61.野営の夜
陽が沈み、辺りが暗くなってきた。
木々の梢がオレンジ色に染まり、森全体が夕闇に包まれ始めていた。
「今日はここで野営としましょう」
レオンハルトが告げる。
森の中、開けた場所。
木々が円形に途切れ、空が見える。
地面は平らで、草が柔らかく生えている。
フィオラは周囲の警戒。
木々の間を見渡し、魔物の気配を探っている。
剣の柄に手を添え、じっと耳を澄ます。
風が吹き、葉が擦れる音。
鳥の鳴き声。
遠くで、何かが枝を踏む音。
彼女の赤い髪が、夕日を受けて燃えるように輝いていた。
俺とリリィは荷物を降ろし、座る場所を確保した。
「ふぅ……」
リリィが大きく息を吐いた。
顔色はまだ少し青い。
「よっと」
ジャックが地面に手を翳すと、草木が絡み合い固まりとなった。
緑の茎が螺旋を描いて編まれ、丸い塊になる。
そこに火が灯った。パチパチと小さな音。
「火起こし魔法っす。簡素ですけど一日くらいは持つっすよ!」
ジャックが得意げに笑う。
次に、魔法で地面から水を汲み出し、精製を始めた。
手を地面にかざすと水が湧き出て、透明な球体になって浮かぶ。
さらに鍋を火にかけながら——
「温度調整もできるんで、焦げ付かないようにできるっす」
鍋底からじんわりと熱。炎の勢いを調整し、ちょうどいい火加減。
「お前、すげぇ便利じゃねえか」
俺が言うと、ジャックが照れくさそうに笑った。
「へへ、あざっす」
オレンジの髪を掻きながら、泣きぼくろのある目を細める。
「食器は……っと」
ジャックが地面に手を翳す。
魔力が流れ、土が盛り上がり、形を変える。
皿、フォーク、カップへと成形され、表面が滑らかになり艶が出た。
「土魔法で作った簡易食器っす!」
ポンポンと叩く。カツンと硬い音。
「使い終わったら土に戻すんで、荷物にならないんすよ」
「おお、すげぇな」
俺が素直に驚くと、ジャックがさらに照れた。
「こういう小技だけは得意なんすよね。攻撃魔法とかは、みんなには全然敵わないんすけど……」
少し自嘲気味に笑う。
「君がいなければ、我々は野営すらままならないよ」
レオンハルトが優しく言った。
「団長……」
ジャックが嬉しそうに顔を上げた。
⸻
「今日は特別っす!」
ジャックが鍋に干し肉と乾燥野菜を入れる。
さらに保存魔法の肉も追加。
「初日だけは、ちょっと豪華にいきましょう」
レオンハルトが微笑む。
煮込みの香りが立ち上る。
肉の脂と野菜の甘みが溶け合い、腹が鳴る。
「結界張ってきたよ」
サラが杖を片手に戻ってきた。
「よし、それでは食事にしようか」
レオンハルトが全員を見渡した。
「いただきます」
一同が声を合わせた。
「うめぇ……」
スプーンで掬ったスープを口に運ぶ。
旨い。
肉の旨味、野菜の甘み、絶妙な塩気。
「S級、何もかも半端ねえな」
俺が感心すると、レオンハルトが笑った。
「ジャックのおかげですよ。何でもできる器用なやつなんです」
「へへ、恐縮っす!」
炎の明かりが彼の顔を照らす。
「それにしても、剛くんガチすごかったっすよ武闘会」
ジャックが身を乗り出す。
「感動して涙出たっす」
「決して倒れない不屈の闘志」
フィオラが静かに言う。
琥珀色の瞳がじっと俺を見つめる。
「正に戦士だわ」
「あぁ、見てくれてたんだよな。ありがとよ」
「鬼塚さんの領域で勝てる人間はいないかもしれませんね」
レオンハルトが穏やかに笑う。
そして表情を引き締めた。
「一応、能力について再度確認させてもらってもいいですか?」
「おっけー!それでは私から説明します!」
リリィが元気よく手を挙げた。顔色も戻ってきている。
「剛くんの能力は『アリーナ』って呼んでるの」
リリィが鍋を挟んでみんなを見る。
炎の明かりがヘアピンの金属を照らす。
「剛くんが敵だと認識して、戦意を向けた相手——」
リリィが指を立てる。
「その相手は、魔法が一切使えなくなる」
フィオラが目を細めた。
「一切……ですか?」
「そう! 攻撃魔法も、身体強化も、回復魔法も」
リリィが指を折りながら続ける。
「魔法道具も機能しなくなるよ」
ジャックが目を剥いた。
「それって、マジで全部っすか?」
「全部」
リリィが頷く。
「しかも範囲がすごく広くて……測定不能なの」
レオンハルトが問う。
「複数の敵にも効果は?」
「うん。剛くんが敵だと認識した相手全員が対象だよ」
ジャックが椅子から身を乗り出す。
「マジっすか!? じゃあ、騎士団相手でも……」
「理論上はね」
リリィが頷く。
「でも、味方は巻き込まれないよ」
「剛くんが敵だと認識してない人には影響がないの」
サラが小さく息を呑む。
「便利すぎる……」
「ただし——」
リリィの表情が曇る。
炎の影が彼女の頬を揺らす。
「剛くん自身は、常に魔法を受けられないんだよね。戦闘中じゃなくても、味方の回復魔法も、サポート魔法も……全部、効かないの」
サラが杖を握りしめる。
レオンハルトが静かに頷いた。
「なるほど……だから武闘会では完全な肉体戦で」
「そう」
リリィが俺を見て微笑む。
「魔法なし、回復なし。
それでも——剛くんは武神ダリウスを倒して優勝した!」
誇らしげな声が、炎に揺れた。
「……驚異的ですね」
レオンハルトが感嘆の息。
「すげぇっす! 魔法使い全員の天敵じゃないすか!」
ジャックが興奮する。
「ほんと、怪我だけはしないでよね」
サラがぶっきらぼうに言う。
「ただ──」
剛が口を開いた。
「俺の能力が魔人に通用するか、だな」
焚き火の炎が、顔を照らす。
「本来、転生者二人で倒すべき相手だったかもしれねぇ」
「女神が転生者2人で帳尻合わせてた可能性考えると……」
少し間を置く。
「どうも、な」
静寂。
レオンハルトが、剛を見た。
その目には、敬意が宿っていた。
「魔人は膨大な魔力を放っていました。」
「魔力が魔人の力の源なのであれば可能性はあります。」
「ああ、そうだな」
剛が頷く。
「モンスターには弱えんだ」
「道中、頼りにしてるぜ」
「ええ、任せてください」
レオンハルトが穏やかに言う。
「鬼塚さんが傷つかないよう、我々が全力で守ります」
「頼んだぜ」
俺が頷くと、レオンハルトも頷いた。
⸻
ジャックの巨大なカバンには、俺たちの寝袋まで詰まってた。
「ほい、これ剛くんとリリィ嬢の分っす」
「おかげで快適な野営になったぜ」
「へへ、荷物持ちは任せてくださいっす!」
ジャックが胸を張る。
夜が深まり、森は静寂に包まれた。
炎だけがパチパチと音を立てている。
空を見上げると満天の星。
月明かりが梢を照らしていた。
「……綺麗だな」
誰かが呟いた。
誰も何も言わなかった。
ただ炎を囲んで座り、星を見上げる。
風が吹き、葉が擦れる音。
遠くで鳥の声。
──長い旅の、最初の夜。
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