71.我慢
「あ゛あ゛ーーー!!!」
突然、デカい奴が叫んだ。
耳を劈くような絶叫。
血走った目を見開いたまま、踵を返す。
そして──走り出した。
逃げていく。
靄の奥へ、全速力で。
「あ゛あ゛ーーー!!!」
遠ざかっていく。
姿が靄に飲まれても、まだ叫び声が聞こえていた。
やがてそれも、瘴気の向こうに消えた。
「……おい」
俺は呆気に取られていた。
「追わなくていいのか?」
レオンハルトが首を振った。
「一度態勢を立て直しましょう」
盾を下ろし、仲間を見渡す。
「フィオラ、サラ、怪我は大丈夫か?」
二人が頷いた。
フィオラの鼻血は止まっている。
サラも顔色が戻っていた。
「あの咆哮──」
リリィが眉をひそめた。
「浴びた二人の状態を見るに、脳に直接ダメージを与えてるのかも」
「姐さん、目が回るって言ってたっすもんね」
ジャックが頷く。
「私も……ヒールするまで頭痛かったかも」
サラが小さく呟いた。
「何度も受けるのは危険ですね」
レオンハルトが表情を引き締めた。
「あと、すんません……」
ジャックが頭を掻いた。
申し訳なさそうな顔。
「まさか頭ちぎって投げてくるなんて、思わなかったっす」
「この魔物は、頭部を破壊しないと倒せないようね」
フィオラが静かに言った。
剣についた黒い液体を布で拭う。
「そうだな」
レオンハルトが全員を見回した。
「頭部を確実に破壊すること。青白い咆哮は極力受けないこと。これを徹底していこう」
「了解」
全員の声が重なった。
「よし、行こう」
レオンハルトが前を向いた。
俺たちは再び北へ走り出した。
⸻
瘴気の中を進む。
紫がかった空の下、靄が濃くなっていく。
時折、虚ろな魔物の群れに出くわした。
「あー、あー」
壊れた声が響くたび、S級の四人が処理していく。
さっきのデカい奴はいなかったが、どいつも首から切れた糸が垂れていた。
あのデカい奴に操られていた残党だろう。
強いて言えば、色んな攻撃パターンがあった。
ぶつかった瞬間、青白く光って破裂する奴。
自分の首を引きちぎって投げてくる奴。
口から光線を吐く奴。
だが──頭部破壊が有効と分かった今、対処は楽になった。
レオンハルトが弾き、フィオラが斬り、ジャックが仕留め、サラが支援する。
連携が噛み合い、割と余裕を持って処理できていた。
俺は何もできずに、ただ見ているだけだった。
⸻
やがて、空が暗くなった。
元々紫がかっていた空が、さらに深い闇に沈んでいく。
夜が来たのだろう。
「今日はここで野営としましょう」
レオンハルトが指差した先に、大きく抉れた岩があった。
天然の洞窟のように、岩陰が空間を作っている。
「サラちゃんの結界は、むしろ狙われる危険があるっすね」
ジャックが言った。
「俺が気配を隠蔽する空間結界を張るっす」
手を翳すと、淡い光の膜が岩陰を覆った。
外から見れば、ただの岩壁に見えるのだろう。
夕飯は、カルドナで補給した携帯食だった。
乾燥肉と固いパン。
ジャックの料理と比べれば味気ないが、腹は膨れる。
「剛くん、大丈夫?」
リリィが隣に座った。
「いや、俺は何もしてねぇだろ」
「うっかり敵意向けちゃうんじゃないかと思って」
リリィが心配そうな目で見てくる。
「そういうことか」
俺は肩をすくめた。
「我慢してるぜ」
「どの辺が我慢どころだったっすか?」
ジャックが興味深そうに聞いてきた。
「頭をサラにぶん投げやがった時だな」
「……は?」
サラが呆れた顔をした。
「あんた、目隠ししてた方がいいんじゃない?」
「剛くん目隠しっすね」
ジャックが真顔で頷いた。
「鬼塚さん」
フィオラが静かに口を開いた。
琥珀色の瞳が、真っ直ぐ俺を見ている。
「我々は、決して負けません」
声に力がこもっていた。
「信じてください」
沈黙が落ちた。
焚き火の代わりに、ジャックが作った小さな光球が岩陰を照らしている。
「……わかったよ」
俺は息を吐いた。
「信じる。もう何も見ねぇ」
「ガルカの上でお昼寝してなよ」
リリィが笑った。
「そうだな、そうするわ」
「終わったら起こしてくれや」
「ええ、必ず」
レオンハルトが頷いた。
⸻
夜は交代で見張りながら寝るそうだ。
俺は免除された。
魔力がよくわからない俺の出番じゃなかった。
ジャックが土魔法で砂の寝床を作ってくれた。
簡素だが、地面に直接寝るよりはマシだ。
横になる。
隣にリリィが来た。
その向こうに、サラ。
目を閉じる。
瘴気の匂いが鼻をつく。
空気が重い。
ふと、気配を感じた。
サラの背中。
小さく、震えているような気がした。
声はかけなかった。
かける言葉も、見つからなかった。
ただ──。
魔人相手に、こいつらの全力と、俺の力がどこまで通用すんのか。
そんなことをぼんやり考えながら、俺は目
【読者の皆様へのお願い】
ここまで読んでいただき、ありがとうございます! もし「面白かった」「続きが気になる!」と少しでも思っていただけたら
下にある【☆☆☆☆☆】から作品への評価をお願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちもん大丈夫です!
ブックマーク登録もあわせてお願いします!
「評価」が更新の原動力になります。何卒よろしくお願いいたします!




