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52.初めてのBランク昇格


 一応、スモークウルフ討伐成功ということで、冒険者としてはCランクに認定された。

でも僕は、ランクを落とした討伐依頼をひたすら受け続けた。


ウルフ討伐。

ゴブリン討伐。

低ランクの魔獣退治。


(効率考えたらこれがいいでしょ、普通に)

(僕は賢いからリスクを避ける。それが正しい戦略だ)


レベルを上げるには経験値が必要だ。

無理して難しい依頼を受けるより、確実にクリアできる依頼を数こなす方が効率的。

そう、自分に言い聞かせた。



でも――連携は相変わらずうまくいかない。


「ルナ、ヒール遅いよ!」

戦闘中、思わず叫ぶ。


「エリック、引かずに耐えて! 僕が攻撃できないでしょ!?」

「し、しかし……」


エリックが何か言いかけるが、聞く気にはならなかった。


(なんでこいつら微妙に指示無視するんだよ)

(戦略ってもの考えられないのかな? 無能だな)


胸の中でそう呟く。

エイダは何も言わない。

ルナは申し訳なさそうな顔をしている。

エリックは黙って前を向いた。


そうこうしているうちに――さらに半年以上の月日が経った。



ある日、掲示板を眺めていると、目についた依頼があった。


『ブレードマンティス討伐』


普段より危険度が高い依頼。

でも、報酬もいい。


「僕のレベルも上がってスキルも増えたし、この依頼行こうか」


「でも、この依頼危険度高めだよ。いいの?」

エイダが心配そうに言う。


「いけるよ。君たちがちゃんと指示聞いてくれたらね」


その言葉に――沈黙が落ちた。

エリックとエイダは顔を見合わせる。

何か言いたげな表情。

でも、口には出さなかった。



当日。

集合場所へ向かうと――知らない男がいた。


「誠に勝手ながら、助っ人を呼ばせていただきました」

エリックが頭を下げる。


「戦士のザックです」

「どうも。エリックとはツレでね」

ザックが気さくに笑う。


「ご助力させていただきますよ」

「よろしくお願いします!」

エイダが笑顔で迎え入れる。


でも――。


「どういうこと? 聞いてないんだけど」


エリックの勝手な行動に、正直ムカついた。

僕がリーダーなのに。


「まぁまぁ。勇者さんの身に何かあったらまずいんでね」

ザックが肩を叩いてくる。


「ここはどうか頼みますよ」


(まぁ、僕に何かあれば国が困るだろうけど)

(みくびってるみたいでムカつく)


「まぁいいや。よろしく。指示には従ってくれよ」

「あいよ」



「あの、魔物の情報は――」

エリックが話し始める。


「わかってるよ。ブレードマンティスでしょ? でかいカマキリだ!」


遮るように答える。


「そう……ですか」


エリックの声が小さくなった。



離れの村の森で遭遇した。


「シャアアアアア!!!!」


すごい威嚇。

巨大なカマキリ。

緑色の体。

鎌のような腕が鋭く光っている。


距離を取る。

足が震える。


「大丈夫。僕に任せて」

自分に言い聞かせるように言う。


「新しい魔法だ。くらえ、ホーリーアロー!!」


光の矢が放たれる。

マンティスの体に突き刺さり、一瞬怯む。


でも――すぐに襲いかかってきた。

早い!


「私が受け止めるので、お願いします!」

エリックが前に出る。


「おうよ、任せとけ!」

ザックが剣を構える。


「了解!」

エイダが杖を向ける。


「援護しますね!」

ルナが魔法を詠唱し始める。


(は? 何やってるのこいつら)


エリックが攻撃を受け止め、ザックとエイダが猛攻をかける。

剣が閃き、魔法が炸裂する。


傷はつくが仕留めきれない。

マンティスが鎌を振るう。


「クソっ、エリック粘れるか!」

「……ああ、仕切るぞ!」


エリックがマンティスを弾き、後退させる。


今までにない激しい戦闘だった。

息が荒い。

汗が流れる。


「神崎さん、あなたの剣技で仕留めてください!」


「あ、ああ……」


剣を構える。

手が震える。


マンティスは再び襲いかかる。


ガキィィィン!!


エリックの盾が受け止めた。

だが、勢いで後退させられる。


「くっ、お願いします!」


「おらぁ!!!」

ザックが斬りかかる。


「ファイアボール!!」

エイダが魔法を放つ。


「身体強化!」

ルナが魔法をかける。


「神崎さん!?」

エリックの叫び。


でも――。


僕は動けなかった。

足が、膝が震えて、言うことを聞かない。


マンティスの鎌が光る。

あの鋭い刃。

あれに当たったら――。


マンティスがエリックを猛追する。

ガキィィン! ガキィィン!


鎌を打ち付ける音が響く。


「ぐぅ……!」


エリックが後退する。


――怖い。

でも、動かなきゃ。


「わぁぁぁぁぁぁ!! 連続切り!!」


スキルを発動した。

剣が光る。


「馬鹿野郎、今じゃねえ!!!」

ザックの叫び。


マンティスはエリックを弾き飛ばし――僕に狙いを定めた。


鎌が迫る。

視界いっぱいに刃。


「危ない!」


エイダが僕を突き飛ばした。


次の瞬間――。


マンティスの鋭い鎌が、エイダの腹部を捌いた。


ブシャァ!!


血が吹き出る。


「エイダさん!!」

ルナの悲鳴。


「エリック、仕留めるぞ!!」

「ああ!」


エリックがマンティスの胴を貫く。

ザックが首を切り落とした。


ドサリ。

マンティスが崩れ落ちる。


「エイダ!!」

エリックが駆け寄る。


「深い、まずいぞ!! 街へ走る! ヒールをかけ続けてくれ!」

「わかりました!」


ザックがエイダを担ぎ、治癒院へ走った。


「ぼ、僕が完全にお前らの指示で動いてたら、もはや全滅してた!」


思わず叫ぶ。


「貴様もヒールをかけろ!!!」


ビクッ

 

エリックが怒鳴った。

初めて聞く、怒りの声。


(なんだよ、なんなんだよ。)


(エリックが勝手に前に出たから)

(ザックが余計なことするから)

(エイダが指示を聞かないから)

(そうだ、全部こいつらのせいだ)

(僕は悪くない)

 

(勝手に動いて、勝手にやられて、ほんとこの無能は)



エイダは一命を取り留めた。

だが戦線復帰は不可能らしい。

腹部の傷が深すぎた。


エリックはパーティを抜けた。


ブレードマンティスは討伐成功したので、Bランクに昇格。

ここまで約1年か。


レベルは30。


『神崎ハルト Lv30』


ステータス画面を眺める。

数字は確実に上がっている。


(どう考えても僕の采配は間違ってなかった)



変な噂が流れていた。

酒場で、街で、ギルドで。


『勇者が仲間を盾にした』

『勇者が逃げて仲間が腹を裂かれた』


聞こえてくる声。

笑い声。


(出鱈目いいやがって、僕は賢く立ち回ってた)

(勝手なマネされなければブレードマンティスも問題なく倒せてた)


宿舎に戻りベッドに横になる。

天井を見上げる。


腹を裂かれるエイダ。

吹き上がる血飛沫。

怒鳴るエリック。


「おぇっ‥‥!!」

猛烈な嘔気が込み上げてきた。

トイレに駆け込む


「はぁはぁ‥」


(僕は間違ってない)

(それにもし僕が死んだら、勇者がいなくなる)

(それは国の損失だ。仕方のない犠牲だった)


はぁ……。


ため息が出た。

長く、重いため息。


部屋には、それだけが響いていた。

 

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