハハッ……言った……だろォ! 皆殺しにしてやるって……な!」


「……ッ! いい加減に……してよぉ!!」

ジャックが弦を限界まで引き、エレクトロアークを連発する。 雷をまとった矢が次々と突き刺さり、炸裂する。


その間に、体だけの再生を終えた魔族は――首のないまま動き、落ちた自分の頭を拾い上げた。 そして、頭を守るように、体で抱え込むように構える。


(……頭を守ってる?)

反射で、アクラの声が飛んだ。

「あいつ……頭だ! ジャック! あれが弱点なんだ!」

「わかってる!」

さっきまでは効きが薄かった矢も、魔族が削れてきているのか――当たった場所の動きが、一瞬だけ鈍るように見えた。



だが次の瞬間。

魔族が、いきなり頭を遥か遠くへ投げ飛ばした。


――頭を離す。守るのをやめる。代わりに、体だけがジャックへ向けて一直線に迫る。


「(頭と体。どっちを――)」

ジャックは、咄嗟に頭を狙った。 一か八か。

――でも、その前に。


魔族の体が、ジャックの腹部を蹴り飛ばした。

「――っ!!」


ジャックの体が宙を舞う。 その蹴りの瞬間、魔族の足首から下が消えていた。 ……たぶん、爆発の材料にして勢いを作ったんだ。


遠くまで飛ばされたジャックが、地面に転がる。 口から吐血。内臓をやられたのが、一目で分かった。


「くっ……っそぉぉ……!!」

非力。無力。圧倒的絶望感。 死ぬのか。自分は、ここで。

首のない魔族の体が、こっちへ歩いてくる。 殺しに来ている。足音が、近づく。


まだ――死にたくない。

目の前。 一か八か。

アクラは剣を握りしめ、全体重をかけて胸へ突き刺した。



分かってる。頭を狙わなきゃダメだってことくらい。 でもその頭が、あんなに遠くに――


……頭?



