8話
夜。
グランツ亭の食堂に、料理と酒が並んだ。
肉料理の香ばしい匂い、パンの焼ける香り、そしてエールの芳醇な香りが混じり合う。
「それじゃあ!」
神崎がジョッキを高く掲げた。
「新しい仲間、剛の加入を祝って——乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
ガシャンと音を立てて、ジョッキがぶつかる。
「ぷはー! やっぱ仕事の後の酒は格別だぜ!」
ガルドが豪快に飲み干した。泡が口髭についている。
「なあ、剛」
ガルドが俺の肩を叩いた。
「お前、本当にBランク冒険者三人をぶっ倒したのか?」
「……ああ」
「すげぇな! 一体どんな鍛え方してんだ?」
ガルドの目がキラキラと輝いている。
「魔法も使えねぇってのに、信じらんねぇ」
「……特に何もしてねぇよ」
俺は適当に答えながら、肉を口に運ぶ。
「つか、もやしみてぇな奴らだったしな。正直、ゴブリンの方が百倍強かったぜ」
「がはは! 冗談がキツいぜ!」
ガルドが腹を抱えて笑った。
「俺たち、今Aランクなんだけどさ」
神崎がエールを傾けながら口を開いた。
「前の盾役がへなちょこすぎて、つい最近クビにしたところなんだよね」
「……へぇ」
「勇者パーティなんだからさ、しょぼいのに来られても困るじゃん?」
神崎がニヤニヤと笑う。
「正直、ちゃんとしたメンバーが揃えばSランクだって目じゃないよ」
セリアがワイングラスを優雅に傾けた。
「前の盾役は五分も耐えられない軟弱者でしたわ」
氷のような瞳が、どこか遠くを見ている。
「あの盾、ただの飾りだったのかしら?」
ルナは黙って料理を口に運んでいる。
表情に少し陰りがあった。
俺も何も言わず、エールを飲む。
「……俺だって、冒険者登録したばっかだぞ?」
ボソリと呟いた。
「大丈夫だって!」
神崎が手をひらひらと振る。
「さっきボコしてた奴ら、結構やるやつらだったんだよ。まあ、君にとってはサンドバッグ程度だったんだろうけどね!」
「……そうかよ」
神崎が声を潜めた。
「ここだけの話さ」
周りをキョロキョロと見渡してから、身を乗り出してくる。
「僕が勇者だって話、したでしょ?」
「……ああ」
「実は、女神様から加護をもらってるんだ」
得意げな顔で胸を張る。
「自称じゃないよ? 本物の勇者ってわけ」
目をキラキラさせながら続ける。
「だから、Aランクなんかで燻ってるわけにはいかないんだよね。分かるでしょ?」
「僕の力は、こんなもんじゃない。上級魔法も使えるし、剣技のスキルも一級品」
ドヤ顔で締めくくる。
「これ全部、女神様からもらった力なんだよね」
「……なるほどな」
俺は内心で思った。
(女神か……俺も会ったな、あのババア)
しかし、口には出さない。
「……んじゃ、お前らが活躍できるよう」
俺は拳を握った。
「俺は俺のできることをやってやる。全力でな」
「最高だよ!」
神崎がまたジョッキを掲げた。
「今日はいっぱい飲もう!」
それから延々と宴は続いた。
神崎の自慢話。
ガルドの武勇伝。
セリアの皮肉混じりの小言。
三人の掛け合いを、俺はただ黙って聞いていた。
正直、うるせぇ。
でも、まあパーティってのはこんなもんか。
ふと、隣にルナが座った。
「……あの」
消え入りそうな小さな声だった。
「私も、私のできることを全力でやります」
優しい微笑みを浮かべる。
「一緒に、頑張りましょうね」
「……ああ」
俺は短く頷いた。
そんなこんなで、歓迎会の夜は更けていった。
神崎は酔っ払って机に突っ伏して寝た。
ガルドは椅子にもたれて豪快にいびきをかいている。
セリアは「うるさくて眠れない」と言い残して、一人で部屋に戻った。
ルナが黙々と後片付けをしている。
俺は窓の外を眺めた。
満天の星空。
月明かりが、石畳の街を静かに照らしている。
(……パーティ、か)
明日から、本格的に依頼が始まる。
「……やってやるぜ」
静かに拳を握りしめた。




