表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/50

44.勇者転生


 ゲームの中では、僕は強かった。


 画面に表示されるステータス画面。

 レベル60の冒険者。装備欄には上級の武器と防具が並んでいる。


 マルチプレイのボス討伐に参加すれば、たまにチャットで褒められる。


『神崎さんすごい!』

『火力高いですね』

『助かりました!』


 文字だけの称賛。

 でも、それで十分だった。


 モンスターを倒すたびに経験値バーが伸びる。

 レベルアップの効果音が鳴る。

 数値が上がる。

 それだけで満たされた。


(やろうと思えばできるんだ、僕は)


 クラスの連中に見せてやりたい。

 お前らが馬鹿にしてた僕は、こんなに強いんだって。


 画面をスクロールしてランキングを眺める。

 上位にはレベル100のプレイヤーがずらりと並んでいた。


(あんなの廃人じゃないか)


 鼻で笑う。


 無限に時間がある暇人か、金をつぎ込む廃課金。

 どっちにしろ哀れな連中だ。



 ある日、部屋の扉が開いた。


 ノックなし。

 母親じゃない。

 重い足音。


 父親だった。


「ハルト」


 低く、押し殺したような声。


「もう限界だ」


 僕はパソコンから目を離さなかった。

 画面の中では、まだクエストが進行している。


「いい加減にしなさい!」


 父親が一歩踏み込んでくる。

 床がわずかに軋んだ。


「いつまでこんなことを続けるつもりだ」


「……」


「学校にも行かない。バイトもしない」


 声が震えている。

 怒りなのか、それとも――。


「お前、将来どうするつもりなんだ」


 僕は何も答えなかった。

 答えられなかった。


 喉の奥で言葉が引っかかって、出てこない。


「このままじゃ、お前……」


 父親の言葉が途中で止まる。

 長い沈黙。


 そして――ため息。


 深く、重く、諦めたような息を吐く音。


「……好きにしろ」


 扉が閉まる。


 足音が遠ざかる。階段を降りる音。一階に消えていく。


 部屋に、再び静寂が戻った。


 画面の中では、クエストが完了していた。

 経験値が入る。


 でも、さっきまでの高揚感はもうない。


 ただ、空虚な数字が増えただけだった。



 それから数ヶ月。


 僕は、ベッドとパソコンの往復だけをしていた。


 朝はない。昼もない。

 時間の感覚が曖昧になっていく。


 部屋のカーテンは閉めっぱなし。

 外の光を遮断している。


 時折、小説投稿サイトを開く。


『異世界転生で俺TUEEE!』

『俺だけレベルアップで無双ライフ!』

『最強スキルで世界征服!』


 タイトルをクリックする。


 主人公が強くなっていく。

 チート能力で。


 モンスターを一撃で倒す。

 仲間が増える。美少女ばかり。

 街の人々が主人公を称賛する。


「すごい!」「さすがです!」「あなたこそ真の勇者だ!」


(いいな)


 妄想が膨らむ。


 もし僕が異世界に転生したら。

 最強の能力を手に入れたら。


 みんなが僕を認める。

 尊敬する。

 ヒロインたちが僕の周りに集まる。

 勇者として崇められる。


(読みやすいし、面白いな)


 そう思いながら、また次の小説を開く。


 似たようなタイトル。

 似たような展開。


 だがどうしてだろう、不思議と引き込まれた。



 ある日の深夜。


 空腹に耐えかねて、コンビニに向かった。

 目的はカップ麺とエナジードリンク。最近の定番。


 真夜中の住宅街は静まり返っている。

 街灯だけが道を照らしていた。


 横断歩道の前で信号待ち。


 赤。


 誰も歩いていない。車も通らない。


 でも、渡らなかった。

 ルールだから。


 青になった。

 歩き始める。


 その時――。


 キィィィィッ!


