39.決着
(久しぶりだぜ)
(俺とタイマン張れるやつ)
俺は再び、ふらつきながらも立ち上がる。
顔面は血みどろだ。
口の中が切れている。
歯も折れているかもしれない。
「すっげぇ……なんで立てるんだよ」
観客が呆然としている。
遠くにリリィの泣きそうな顔が見えた。
祈るように手を組んでいる。
(イラつくぜ)
(俺が負けるとでも思ってんのかよ?)
俺は、正しく鬼のような形相をしていた。
血で染まった顔。赤く光る目。
ダリウスは目を見開く。
(この男……!)
⸻
ダリウスは再び構える。
「もう立つな。勝敗は決し――」
刹那。
俺のフェイント混じりの右ローキックが、
ダリウスの膝下を激しく打つ。
パァン!!!
「調子こいてんじゃねえぞコラ!」
視線は顔に向けたまま、肩を僅かに動かす。
上段と見せかけて下段。
正統派には読めない喧嘩のリズム。
俺の極限の当て感が、ダリウスの経験を上回る。
パァンッ!! バチィ!!
立て続けにフェイント混じりのローキックが、
ダリウスの膝下を激しく打ち付ける。
重心を前に見せかけて後ろ。
右と見せかけて左。
全てが罠だ。
「ぐぁっ!!」
ダリウスが怯む。
初めて見せる苦悶の表情。
咄嗟にダリウスも拳を放つも、踏ん張れていない。
ゴッ!!
俺は真正面から受ける。
顔面に拳が入る。だが構わない。
「やっと俺の間合いだな」
不敵に笑った。
ダリウスが後退しつつ拳を出すも、
軸が流れて威力が乗らない。
俺が距離を詰め、顔面めがけてフルスイング。
ダリウスの頬を裂く。
ダリウスも反射でカウンターを返す。
だが明らかに打撃の重さが違う。
そのまま、互いに顔面を撃ち合った。
バキッ! バキッ! ガッ!!!
開幕の流れとはまるで違う。
ダリウスの構えは崩れ、俺は笑っている。
まるで殴り合いを楽しんでいるかのようだ。
この展開に、観客は過去最大の盛り上がりを見せた。
「うおおおおおお!!」
「殴り合いだ! 殴り合いだ!」
「どっちも譲らねえ!」
「血まみれだ! 両方とも血まみれだ!」
「こんな試合、見たことねえ!!」
「鬼塚! ダリウス! 鬼塚! ダリウス!」
地響きのような歓声。
闘技場全体が揺れている。
賭けをした商人たちが叫んでいる。
「もうどっちでもいい! 最高の試合だ!」
(お前は……強い!!)
ダリウスも、正真正銘の本気だった。
「うおおおぉ!!」
お互いの拳と拳が交錯し、血まみれの殴り合いだ。
俺の拳が、ダリウスの鼻柱をへし折る。
ダリウスの拳が、俺の顎を打ち抜く。
一瞬、膝をつく。
だがすぐにまた拳を繰り出す。
バキッ! ゴッ! ドスッ!
だが、それも長くは続かなかった。
喉元の痛みと共に、俺は笑った。
さらにローキックでダリウスの踏ん張りを崩し、
腹へ短く重いパンチを二発――。
ダリウスの呼吸が切れるのがわかった。
そこで小さなフェイント。
相手が視線をずらした瞬間を、見逃さず――。
時間が止まったように感じた。
俺の右拳が弧を描く。
ダリウスの拳も同時に放たれる。
二つの軌道が交差する。
俺は振り抜いた右拳を、顎へ叩き込んだ。
同時にダリウスも腰を切り、拳を交錯させていた。
ゴッ!!
⸻
空気が止まる。
俺は前方に転がり倒れる。
ダリウスの身体が、斜めに崩れ落ちる。
(……くそ)
意識が飛びかける。
だが――。
(まだだ)
目を開ける。
すぐに起き上がり、目を血走らせ、
ダリウスの肩を掴んで全体重を乗せ覆い被さった。
ダリウスをじっくり見る。
気絶している。
動かないのを確認し、ようやく俺は肩の力を抜いた。
会場は静まり返っていた。
誰もが、息を呑んでいる。
審判が駆け寄る。
ダリウスの状態を確認して、旗を上げた。
「勝者――鬼塚剛!!」
会場が爆発した。
「鬼塚の勝ちだああぁぁぁぁ!!!」
「鬼神! 正に鬼神!!」
「鬼塚!! 鬼塚!!」
地響きのような歓声。
拳を振り上げる観客たち。
涙を流す者たち。
抱き合って喜ぶ者たち。
闘技場全体が、歓喜に包まれていた。
⸻
俺はゆっくりと立ち上がる。
足が震えている。
視界がぼやけている。
だが――勝った。
倒れているダリウスを見下ろす。
「お前、強かったぜ」
小さく呟いた。
拳を、天に向かって突き上げた。
「うおおおおおお!!」
さらに大きな歓声が響いた。
リリィが泣きながら手を振っている。
ガルドが拳を突き上げている。
――優勝だ。
俺が、この拳で掴んだ。
体中が痛い。
限界を超えている。
でも今は――
最高に気分がいい。
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