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53.初めての友達


 翌日。

バルトロメオの采配で、早急に新しいパーティが編成された。


彼は妙に焦っているように見えた。

額に汗を浮かべ、何度も書類を確認している。


(何か急いでるな……まぁ、僕には関係ないけど)


後で聞いた話だが、S級冒険者たちと厄災の兆候の調査をしているらしい。

 

新しいメンバーは戦士と魔法使い。

ルナだけは残っていた。



それからは、依頼をこなしてモンスターを討伐する日々だった。

週に2、3回くらい。


昼に起き、支度を整え、依頼に出る。

僕がひたすらメンバーの指揮をとり、依頼を達成していく。


でも――。


自らついていけないと離脱する者。

使えなさすぎてクビにした奴もいた。


くだらない奴らだ。

遊びじゃないんだよ。



そんな過酷な日々を送る僕にも、安らげる時間があった。

友人、ルシアンだ。


彼といると、不思議と心が安らぐ。


図書館で出会った青年。

とても色白で、銀がかった白髪。

薄い青灰色の瞳。

黒いローブを纏い、年は僕より少し上に見える。


静かな雰囲気。

でも――どこか儚げだった。


僕のことを尊敬していると言ってくれた。

そんな言葉を聞いたのは久しぶりだった。


リーダーとしての資質や堅実ぶり、すべてを肯定してくれる。


「あなたは正しいですよ、神崎さん」

ルシアンが穏やかに微笑む。


「戦略的に動くことは、決して臆病ではありません」

「むしろ、賢明な判断です」


その言葉が、胸に染みた。


(……そうだよね)

(僕は間違ってない)


「周りの人たちは、あなたの戦略を理解できていないだけです」


ルシアンだけが、僕をわかってくれた。



彼はいつも図書館にいた。

休日には図書館に通う習慣がついた。


古い本が並ぶ静かな空間。

窓から差し込む柔らかな光。

ルシアンは、いつも同じ席に座っている。


僕はいつも愚痴を聞いてもらった。

ルシアンはすべて受け止め、肯定してくれる。


ある時、ルシアンが自分の話をした。


「実は……私も、似たような経験がありまして」

少し俯くルシアン。

儚げな表情。


「昔、私も仲間に裏切られたことがあるんです」


「え……?」


「私の判断が正しかったのに、結果が悪かっただけで責められました」

声が少し震えている。


「誰も、理解してくれませんでした」


ルシアンが寂しそうに笑う。

その笑顔が、痛々しい。


「だから……神崎さんの気持ち、わかるんです」


(……この人、わかってくれる)

(初めてだ、こんなに理解してくれる人)


ルシアンにも過去に辛いことがあった。

こんなにも心が通じ合える人、初めてだった。


僕もルシアンに、ちゃんと自分のことを伝えるべきだと思った。

それが誠意だと。



「……前世でも、こういうこと、あったんだよね」


思わず呟いた。

ルシアンの瞳が、一瞬だけ鋭く光る。


――だが、すぐに穏やかな表情に戻った。


「前世……ですか?」


「あ……」


言ってしまった。

いいのかな。

いいよね。


「いや、その……」


「大丈夫ですよ」

ルシアンが優しく微笑む。


「私も、不思議な力について研究していますから」

「転生者の存在も、文献で読んだことがあります」


「……そう、なんだ」


少しだけ、安心した。


「もしよければ……お話、聞かせていただけませんか?」

ルシアンが椅子に座り直す。


「あなたの前世のこと」

「もしかしたら、今の苦しみを理解する手がかりになるかもしれません」


その優しい声に――僕は少しずつ話し始めた。


学校のこと。

不登校だったこと。

誰も理解してくれなかったこと。

なろう小説で現実逃避していたこと。


全部。

吐き出すように。


「辛かったでしょうね」

ルシアンが優しく言う。


「毎日、部屋で何をしていたんですか?」


「……ゲームとか、ネットで小説読んでた」


「小説?」


「異世界転生とか……チート能力で無双するやつ」


恥ずかしい。

でも、止まらなかった。


「みんな、簡単に強くなって、活躍して……」

「僕も、ああなれたらって……」


「それが、現実になったんですね」

ルシアンが微笑む。


「女神があなたを選んだ」


「……うん」


「でも――」

ルシアンが少し声を落とす。


「現実は、小説とは違いましたか?」


「……」


言葉が出ない。


「痛みがある。恐怖がある。仲間は裏切る」

ルシアンが静かに続ける。


「そして、誰もあなたを理解してくれない」


「……そう、なんだよ」

声が震えた。


「僕は……本当は、怖いんだ」

「戦うのが、怖い」

「痛いのが、怖い」

「失敗するのが、怖い」

声はひどく幼くて、自分のものじゃないみたいだった。


初めて、誰かに本音を言った。


「わかりますよ」

ルシアンが優しく言う。


「それは、当然の感情です」


そして――。


「でも、大丈夫」


ルシアンが僕の肩に手を置いた。

冷たい手。

でも、優しい。


「恐怖を克服する方法が、あります」


「……え?」


「もっと強くなる方法です」


ルシアンの瞳が、僅かに光る。


「あなたなら、きっとできますよ」


一瞬の沈黙。


そして――。


「禁術です」


その言葉に、心臓が跳ねた。


「もちろん、無理にとは言いませんよ。ただ……あなたの痛みを放っておけないんです」


「法で許されないとしても、それはあなたなら例外だと私は思います」

ルシアンは真剣な顔だ。


「国の存亡が、責任があなた一人に降りかかっている」

「こんな理不尽、私はあなたの友として許せない」


「それならせめて、禁じられた力だとしても」

「あなたには行使する権利があると思う」


嬉しかった。

こんなに真剣に寄り添ってくれる。


友達の言葉に、思わず涙が出た。


(こんなに…こんなに、わかってくれる人がいたなんて)


前世でも、この世界でも、初めてだった。

本当に、理解してくれる人。


「ありがとう……でもまだ、もう少し頑張ってみるよ」


声が震える。

涙を拭う。


「わかりました」

ルシアンが優しく微笑む。


「私はいつでも、ここであなたの帰りを待っていますよ」


その笑顔が――。


とても優しくて。

とても儚くて。

そして――どこか、冷たかった。

 

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