 ブレーキ音が夜の静寂を引き裂いた。


 視界が回転する。

 空が見える。地面が見える。街灯の光が流れる。


 痛みはなかった。

 ただ、アスファルトが顔に近づいてくる感覚だけがあった。


(……あ)


 こんな風に、終わるんだ。


 意識が途切れた。



 目を開けると、そこは真っ白な空間だった。


 床も壁も天井もない。

 ただ、どこまでも続く白い光だけがある。


「ようこそ、神崎ハルト」


 声が響いた。


 どこから聞こえているのかわからない。

 空間全体が震えるような、不思議な声。


 振り向くと――女神がいた。


 銀色の長い髪が重力を無視してふわりと浮いている。

 純白の衣。

 神々しいオーラが全身から溢れていた。


 まるでゲームのCGみたいに美しい。


「あなたは命を落としました」


 女神が穏やかに微笑む。


「そして――私があなたを選びました」


「……選んだ?」


 自分の声が妙に小さく聞こえた。


「はい」


 女神が手を差し出す。

 その手は透けるように白い。


「異世界への転生です」


「異世界では厄災が迫っております」


 女神の表情が少し曇る。


「あなたには、特別な力を授けます」


 青い光が女神の手のひらに集まった。


「レベルアップシステム」

「スキル習得システム」


 光が二つに分かれて、僕の胸に吸い込まれていく。


 温かい。

 心臓の奥が熱くなる。


「この力で強くなり、いずれくる脅威をどうか退けてください」


 その瞬間――。


 僕の心臓が激しく高鳴った。

 鼓動が耳に響く。


(……きた)

(ついに、きた!)

(やっぱり僕が選ばれたんだ!)


 震える声を必死に押さえ込む。


 しかも、僕が一番得意なゲームのシステムじゃないか!


 レベルアップ。スキル習得。


 何百回、何千回とやってきたあのシステム。


 誰もわかってくれなかった”僕の凄さ”を、ようやく世界が認めた。


 今度こそ。

 今度こそ、やれる。


(前世は環境が悪かっただけだ)

(学校が悪い。クラスメイトが悪い。先生が悪い)

(今度は違う)

(今度こそ、僕は――)


「あ、あと!」


 勢い込んで声を出した。

 女神が少し驚いたように目を丸くする。


「かっこよくしてくれたら嬉しいかな、なんて……」


 我ながら図々しいと思ったが、言わずにはいられなかった。


 女神がクスリと笑う。


「さあ、行きなさい」

「あなたの、新しい人生が始まります」


 光に包まれる。

 体が浮く。重力がなくなる。


(……やってやる)

(絶対に、無双して英雄になるんだ)

(見返してやる。全員を)


 意識が遠のく。

 白い光が眩しさを増していく。


 そして――。


 異世界へ。



 次の瞬間、僕は草原に立っていた。


 青い空。白い雲。風が頬を撫でる。


 体が軽い。

 呼吸がしやすい。

 視界がクリア。


 そして――。


『レベルアップシステム起動』


 目の前に半透明の青い画面が表示される。

 まるでゲームのUIそのものだ。


『現在レベル:1』

『HP:100/100』

『MP:50/50』

『STR:10 DEX:10 INT:10』


『スキル習得システム起動』

『習得可能スキル:基礎剣術 初級魔法 身体強化』


 手を伸ばすと、画面に触れることができた。


 本物だ。

 これは、本物のチートだ。


 心臓が高鳴る。

 頬が熱い。


 ここからだ。

 ここからが僕の本当の人生の始まりだ!


 前世の失敗も、屈辱も、全部塗り替えてやる。


 この世界で、僕は英雄になる。


 草原を見渡す。遠くに街らしき建物が見えた。


 画面を閉じて、歩き出す。


 新しい一歩を、踏み出した。

 

【読者の皆様へのお願い】



ここまで読んでいただき、ありがとうございます! もし「面白かった」「続きが気になる!」と少しでも思っていただけたら



下にある【☆☆☆☆☆】から作品への評価をお願いいたします。



面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちもん大丈夫です!



ブックマーク登録もあわせてお願いします!



「評価」が更新の原動力になります。何卒よろしくお願いいたします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