表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/15

8話


 夜。

グランツ亭の食堂に、料理と酒が並んだ。


肉料理の香ばしい匂い、パンの焼ける香り、そしてエールの芳醇な香りが混じり合う。


「それじゃあ!」

神崎がジョッキを高く掲げた。


「新しい仲間、剛の加入を祝って——乾杯!」


「「「乾杯!!」」」


ガシャンと音を立てて、ジョッキがぶつかる。


「ぷはー! やっぱ仕事の後の酒は格別だぜ!」

ガルドが豪快に飲み干した。泡が口髭についている。


「なあ、剛」

ガルドが俺の肩を叩いた。

「お前、本当にBランク冒険者三人をぶっ倒したのか?」


「……ああ」


「すげぇな! 一体どんな鍛え方してんだ?」

ガルドの目がキラキラと輝いている。


「魔法も使えねぇってのに、信じらんねぇ」


「……特に何もしてねぇよ」


俺は適当に答えながら、肉を口に運ぶ。


「つか、もやしみてぇな奴らだったしな。正直、ゴブリンの方が百倍強かったぜ」


「がはは! 冗談がキツいぜ!」


ガルドが腹を抱えて笑った。


「俺たち、今Aランクなんだけどさ」

神崎がエールを傾けながら口を開いた。


「前の盾役がへなちょこすぎて、つい最近クビにしたところなんだよね」


「……へぇ」


「勇者パーティなんだからさ、しょぼいのに来られても困るじゃん?」

神崎がニヤニヤと笑う。


「正直、ちゃんとしたメンバーが揃えばSランクだって目じゃないよ」


セリアがワイングラスを優雅に傾けた。


「前の盾役は五分も耐えられない軟弱者でしたわ」

氷のような瞳が、どこか遠くを見ている。


「あの盾、ただの飾りだったのかしら?」


ルナは黙って料理を口に運んでいる。

表情に少し陰りがあった。


俺も何も言わず、エールを飲む。


「……俺だって、冒険者登録したばっかだぞ?」


ボソリと呟いた。


「大丈夫だって!」


神崎が手をひらひらと振る。


「さっきボコしてた奴ら、結構やるやつらだったんだよ。まあ、君にとってはサンドバッグ程度だったんだろうけどね!」


「……そうかよ」


神崎が声を潜めた。


「ここだけの話さ」


周りをキョロキョロと見渡してから、身を乗り出してくる。


「僕が勇者だって話、したでしょ?」


「……ああ」


「実は、女神様から加護をもらってるんだ」

得意げな顔で胸を張る。


「自称じゃないよ? 本物の勇者ってわけ」


目をキラキラさせながら続ける。


「だから、Aランクなんかで燻ってるわけにはいかないんだよね。分かるでしょ?」


「僕の力は、こんなもんじゃない。上級魔法も使えるし、剣技のスキルも一級品」


ドヤ顔で締めくくる。


「これ全部、女神様からもらった力なんだよね」


「……なるほどな」


俺は内心で思った。


(女神か……俺も会ったな、あのババア)


しかし、口には出さない。


「……んじゃ、お前らが活躍できるよう」

俺は拳を握った。


「俺は俺のできることをやってやる。全力でな」


「最高だよ!」

神崎がまたジョッキを掲げた。


「今日はいっぱい飲もう!」


それから延々と宴は続いた。


神崎の自慢話。

ガルドの武勇伝。

セリアの皮肉混じりの小言。


三人の掛け合いを、俺はただ黙って聞いていた。


正直、うるせぇ。

でも、まあパーティってのはこんなもんか。


ふと、隣にルナが座った。


「……あの」


消え入りそうな小さな声だった。


「私も、私のできることを全力でやります」


優しい微笑みを浮かべる。


「一緒に、頑張りましょうね」


「……ああ」


俺は短く頷いた。


そんなこんなで、歓迎会の夜は更けていった。


神崎は酔っ払って机に突っ伏して寝た。

ガルドは椅子にもたれて豪快にいびきをかいている。


セリアは「うるさくて眠れない」と言い残して、一人で部屋に戻った。


ルナが黙々と後片付けをしている。


俺は窓の外を眺めた。


満天の星空。

月明かりが、石畳の街を静かに照らしている。


(……パーティ、か)


明日から、本格的に依頼が始まる。


「……やってやるぜ」


静かに拳を握りしめた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