55.初めてのS級昇格チャンス
僕らは鬼塚を新たにパーティに加え、早速Aランクの依頼を受けていった。
新しい盾役。
魔法が使えない分、従順だろう――そう思っていた。
でも――。
まぁ、結論から言うと控えめに言ってもゴミだった。
最初こそ、僕の機転と的確な指示でうまくやれてはいた。
「剛、前に出て!」
「ガルド、右から回れ!」
「セリア、魔法準備!」
指示は的確。
でも――毎回、こいつだけ怪我だらけだ。
戦闘が終わるたびに血まみれ。
傷も治らない。
回復魔法の効きも悪い。
回復薬は無駄遣い。
本当に使えない。
⸻
ただ――ちょうどこいつが加入したあたりから、僕は絶好調だった。
ようやく女神の加護の真骨頂。
レベルも50を超えて、技も冴えてきた。
『レベルアップ! Lv51』
『レベルアップ! Lv52』
依頼を次々と達成。
スキルも増え、魔法の威力も上がる。
(これだ。これが僕の力だ)
なにより――ルシアンのおかげかな?
彼といると心が安らぐ。
精神的に余裕ができて、鬼塚の粗相も我慢できた。
図書館で話す時間が唯一の癒しだ。
⸻
そして、ついにきた。
『神崎ハルト Lv55』
ステータス画面を眺める。
数字が並ぶ。
確かな成長。
(ついに、ここまで来た)
いよいよSランク昇格のダンジョンに挑む。
Aランクダンジョン。
ここをクリアすれば、Sランク冒険者。
誰もが認める英雄だ。
⸻
だがまたイレギュラー。
調子よすぎて、無能の存在を軽視していた。
足手まといの鬼塚は荷物持ちにしておけば邪魔にはならないだろうと思ってた。
完全に甘かった。
「剛、君は荷物持ちしてくれる?」
「……おう」
鬼塚が不満そうな顔をする。
なんで僕の優しさがわからないかな?
なのに――いきなりでしゃばってきた。
道中のスケルトン。
鬼塚が勝手に飛びかかった。
(は? 何やってるのこいつ)
馬鹿すぎる。
本当に最悪だ。
くだらない噂を流されて困るのは僕なんだよ?
引っ込んでろよ。
そんなにでしゃばりたいならと、囮の役をくれてやった。
そしたら、それすらできない。
オーガに吹き飛ばされ、気絶。
こんなパーティの癌、さっさとクビにしておけばよかった。
⸻
結果は失敗。
こいつのせいで、過去一の大失態。
下手すれば全員死ぬところだった。
オーガの圧倒的な力。
黒い炎。
僕の魔法は弾かれる。
ガルドが吹き飛ぶ。
セリアの悲鳴。
ルナが必死に回復。
足手まといを抱えて戦える相手じゃない。
こいつさえいなければチャンスはあったかもしれない。
なんとか逃げ帰った。
全員、ボロボロ。
元凶の足手纏いはもちろん即クビだ。
「パーティ抜けてくれないかな? クビだ」
率直に告げる。
「お前のせいで全員死にかけたんだぞ」
「理解してる?」
鬼塚は謝罪を残し消えた
(さすがに自覚くらいはあったか。)
それにしても、ここまで無能だとは。
馬鹿が頑張ると組織が壊れる――まさにこれだ。
⸻
またしばらく休養した。
部屋に引きこもる。
ベッドに横になる。
天井を見上げる。
眠れない。
目を閉じると――エイダの腹が裂かれる光景が浮かぶ。
血が吹き出す。
悲鳴。
「うっ……」
猛烈な吐き気。
トイレに駆け込む。
「おぉぇっ……」
胃液しか出ない。
でも吐き気は止まらない。
またある日は、エリックに怒鳴られる夢を見た。
「貴様もヒールをかけろ!!!」
怒りの声。
全身汗まみれで飛び起きる。
心臓が激しく打つ。
息が荒い。