「お、おい……なんでお前が、ここに……」

遠くへ投げ飛ばされたはずの頭。 そこへ、氷でできた長い剣が容赦なく突き立てられていた。


銀髪の少年が、淡々と呟く。

「敵は……こいつだけか」

霧雪ゼグレ――。

「アガァッッ……!!」

苦しみに満ちた唸り声。 だが次の瞬間、ゼグレの氷魔術が一気に広がり、魔族そのものを凍らせる。


頭が、粉々に砕け散った。

アクラの目の前にいた体も、最後は自爆するのかと思ったが――ただ突っ立っているだけ。 そして遅れて、ゼグレの氷に叩き割られた。


「ゼグレ……!!」

アクラの心境は複雑だった。 彼が来なければ、自分は確実に死んでいた。誓刃校にも影響が出ていただろう。


――だが、こいつは。 詩丸を殺した野郎だ。

「動けるか」

「あぁ……?」

腹が立つ。なぜこんなやつに。 なのに口が勝手に聞いてしまう。


「なんで……助けたんだよ」

ゼグレは目を逸らさず、淡々と答えた。


「決まってる。お前が死んだら、俺も死ぬ。 ……それだけは、させない」

「なんだよ……それ……」


――片方が死ぬともう片方も死ぬ呪い。


あっけなさすぎる返事に、気が一気に抜ける。 アクラは限界を越えて、その場で気絶した。




それから何時間経ったのか。

「……ーい」

「……てください。これだから……」

声が、途切れ途切れに聞こえる。


「おーい。起きないねぇ。ゼグレの声でも聞かせてやろうか」

「それだけは名案ですね。男のくせに」

「ゼグレ……ッ!?」

アクラは勢いよく飛び起きた。


「ほら、起きた起きた」

「ったく……どんな仲なんだか……」

目の前には、目の黒い黒刃の二人。


「結構頑張ったらしいねぇ。褒めてあげる」

黒刃クレイが、皮肉みたいな嫌な笑みを向ける。

「誰もあなたになんか褒められたくないですー。男とはいえ、アクラさんが可哀想です」

黒刃エペ。いつもの毒舌だ。


「な、なんでお前らがここに……! ……はっ、そういえば魔族のやろーは!? ゼグレはどうなった!」

もう朝だった。 場所は、昨日魔族と戦ったアズラル村近くの街道。


「魔族はもう討伐したわ。ゼグレさんがトドメを刺す形になったみたいね」

奥から現れたのは闇音刹那だった。いつもより動きやすい服装で、上着を脱いだのだろう。


「それじゃあ……一旦危険は去ったのか……」

周囲を見れば、氷漬けになって砕けた肉片が転がっている。

刹那が説明する。

「帰り道、別の街に寄った時、アズラル村の住民がそこまで避難してきたのよ。 “魔族に襲撃された”と聞いたわ」

「そうそう。そういうワケ」

クレイが口元だけニヤつかせる。


「……そういえば! バロロは!? ジャックは……大丈夫なのか!?」

「それが……」


一瞬の間。


「無事でしたよ! 何とか一命を取り留めました」

エペが、安心しきった顔で言った。

「よ……よかったぁぁ……」

張り詰めていた糸が、やっと切れた気がした。


……でも、すぐ疑問が湧く。

「……ん。待てよ。えっ。誰が治療したんだ? ……ところでクレイ。さっきから何やってんだ……?」

「あは、なにって、見たらわかるでしょ。キミの応急処置に決まってるじゃない」

「お、お前そんなのできんのかよ……」


刹那がさらっと追い打ちする。

「あら、アクラ君。バロロ君もジャックさんも治療したのはクレイ君よ?」

「……あへぇ?」

間抜けな声が出た。


「こう見えて、ボクはお医者様だからねぇ」

こんな怪しくて嫌味なヤツが……!?

「う、うそつけ!! 絶対あれだ……テキトーにやってるだけ――」


その時。

「おう!! アクラ! 目が覚めたか!」

「アクラくん! 大丈夫? 怪我はもう平気?」

バロロとジャックが、こっちへ歩いてきた。

「……はぁ??」

嘘だろ。さっきまでかなり重症だった二人が。 ピンピン……とまでは言えないが、ちゃんと歩けている。 歩き方が少し不自由で、病み上がりの空気はある。でも生きてる。


クレイが、さらっと言った。

「ボクの治癒魔術。ボクみたいな天才の特権だよねぇ」

「お前そんなすげえもん持ってたのかよ……」

信じられない。けど現実が証明している。


……だけど。

「じゃあなんでおれには包帯と薬草……? やってもらって悪いけど……あいつらみたいに治癒魔術はしてくんないの……?」


クレイは笑った。

「あは。別にいいでしょ。教育だよ、教育。 次から無理しすぎんな。死ぬよ、ってこと」

「な、なんだよそれ……」

一瞬だけ、クレイの表情が曇って見えた。 気のせいかもしれない。


「でも、生きてて本当によかった……。最後、すっげぇかっこよかったぜ、バロロ!」

「照れるな! まぁでも片腕は失ったけどな……」

「そうか……でもおれはお前のこと、誇りに思うよ」

アクラが励ますように言うと、バロロは照れくさそうに笑った。

「へへ、ありがとよ、ダチ! これが終わったら殴り合いの友情確かめ合いごっこしようぜ!」

「いきなり物騒だなおい!」



笑いながら、バロロはB班・C班の馬車の方へ歩いていく。 そこにはミスターナルシスト・光月やちびっ子みずきもいて、アクラと目が合うと嬉しそうに手を振った。


「……あの汗臭い筋肉バカも、まぁ強いのに今回は散々みたいだったねぇ。 ま、ボクの方が強いけど」

クレイが言うと、

「あ〜れぇ〜? 去年、初対面で戦って腕の骨折られたのはどこの誰でしたっけぇ?」

女尊男卑マスター・エペが煽り散らかす。

「うるっさいなぁ」

それでもクレイは、意外に嬉しそうだった。


……一体どんな関係なんだ、この二人。



刹那が、落ち着いた声で区切る。

「とにかく、無事でよかったわ。アクラ君。 治療が終わったら……ゼグレさんが呼んでいたわ」

「ゼグレ……」

どうにか死線をくぐり抜けた。 みんな、すごい。


でもおれは――もっと頑張らなきゃ。



……いつかゼグレ。 お前に聞いてやるからな。あの夜のこと。

◇◇◇


ここまで読んでいただきありがとうございます。


魔族との戦いも終わり、2章前半が終わりましたがいかがでしたでしょうか。


本作品では何気ない会話や描写が伏線となっております。2章後半からは孤誓隊の過去や日常回、そして禁句である"魔界"の全貌がすこしずつ明らかになっていきます。


2章後半もどうぞお楽しみください。

貴方のお気に入りのキャラクターや描写など、コメント頂けると励みになります…!


次回:幽灯の双呪


魔族との戦いが終わり、なんとか一命を取り留めたアクラたちA班。

彼ら孤誓隊はセラフィナへと報告するのだが、彼女の野望と狂気が姿を見せる。


「悲喜交々」


◇◇◇

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