62.最強パーティの戦闘
翌朝、支度をしてすぐに北の山岳地帯に向けて出発した。
森を抜け、草原を駆ける。
朝露が草を濡らし、陽光がそれを照らしている。
空気が冷たく、澄んでいた。
「最短ルートで目的地に向かいますので、少々危険な山岳を通過します」
レオンハルトが前を向いたまま告げた。
「このルート、危険な山岳って……まさか!」
リリィの声が震える。
「ドラゴンの生息地ですね」
フィオラが静かに答えた。
「激ヤバ危険指定区域じゃん!」
リリィが叫ぶ。
ガルカの背で、彼女がしがみつく手に力が入った。
「割と大丈夫っすよ?」
ジャックが軽く笑う。
「ま、私たちの実力見せてあげる」
サラが得意げに言った。
⸻
しばらく走ると、景色が変わった。
草原が途切れ、岩肌が剥き出しになった山岳地帯に突入する。
灰色の岩が切り立ち、影が濃い。
空気がさらに冷たくなった。
風が吹き抜け、岩を叩く音が響く。
「さぁ、どんどん行きますよ」
レオンハルトが号令をかける。
俺たちは本当に真っ直ぐ最短ルートで駆けた。
岩の間を縫い、崖を登り、谷を飛び越える。
ガルカの足音が、規則的に岩を叩く。
「あ、二時方向、モンスター接近っす!」
ジャックが叫んだ。
空を見上げると──
真っ赤に燃え上がる龍が、こちらに向かって急降下してくる。
炎が尾を引き、空気が歪む。
轟音。風圧。
俺たちの目の前に降り立った。
ドスンという衝撃。地面が揺れ、小石が跳ねた。
「グルァァァァァァァァ!!!!!!」
咆哮。耳を劈く轟音。空気が震えた。
「ひいい、フレイムドラゴン!」
リリィが悲鳴を上げる。
「で、でっけぇ……」
俺も思わず声が出た。
体長は十メートル以上。
赤い鱗が陽光を反射し、全身から炎が立ち上っている。
「処理しますので、後方へ」
レオンハルトが落ち着いた声で言った。
「二人とも、こっちこっち!」
サラが手招きする。
俺たちはサラの後方に下がった。
⸻
「いつも通り行こう、ジャック」
「了解っす!」
ジャックが呪文を唱える。
冷気がフレイムドラゴンを覆っていく。
白い霧が龍を包み、炎が弱まる。
さらに──
バキッ、バキッ、と何かが割れる音。
「冷気で鈍らせて、更に魔法障壁に弱体化を加えてる」
リリィが解説する。
ドラゴンが身を捩る。炎が揺らめき、咆哮を上げた。
そして──
口が赤く光る。喉の奥が真っ赤に染まった。
次の瞬間──
「ギュオオオオオン!!」
一条の熱線が、空気を焼きながら放たれた。
「や、やべぇだろ!」
俺が叫ぶ。
空気が歪み、地面が焦げる。
だが──
レオンハルトがジャックの前に出て、盾で受け止めた。
銀の盾が輝き、熱線を弾く。
火花が散り、轟音が響く。
サラが後方で支援魔法を唱えている。
淡い光がレオンハルトを包み、彼の体が輝く。
問題なく受け止めている。
数秒、十数秒──
熱線が途切れない。地面が溶け、岩が砕ける。
だが、レオンハルトは微動だにしなかった。
ジャックは冷気を与え続けている。
いつの間にか炎はほとんど鎮火し、動きが鈍化していた。
熱線が途切れる。
フレイムドラゴンが飛び立とうと翼を羽ばたく。
だが──上昇しない。
翼には無数の穴が空いていた。
血が滴り、膜が裂けている。
「……え?」
「フィオラさん……」
リリィが呟く。
フィオラの剣が、残像を残しながらフレイムドラゴンを刻んでいく。
一閃、二閃、三閃──
数えきれない斬撃。
龍の体に無数の切り傷。血が噴き、鱗が砕ける。
「グルァァァ……!」
だが、もう遅い。
レオンハルトが踏み込む。大剣を振りかぶる。
銀の刃が輝いた。
──一閃。
ドラゴンの首が切断された。
鈍い音と共に頭部が転がり、体が崩れ落ちる。
⸻
「お待たせしました」
レオンハルトが振り返る。剣を鞘に収め、微笑んだ。
「おいおいおい、すっげえな」
俺が言う。
「ふん、こんなの朝飯前よ」
サラが得意げに言う。少し息が上がっている。
(こりゃ神崎が呼ばれなかったわけだ……)
「さすがS級最強パーティね」
リリィが感嘆する。
「さぁ、今日中にこの山岳を抜けてしまいましょう」
レオンハルトが前を向いた。
その後も、何体も半端なくヤバそうなドラゴンが襲ってきた。
だが、難なく倒していく。
最強の盾と剣を兼ね備えたレオンハルト。
最強の魔法と剣を振るうフィオラ。
状況判断と支援、時には有効打を入れるジャック。
圧倒的サポートと回復魔法のサラ。
正に完璧な布陣だ。
⸻
夕方には山岳地帯を越えた。
空が茜色に染まり、影が長く伸びている。
「今日はドラゴン肉っすね! 結構いけるっすよ!」
ジャックが満面の笑みで言った。
さっきまでの激戦が嘘のような明るさだった。
(普通にこいつら、魔人倒せるんじゃね……)
そう考えていたら──
リリィの様子がおかしい。
顔が青ざめ、額に汗。
「どうした?」
「気持ち悪い……変な魔力感じる」
リリィの声が震える。
「!?」
レオンハルトが即座に反応した。
「戦闘準備、周囲の警戒を怠るな」
全員が動きを止める。
「正面、なんか変なのいるっす!」
ジャックが指差した。
前方に、何かがいる。
人間……のような。
でも違う。
肌は灰色、目は虚ろ。
口が歪に裂け、体が不自然に歪んでいる。
「人間……じゃありませんね」
フィオラが剣を構える。
「人間様のモンスター?」
全員が警戒しながら距離を取る。
「魔人の瘴気から生まれた魔物だろう」
レオンハルトが低く呟く。
「まずは魔法で──」
話している間に──
魔物がレオンハルトを通り抜け、サラの正面に立っていた。
「──ッ!?」
速い。目で追えない。
魔物の口が青白く光る。
「ひっ」
サラが声を上げる。
⸻
「オラッ!」
後ろにいた俺は飛び出し、拳を振り抜く。
バギィ!
魔物の顔面を殴り、地面にねじ込む。
土が跳ね、岩が砕けた。
頭が潰れた。
死んだか……?
魔物は黒い粒となって霧散した。
「サラ! 無事か!」
レオンハルトが駆け寄る。
「だ、大丈夫……」
サラが震える声で答える。
小さな体が震えていた。
「鬼塚さん……」
レオンハルトが俺を見る。
「ありがとうございます」
深く、頭を下げた。
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