(……また、夢か)
⸻
ルシアンは、そんな僕を慰めてくれた。
図書館のいつもの席。
「大丈夫だよ、ハルト」
優しい声。
「ハルトは何も悪くない」
「ありがとう……」
涙が出そうになる。
「まだ、頑張れるよ」
「もう一歩でSランクなんだ」
「誰もが認める英雄になる」
ルシアンが微笑む。
「そうだね、ハルトなら、きっと」
⸻
もう一度、レベル上げだ。
楽勝だったAランク依頼。
ダイアウルフ討伐。
何度も倒した相手。
でも――異常が起きた。
モンスターが異様に強い。
ダイアウルフの牙と爪が、ガルドの鎧を砕く。
「ぐあっ!」
ガルドが吹き飛ぶ。
「ファイアブラスト!」
セリアの魔法が弾かれる。
「そんな……!」
簡単に倒してきたオークやダイアウルフに、全く歯が立たない。
ガルドもセリアもルナも、もう役に立たない。
僕は必死に指示を送る。
「ガルド、左!」
「セリア、魔法!」
「ルナ、回復!」
声が掠れ、喉が痛い。
そんな頑張りも虚しく――討伐失敗。
なにやってるんだよ……。
Sランク昇格を逃して士気が下がったんだ。
(ほんと、あのへなちょこ野郎……。)
⸻
また休養した。
もう一度仕切り直そう。
効率的な方法を考えるんだ。
部屋でステータス画面を眺める。
『神崎ハルト Lv55』
数字は変わらない。
経験値が入らない。
(なんで……?)
そんな矢先――驚く光景を見た。
武闘会。
全く興味なんてなかった。
でもガルドが言ったんだ。
「次の対戦相手、あのへなちょこ鬼塚だぜ!」
酒場で、得意げに。
「リングでぶっ潰してやる!」
「見に来いよ、神崎! スカッとするぜ、絶対!」
拳を鳴らしながら笑っていた。
まぁ、気晴らしに見に行くか。
そう思って、闘技場に足を運んだ。
(まぁ、瞬殺だろうな)
そう思っていた。
⸻
でも――。
そこにあったのは、徹底的に叩きのめされたガルドだった。
一方的だった。
あまりに圧倒的だった。
意味がわからなかった。
(あんなへなちょこに負ける?)
目を疑った。
何度も瞬きをした。
でも、現実は変わらない。
審判が手を上げる。
「勝者――鬼塚剛!!」
歓声が爆発した。
「うおおおおお!!」
「鬼塚! 鬼塚!」
観客が立ち上がる。
鬼塚が――勝った。
あのへなちょこが。
あの足手まといが。
(ガルドも、いよいよ終わりだな)
そう思うしかなかった。
(勇者パーティに泥を塗りやがって……)
怒りが込み上げる。
顔が熱い。
怒りでどうにかなりそうだったので、僕は早々に立ち去った。
観客席を降りる。
足音が響く。
背後から、まだ歓声が聞こえる。
「鬼塚! 鬼塚!」
その声が――耳に刺さった。
⸻
何時間経ったろう。
わからなくなるほどに、ひどく落ち込んでた。
こんなのばかりだ。
無能のせいでまた評判が下がる。
はぁ……。
またバルトロメオにパーティを再編成してもらうか。
そう考えていた矢先。
⸻
街の大通り。
人だかり。
歓声。
「うおおおお!」
「鬼塚! 鬼塚!」
「は?」
その名前が耳に入った瞬間――心臓が止まった。
人混みを掻き分ける。
闘技場へ、前へ進む。
そして――見た。
闘技場に掲げられた大きな看板。
『第三百回記念 王都武闘会』
『優勝者:鬼塚剛』
金色のベルトを腰に巻いた、あの男。
リーゼントの男。
群衆に囲まれ、笑っていた。
どうして。
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