40.栄光の瞬間
ゆっくりと視線を下ろす。
ダリウスが地面に倒れていた。
血まみれの顔。目を閉じている。気絶している。
治癒師たちが駆け寄ってくる。
「ダリウス選手、すぐに治療を!」
慌てた様子でダリウスに回復魔法をかけ始める。
淡い光がダリウスを包んだ。
傷が少しずつ癒えていく。
「鬼塚選手も治療します!」
治癒師が俺に手をかざす。
だが──何も起きない。
当然だ。
「あれ? おかしいな」
治癒師が首を傾げる。
「俺はいいから」
治癒師を下がらせた。
俺はダリウスの隣に座り込んだ。
膝が笑っている。もう立つ気力もない。
全身が痛い。骨が軋む。
だが──不思議と心地いい。
しばらくして──。
ダリウスの指がわずかに動いた。
そして──目がゆっくりと開く。
「……う……」
呻き声。意識が戻ってきたようだ。
「おう、起きたか」
俺が声をかける。
ダリウスがゆっくりと俺を見た。
焦点が定まっていく。
「……お前は……」
掠れた声。
「鬼塚……剛……」
「ああ」
ダリウスがゆっくりと上体を起こした。
治癒師が慌てて支える。
「無理はしないでください!」
「……いや、大丈夫だ」
ダリウスが治癒師の手を制した。
そして俺を見た。血まみれの俺を。
「……お前、治療は?」
「魔法、効かねぇんだ」
俺は軽く答えた。
「あとで回復薬飲むから、大丈夫だ」
「……そうか」
ダリウスが少し驚いた顔をした。
そして──苦笑いを浮かべる。
「……参ったな」
「まさか、俺が負けるとは」
「……いい勝負だった」
俺も答える。
「楽しかったぜ。お前、強ぇよ」
「お前もな」
ダリウスが静かに言った。
その目には──敵意も、悔しさもない。
ただ純粋な敬意だけがあった。
「お前は……本物だ。鬼塚剛」
ダリウスが手を差し出した。
俺はその手を握った。しっかりと。
観客がそれを見て──再び歓声が湧き上がった。
「うおおおおお!!」
「最高の試合だ!!」
「二人とも、最高だ!!」
スタンディングオベーション。
全員が立ち上がり、拍手を送っている。
涙を流している者もいる。
笑顔で拳を振り上げている者もいる。
闘技場全体が、感動に包まれていた。
「剛くん!!」
リリィが駆け寄ってきた。
そして──思い切り抱きついてきた。
「いってぇ!! 痛えだろ!」
全身傷だらけなんだぞ。
「ヤバいよ!! もうヤバすぎ!!」
リリィが俺の肩に顔を埋める。
「もう試合中ずっとヤバかったんだから!!」
声が震えている。泣いているのか。
「おう、語彙力もやべえな」
俺は苦笑する。
「回復薬くれよ」
「うん、沢山飲んで!!」
リリィが慌てて回復薬を取り出す。
俺はそれを一気に飲み干した。
痛みと出血が多少マシになる。
視界も少しクリアになった。
「剛くん、優勝おめでと!」
リリィが涙目で笑った。
「おう、ありがとな」
⸻
アナウンスが響いた。
『それでは表彰式を行います! 鬼塚選手、どうぞ中央へ!』
すげえ偉そうな奴らがどんどん集まってきた。
貴族か? 騎士団の幹部か?
よくわからないが、とにかく偉そうだ。
俺は中央に立つ。
『第三百回武闘会優勝者──鬼塚剛!!!』
観客が沸いた。
「鬼塚ー!!」
「チャンピオン!!」
『改めて皆様、盛大な拍手を!』
パチパチパチパチ!
観客が全員立って俺に拍手してる。
すげえ。なんて壮観な景色だ。
俺は、ゆっくりと周りを見渡した。
満員の観客席。全員が笑顔で拍手している。
リリィも泣きながら拍手している。
ダリウスも、アルヴィンに肩を借り立ち上がって拍手している。
(ここまで来たんだな、俺)
追放されて、どん底に落ちて。
だが這い上がった。
そして今──この場所に立っている。
『鬼塚選手、是非コメントをお願いします!』
マイクが向けられる。
「コメントつってもな……」
何を言えばいいんだ。
「まぁ、最高に楽しかったぜ。ありがとうな」
シンプルに、それだけ言った。
『鬼塚選手は前代未聞の全く新しいファイトスタイルでしたが、何か──』
アナウンサーが質問を続けようとする。
俺は手を上げて遮った。
「あぁ、こういうの苦手なんだ。この辺で勘弁してくれ」
『か、かしこまりました!』
アナウンサーが少し慌てる。
観客が笑った。
『それでは続きまして、チャンピオンベルトと優勝者トロフィー、賞金の授与に移りたいと思います!』
主催者が黄金のベルトとトロフィーを持ってくる。
『王都武闘会・第300回記念大会』
そう刻まれた重厚なチャンピオンベルトとトロフィー。
「鬼塚選手、本当におめでとう!」
主催者がベルトを俺に渡す。
重い。ズシリとした重さ。
金属の冷たい感触。
これが──優勝の証か。
俺はベルトを腰に巻いた。
バックルが陽光を反射してキラリと光る。
そしてトロフィーを受け取り、観客に向けて掲げた。
観客がさらに沸いた。
「うおおおおお!!」
「チャンピオンだ!!」
「鬼塚! 鬼塚!」
地響きのような歓声。
闘技場が揺れる。
「優勝賞金、金貨三百枚です」
主催者が証書を渡してくる。
『優勝賞金引換証』
「後日、指定の場所へお届けいたします」
「おう、頼む」
俺は証書を受け取り、掲げる。
最高だ。
こんな日が来るなんて、夢にも思わなかったぜ。
俺は、もう一度トロフィーを高く掲げた。
「うおおおおおお!!」
観客の歓声が、空に響いた。
陽光がトロフィーを照らし、黄金に輝く。
その光景が、俺の目に焼き付いた。
【読者の皆様へのお願い】
ここまで読んでいただき、ありがとうございます! もし「面白かった」「続きが気になる!」と少しでも思っていただけたら
下にある【☆☆☆☆☆】から作品への評価をお願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちもん大丈夫です!
ブックマーク登録もあわせてお願いします!
「評価」が更新の原動力になります。何卒よろしくお願いいたします!




