69.魔人の領域
翌朝。
俺たちは宿を出て、門へと向かった。
朝日が街を照らしている。
昨夜の祈りの火は消えていたが、広場にはまだ灰が残っていた。
門前にはすでに多くの人々が集まっていた。
街の人々が俺たちに気づき、道を開ける。
その先に、兵士たちが道の両側に並び立っている。
槍を掲げ、背筋を伸ばしていた。
俺たちはその間を進む。
「レオンハルト様!」
人々の声援が飛び交った。
「レオンハルト様……必ず、帰ってきてください!」
誰かの叫びが、背中に刺さった。
門前には領主が待っていた。
白髪の老人が、深く頭を下げる。
「どうか魔人を討ち、カルドナを……世界を救ってください」
声が震えていた。
「ええ、必ず」
レオンハルトが答えた。
真っ直ぐな声。
揺らぎのない、強い声。
門をくぐる。
レオンハルトが振り返り、一礼した。
「では、行ってまいります」
領主も深く礼をした。
人々が手を振っている。
その姿が、門の向こうに小さくなっていく。
⸻
俺たちは、再び北へ向かった。
ガルカが走る。
蹄の音が地面を叩く。
景色が後ろへ流れていく。
草原が続き、やがて荒野へと変わっていった。
「皆さん、聞いてください」
レオンハルトが声を上げた。
走りながら、全員を見渡す。
「数時間後、我々は瘴気の濃い危険地帯に突入します」
声が引き締まる。
「どんな危険があるかわかりません」
風が吹き、彼の金髪が揺れた。
「ですが──鬼塚さん」
レオンハルトが俺を見た。
「あなたは何もしないでください」
「は? なんでだよ」
俺が眉をひそめた。
「あなたは我々の切り札です」
レオンハルトが真剣な目で言った。
「万が一にも、魔人に能力を悟られるようなことがあってはならない」
「そういうことっすね!」
ジャックが頷いた。
「邪魔だからすっこんでてよね!」
悪態をつきサラが俺の隣に来た。
「あ、守ってあげるから大人しくしてて、ってことっす!」
ジャックが通訳する。
サラの顔が赤い。
なんで赤いんだ。
「リリィさんは鬼塚さんのサポートをよろしくお願いします」
レオンハルトが続ける。
「まっかせて!」
リリィがガルカの背で胸を張った。
「剛くん、守ったげる!」
リリィも俺の隣に来た。
「ちっ、わかったよ」
性に合わないが仕方ねぇ
ん?
サラとリリィ、今目が合ってたか?
火花が散った気がする。
「どんな敵が現れても、絶対に私たちが倒して見せます」
フィオラが静かに言った。
琥珀色の瞳が、前を見据えている。
「わかったよ」
俺は頷いた。
「任せたぜ」
⸻
数時間、北に走り続けた。
やがて──景色が変わり始めた。
昼間なのに、暗くなってきた。
曇っているわけじゃない。
空の色が、紫がかった灰色に染まっている。
うっすらと靄がかかっている。
空気が重い。
肌がピリピリする。
これが瘴気ってやつか。
「ひっ…嘘でしょヤバいんだけど!?」
「まだこんなに離れてるのに、この魔力量…。」
リリィの顔が青ざめている。
「相変わらずえげつない魔力放ってるっすね……」
ジャックも表情を曇らせた。
「俺は何もわかんねぇな……」
俺には、何も感じない。
魔力がないってのは、こういう時に困る。
「スピードを少し緩めて、警戒しながら進みましょう」
レオンハルトが指示を出した。
「ジャック、リリィさん、探知をお願いしますね」
「了解っす!」
「了解!」
二人が同時に答えた。
⸻
しばらく進むと──。
「前方、何かいるっす!」
ジャックが叫んだ。
靄の向こうから、影が現れた。
人型の、気味の悪いやつ。
灰色の肌。虚ろな目。
だが──いつもの瘴気の魔物とは違う。
「あー、あー……」
喋りやがった。
言葉覚えたての大人の男が発声練習してるみたいだ。
魔物のくせに人間の真似してるのか?
姿形は似ているが、何か意思を持っているように見える。
目が、こちらを見ている。
品定めするような視線。
「きっも!!」
リリィが叫んだ。
「いくぞ!」
レオンハルトが号令をかける。
「サンダーボルト!」
ジャックが呪文を唱えた。
雷撃が放たれる。
青白い光が走った。
だが──。
ひゅっ。
魔物が横に跳んだ。
「交わされた!?」
ジャックが目を見開く。
魔物は思い切りジャンプした。
空中から、こちらに迫ってくる。
レオンハルトを飛び越えて──。
サラを狙ってるのか?
シュパッ!
空中で、刃が閃いた。
フィオラが迎え撃っていた。
剣には炎を纏っている。
赤い軌跡が、空に格子みてぇに交差した―。
次の瞬間にはあいつの身体はもう細切れになっていた。
黒い粒となり、霧散していく。
「姐さん、お見事っす!」
ジャックが歓声を上げた。
フィオラが着地する。
赤い髪が揺れ、剣を鞘に収めた。
「少しだけ強くなってきてるみたい」
フィオラが静かに言った。
「気をつけて進みましょう」
⸻
「もしかして、こいつら聖の魔力に反応してるのかも」
リリィが言った。
「さっきの奴も、サラちゃん狙ってた気がする」
「なるほど、その可能性はありますね」
レオンハルトが頷いた。
「…今の、こっち見てた」
サラが身震いした。
顔が少し青い。
「守ってやろうか?」
俺が言った。
「あんたは引っ込んでればいいの!」
サラが睨んでくる。
でも、声が少し震えている。
「冗談だよ」
俺は笑った。
⸻
「気をつけて進みましょう」
レオンハルトが再び前を向いた。
紫色の空の下、俺たちは瘴気の領域を進んでいく。
靄が濃くなっていく。
視界が悪い。
空気が、さらに重くなった。
魔人に着実に近づいている。
その時──。
「待って!」
リリィが叫んだ。
「前方に強い魔力反応!」
【読者の皆様へのお願い】
ここまで読んでいただき、ありがとうございます! もし「面白かった」「続きが気になる!」と少しでも思っていただけたら
下にある【☆☆☆☆☆】から作品への評価をお願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちもん大丈夫です!
ブックマーク登録もあわせてお願いします!
「評価」が更新の原動力になります。何卒よろしくお願いいたします!




