50.初めてのパーティ結成
三日後。
ギルド宿舎の一室。
磨かれた木の床。壁には地図。机の上に報告書の束。
ギルドの上層が使う部屋らしい。
「入れ」
バルトロメオの声がした。
扉を開けると、三人の男女が立っていた。
「紹介しよう。君の新しい仲間だ」
⸻
一人目は、赤銅色の短髪の男。
無骨な顔立ち。日焼けした肌。
肩には古びた盾。腰には剣。
実戦を経験してきた風格がある。
「エリック。前線の戦士だ。元Bランク冒険者」
僕をじっと見る。
「勇者様と共に戦えるとは……光栄です」
深く頭を下げた。
「実戦経験を活かして、お役に立ちます」
(まぁ、タンクか。僕の火力を活かすには必要だ)
⸻
二人目は、長い栗色の髪に癖毛の女。
白いローブに杖を持っている。
年は僕と同じくらいに見える。
優しそうな顔立ちだが、どこか儚げだ。
「ルナ・フィルハート。治癒と補助魔法を専門としてる」
バルトロメオが彼女を指す。
「教会の推薦で来てもらった」
「お会いできて光栄です、勇者さま」
柔らかな声。深々と頭を下げる。
目が潤んでいる。本当に感激しているようだ。
(回復役か。ちょうどいい。僕が怪我してもどうにかなるな)
⸻
三人目。
青いショートヘアの少女。黒のローブにステッキを持っている。
小柄で、まだ幼さが残る顔立ち。
でも、目は鋭い。
「エイダ。魔法使いだ」
バルトロメオが紹介する。
「女神様に選ばれた勇者様と一緒に戦えるなんて……!」
エイダが目を輝かせる。
「私、頑張ります! 絶対お役に立ちます!」
興奮した様子で拳を握る。
「ああ、うん……よろしく」
僕が笑顔で応える。
(元気な子だな。まあ、悪くない)
⸻
バルトロメオが机の前に立った。
全員が注目する。
「これからお前たちは、勇者パーティとして正式に登録される」
重々しい口調。
「神崎ハルトをリーダーとし、主に討伐依頼やダンジョン攻略を行ってもらう」
「勇者様がリーダー……当然ですね」
エリックが頷く。
「女神様の加護を受けた方ですから」
ルナが微笑む。
「私たち、精一杯サポートします!」
エイダが元気よく言った。
全員の視線が僕に集まる。
期待の目。尊敬の目。
(気分が上がる、最高だ)
胸が高鳴る。
⸻
「初任務は北の森林地帯の魔獣討伐だ」
バルトロメオが地図を指差す。
「実戦訓練を兼ねる。各自の実力と連携を確認したい」
実戦。
その言葉に、胸が高鳴った。
(ようやく僕の出番だ)
拳を握りしめる。
レベル15。
スキルも魔法も習得済み。
準備は完璧だ。
「勇者様の力、楽しみにしています」
エリックが言う。
「私も! どんな戦い方をされるんですか?」
エイダが身を乗り出す。
「まあ、見てればわかるよ」
僕が笑顔で答える。
(みんな、僕に期待してる)
(当然だ。僕は勇者なんだから)
⸻
会議が終わり、全員が部屋を出る。
エリックが先頭。
エイダとルナが並んで歩く。
「勇者様って、思ったより普通の人なんですね」
エイダが小声で言う。
「でも、きっとすごい力を隠してるんですよ」
ルナが答える。
「女神様に選ばれた方ですから」
僕が最後。
廊下に足音だけが響く。
⸻
「神崎くん。ひとつだけ言っておく」
バルトロメオが声をかけてきた。
振り返る。
「うん?」
「この世界の強さは、数字では測れん」
真っ直ぐな目だった。
重い視線。
「君の力がどれほど特別でも、命のやり取りは常に現実だ」
「もちろん。それくらいわかってるよ」
すぐに笑顔で答える。
(何を心配してるんだろう。僕は勇者なんだぞ)
バルトロメオは、わずかに目を細めて頷いた。
「……そうか。ならばいい」
それだけ言って、踵を返す。
⸻
廊下を歩く。
前を行くエリックの背中。
その隣を歩くエイダとルナ。
三人は何か話している。
「勇者様、本当にすごいんでしょうね」
「ええ、きっと」
声が聞こえる。
期待の声。
僕だけ、少し後ろを歩いていた。
誰も振り返らない。
でも、それは僕が特別だからだ。
リーダーは、少し後ろから全体を見る。
そういうものだ。
(これから始まるんだ。僕の物語が)
(この世界で僕は、英雄になる)
前を行く三人の背中を見つめる。
ステータス画面を開く。
『神崎ハルト Lv15』
青い光が目の前に浮かぶ。
数字が並ぶ。
(まだ序盤だ)
(これから、どんどん上がる)
(女神のシステムがあるんだから)
確かな、可能性の証。
⸻
廊下の角を曲がる。
光が差し込んで、三人を照らす。
明るい。
僕は、その後ろを歩く。
(これから始まるんだ。僕の物語が)
足音が少しだけ、遅れて響いた。
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