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『喧嘩無双〜魔力0で追放された俺、魔法を拳でぶっ潰す〜』   作者: 緋村 獏


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64.オーガの群れ


 翌朝。

「さあ、出発しましょう」


レオンハルトの声が響く。

いつもと変わらない調子。

でも──彼の表情は、昨日より少し柔らかかった。


朝日が彼の金髪を照らし、古傷のある頬に光が差している。


ガルカの背に飛び乗った。


俺たちは再び北へ向かい走り始めた。



移動中。


フィオラが俺の隣に並んだ。

赤い髪が風に靡き、目の下の剣型の紋様が陽光を受けて鮮やかに浮かび上がる。


「鬼塚さん」

「ん?」

「昨日、お見事でした」


フィオラが静かに言う。

琥珀色の瞳が、こちらを見つめている。


「瘴気の魔物を倒した時──」

「ああ」

「一瞬でしたね」


フィオラの目が、真剣だ。

走りながら、でも視線は一切逸らさない。


「魔法も武器も使わず、純粋な拳だけで」


風が吹き、彼女の髪が揺れた。


「……まぁな」


俺は肩をすくめた。


「私には、できない」


フィオラが自分の剣を見る。

鞘に収められた刀身。柄に手を添え、撫でるように触れる。


「剣も魔法も、私にとって必要不可欠です」

彼女が目を細める。

「それを捨てて戦うなど……」


少し間を置く。

風が吹き抜け、草を揺らした。


「想像もできません」


フィオラが俺を見た。

真っ直ぐな視線。


「あなたは、怖くないのですか?」


「何がだ」


「武器も、魔法もなく戦うこと」


真っ直ぐこちらを見る。


「……慣れてるからな」


俺は拳を見た。

傷だらけの指。固くなった拳。


「これしかねぇから」


フィオラが少し目を細める。

そして──静かに笑った。


「……強いですね」


その声は、尊敬を込めた響きだった。



「あ──」


ジャックが筒状の望遠鏡を取り出し、覗いた。


「オーガの群れっす!」

「オーガ!?」

リリィが叫ぶ。


「まじかよ!」


俺は身構える。


前方、地平線の向こうから、巨大な影が複数近づいてくる。

灰色の肌。筋肉質の体。棍棒を持った人型の魔物。


だが──。


「処理します」


レオンハルトが一言。


フィオラが剣を抜く。

刃が陽光を反射して輝いた。


ジャックが魔法を準備。

手のひらに魔力が集まり、青白く光る。


サラが支援魔法を展開。

杖を掲げ、呪文を唱える。


瞬時に布陣完了。

全く走る速度を緩めない。


まじか、このまま突っ込む気かよ。



オーガがこちらに気づき、咆哮する。


「グオオオオオ!!」


地響きを立てて突進してくる。

棍棒を振り上げ、殺意を剥き出しにした。


だが──。


サラが呪文を唱えると、全員の体が青く光った。

淡い光が体を包み、魔力が流れ込む。


フィオラが先行して一閃。


シュパッ!


空気を切り裂く音。

幾体ものオーガの首が、一瞬で切断された。


血が噴き出し、首が宙を舞う。

体が崩れ落ちた。


ジャックが何か呪文を唱えると、前方に激しい突風が照射された。


ゴォッ、という轟音。


オーガの死体が吹き飛んでいく。

空中を舞い、地面に叩きつけられる。


レオンハルトは残った、妨げになる死体を盾で弾き飛ばした。

ドスン、ドスン、と鈍い音。


巨体が軽々と吹き飛ぶ。


開始から、わずか十数秒。

オーガの群れは消滅していた。


全く速度を緩めることなく、俺たちはただ通過した。



「……はえぇ」


俺が呟く。


「すごい……」


リリィも唖然としている。

口が開いたまま、前を見つめていた。


「神崎たち、あれに苦戦してたんだよね……?」

「ああ」


(レベルが違いすぎる)

(こいつら、本当に化け物だな)


「食ってみるっすか……?」


ジャックが振り返る。

オーガの腕らしき物を持っていた。


「無理ーー!!!」

リリィが叫んだ。


「人型は無理よ!」

サラも顔をしかめる。


「そっすかねぇ……」


ジャックが残念そうに目を落とした



昼過ぎ、休憩。


草原の中、木陰で休む。

陽光が木漏れ日となって、地面を照らしていた。


「よっしゃ、昼飯の準備っす!」


ジャックが張り切っている。

リュックから道具を取り出し、地面に並べる。


「今日は自分の得意料理見せますよ!」

「みなさん、向こうで待っててください!」


「えー、なんだろ楽しみ〜」


リリィが嬉しそうに言う。


「待ってこれはヤバいわ」


サラが小声で言った。

「見てて」



数分後。


「出来上がりっす、どうぞ!」


ジャックが皿を差し出す。


「いただきます……ゔぉえっ!!」


フィオラが顔を歪ませた。

口に入れた瞬間、思い切り吐き出した。


「何の肉……?」


「オーガっす……ギリいけるかなって……」


ジャックが申し訳なさそうに言った。


「無理よ!」


フィオラがジャックの頭を叩いた。


「いて! 姐さんすんません!」


ジャックが頭を押さえる。


「ね?」


サラがクスクス笑った。

リリィも笑っている。


レオンハルトは苦笑いを浮かべた。


(なんか、いい雰囲気だな)


俺も、少し笑った。



夕暮れまで荒野を駆け、森で野営した。


時々、化け物みたいなモンスターが出てきた気がしたが、何事もなく轢いて通過した。

 

地面が揺れ、咆哮が響く。

だが、S級パーティは一瞬で処理する。

 

障害物を避けず薙ぎ倒すように、それが当たり前に。


「今日は瘴気の魔物出なかったな」


俺が言う。

炎の前で、リリィと並んで座る。


「うん、不気味な魔力はなかった」


リリィが頷く。


「瘴気の源には確実に近づいてます」


レオンハルトが真剣な顔で言った。


「引き続き魔力探知をよろしくお願いします」

「わかったわ、任せて!」


リリィが胸を張った。



「えー、本日の夕食は──」


ジャックが得意げに言った。


「茨角ホーンディアのヒレステーキに、月影トリュフを添えました」

皿を差し出す。


「焔花サフラの香草スープとともにお召し上がりくださいっす……!」


「お、すっげぇ凝ってんな」


俺が驚く。


肉が綺麗に焼かれ、トリュフの香りが漂っている。


「いただきます」


フィオラが幸せそうに食べている。

目を細め、ゆっくりと噛み締める。


俺たちも食った。


前日より更に倍こだわったメニューに感嘆した。


ガチで美味え。

肉が柔らかく、トリュフの風味が口いっぱいに広がる。


スープも絶品だ。


「フィオラ姐の好物フルコースよ」


サラが小声で言った。


「昼食の恨みはうまく中和されたみたいね」


フィオラは好物を平らげ、とても上機嫌だった。

珍しく、柔らかい笑顔を浮かべている。


正直、楽しい夜を過ごした。


炎が揺れ、星が輝く。

笑い声が、夜の森に響いていた。

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