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41.ギルドマスターの来訪


  表彰式から三日が過ぎた。

 リリィの家。


 朝食を済ませ、リビングでくつろいでいた時だった。

 陽光が窓から差し込む。穏やかな朝。


 リリィはソファで本を読み、俺はテーブルで武闘会のトロフィーを眺めていた。

 黄金に輝くトロフィー。


 『第300回記念大会優勝者』


 刻まれた文字が、陽光を反射している。


「まだ実感湧かないな」


 呟くと、リリィが本から顔を上げた。


「うん、私も。剛くんが優勝するなんて、三日前まで考えられなかったもん」


「おい」


「冗談だよ」


 リリィがにっこり笑う。

 その時──。


 コンコン。

 扉をノックする音。


「誰だろう?」


 リリィが首を傾げた。


「荷物の配達かな」


 俺はソファから立ち上がる。


「俺が出る」


「うん」


 扉を開けると──立派な身なりの男が立っていた。


 五十代後半くらい。がっしりとした体格に立派な白髭。

 高級そうな黒いローブを纏い、貫禄がある。


 そして──見覚えがあった。


「ん? あんたは」


 授与式で俺にベルトとトロフィーを渡した主催者だった。


「お久しぶりです、鬼塚剛殿」


 男が穏やかに微笑む。


「優勝賞金をお届けに参りました」


 男の後ろには二人の護衛らしき男たち。

 筋骨隆々の体格、腰には剣。重そうな木箱を抱えている。


「ああ、わざわざすまねぇな」


 俺は扉を開けて道を空けた。


「どうぞ」


「失礼します」


 男が中に入り、護衛たちも木箱を運び込みテーブルへ。


 ドスン。


 重い音。相当な重量だ。


「あ、あの……」


 リリィが緊張した様子で立ち上がった。本を抱えたまま固まっている。


「お茶、お持ちしましょうか?」


「ああ、いただけるなら」


 男がにこりと笑う。


「お手数をおかけします」


「い、いえ!」


 リリィが慌てて台所へ向かった。

 普段の彼女からは想像できない緊張ぶりだ。


 男はソファに腰を下ろし、俺も向かいに座る。


「遅くなって申し訳ありません」


 男が木箱を指差した。


「こちらが優勝賞金。金貨三百枚です」


「おう」


 俺は箱の蓋を開けた。

 ズラリと並んだ金貨。鈍い光が放たれる。


 一枚一枚が重厚で、金の重みがズシリと伝わる。


(こんな大金、前世でも見たことねぇ)


「確かに」


 蓋を閉じる。


「ところで」


 男が改めて口を開いた。背筋を伸ばし、真剣な顔になる。


「自己紹介が遅れました」


「私は、バルトロメオ・グレイソン」


「武闘会の主催者であり──」


 男が俺をまっすぐ見据える。


「冒険者ギルドのギルドマスターでもあります」


「……ギルドマスター?」


 思わず声が漏れた。

 ギルドマスター──冒険者ギルドのトップ。王国全体の冒険者を統括する存在。


「はい」


 バルトロメオが頷いた。


「実は、賞金をお届けするだけではなく……少し、お話がありまして」


 その目が鋭くなる。


「よろしいでしょうか?」


「……おう」


 俺は頷いた。

 ただの挨拶じゃ済まねぇ気がする。空気が重い。


 その時、リリィが戻ってきた。お盆にティーカップを三つ載せて。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


 バルトロメオが一口お茶を飲み──カップを置いた。


 そして、少し申し訳なさそうに口を開く。


「実は──お詫びがありまして」


「お詫び?」


「はい」


 バルトロメオが頭を下げた。


「今後、武闘会への出場を──お断りせざるを得ません」


「……は?」


 俺は眉をひそめる。


「出禁ってことか?」


「大変心苦しいのですが」


 バルトロメオが顔を上げた。


「理由が二つあります」


 深呼吸。そして静かに告げる。


「一つは──あなたが特別な存在だということ」


「もう一つは──あなたの保有する特別な能力です」


 バルトロメオの声が低く響いた。


「武闘会は様々な戦闘スタイルの競い合いです」

「魔法使い、戦士、暗殺者……それぞれの個性が興行を支えている」


「しかし、あなたが出場すると──」


 一拍置く。


「魔法が完全に無効化される」


「魔法使いが、ただの素人になってしまうのです」


「興行として成立しなくなる」


「まぁ、そうだろうな……」


 俺は納得した。


(俺の能力を見破ったか。さすがギルドマスターだ)


 確かに、アルヴィンもガルドも魔法が消えた瞬間に弱体化した。

 一方的な展開になったのも無理はねぇ。


「ご理解いただけて、ありがとうございます」


 バルトロメオが安堵の表情を浮かべる。


「ただし──」


「名誉優勝者として、永久に記録されます」


「第三百回記念大会の優勝者、鬼塚剛」


「その名は歴史に刻まれます」


「何卒、これでご容赦を」


「別に、構わねぇよ」


 俺は肩をすくめた。


「一回優勝できりゃ充分だ」


「ありがとうございます」


 バルトロメオが深く頭を下げる。

 そして再び顔を上げ──目を細めた。


「ところで、一つ目の理由」


「あなたが特別な存在ということについてなのですが」


 空気が変わる。


 バルトロメオの目が鋭く光り、リリィが息を呑んだ。


「単刀直入にお聞きします」


「あなた──勇者様、ですね?」


「……は?」


 眉をひそめる俺。


「いえ、正確には──」


 バルトロメオが慎重に言葉を選ぶ。


「転生者。女神から加護を受け、この地に来られた」


「違いますか?」


 その瞬間、空気が凍りついた。


 リリィがカップを持つ手を止める。


 俺は──低く問う。


「……なんで、わかる」


 バルトロメオが静かに答える。


「長年、冒険者を見てきました」

「この世界の人間と、そうでない者の違い……わかるのです」


「あなたの戦い方、価値観、全てが異質です」


「そして──」


 一本の指を立てる。


「魔法無効化。この能力は──いえ、正確には“完全無効化”でしょうか?」


「はるか昔の記録に“対魔法耐性”を持つ勇者がいたとはありますが……」


「あなたのように完全に打ち消す力は初めてです」


「これはこの世界に存在する魔法などではない」


 バルトロメオが深く頷く。


「やはり、異世界から来られたのですね」


 俺はしばらく黙っていた。

 リリィが心配そうに俺を見ている。


 そして──。


「ああ」


 認めた。


「転生者だ」


「女神に呼ばれて、この世界に来た」


(まあ、バレても構わねぇか)

(どうせ隠し通せるもんでもねぇし)


 リリィが驚いた顔をしていた。

 知ってたはずだが、改めて第三者に言われると実感が湧くんだろう。


 バルトロメオが静かに微笑んだ。


「やはり」


「それでは──質問を変えます」


 空気がさらに張り詰める。

 リリィが固唾を呑む。


「あなたは、何のために転生されたのですか?」

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