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36.決勝前~ダリウス~


 決勝までの間。


 約二時間の休憩時間。


 ダリウス・ジンガは先ほど試合を終えたばかりだった。


 相手は、Aランク冒険者の重戦士。


 分厚い鎧に身を包み、大剣を振るう男だったが一撃で終わった。


 ダメージはない。

 

 

 観客たちは興奮冷めやらぬ様子で街へ繰り出していた。

 屋台で食事を取る者、酒場で酒を飲む者、決勝への期待を語り合う者。


 街全体が、武闘会の熱気に包まれていた。



 そんな中──。


 闘技場の控室。


 ダリウス・ジンガは、一人静かに座っていた。


 胡座をかき、目を閉じる。

 呼吸を整える。

 心を静める。



 二十年前。


 俺は武を極めるために旅に出た。

 故郷を離れ、各地を放浪した。

 強者を求めて。


 北の山岳地帯で巨人族の戦士と拳を交えた。

 東の砂漠で暗殺者たちと死闘を繰り広げた。

 南の密林で魔獣と素手で戦った。

 西の海辺で海賊たちを相手に無双した。


 勝つこともあれば、負けることもあった。

 だが、負けるたびに──強くなった。



 そして気づいた。


(武に、終わりはない)


 極めたと思っても、その先がある。

 だから俺は歩き続けた。



 約十年に渡る放浪の末、この街に辿り着いた。

 そして道場を開いた。


『ジンガ流武闘術道場』


 自分の武を、次の世代に伝えるために。


 弟子たちが集まってきた。

 最初は三人だけだった。

 今では二十人を超える。


 みな真剣な目をしている。

 武を学びたいという目。


 俺は全力で教えた。

 技だけじゃない。心も。



 武とは、力を誇示するものじゃない。

 己を律し、他者を守るためのもの。


 そう教えてきた。



 そして──アルヴィンと出会った。


 初めての武闘会。

 決勝で、俺たちは激突した。


 魔法と格闘の融合。

 それが俺の武。


 魔法と知識の極致。

 それがアルヴィンの武。


 互いに全力でぶつかり合った。


 結果は──俺の勝ち。


 アルヴィンは悔しそうに顔を歪めていた。


「また、来年」


 そう言って去っていった。



 翌年、また決勝で当たった。

 今度はアルヴィンが勝った。

 その次の年は俺。

 その次はアルヴィン。


 十年間、ずっとそうだった。


 優勝を奪い合うライバル。

 だが──友でもあった。


 試合外ではよく酒を飲んだ。

 武について語り合った。

 互いの技を認め合った。



(今年こそ、決着をつけよう)


 そう思っていた。


 だが──。


 アルヴィンは初戦で敗れた。

 鬼塚剛という男に。一撃で。


(あの男は、何者だ)


 俺はその試合を見ていた。

 圧倒的な強さ。


 アルヴィンを一撃で沈めた。

 ガルドを完膚なきまでに叩きのめした。

 エドガーを、剣ごと封じた。


(面白い)



 目を開ける。

 控室の天井が視界に入る。


(鬼塚剛)

(お前はアルヴィンを倒した)

(だったら、俺がお前を倒す)


(そして──)


 ダリウスは立ち上がった。


(我がジンガ流武術こそが最強だと証明しよう)



 軽く拳を振るう。

 空気が裂ける音。


 体が温まっている。

 準備は整った。



 ノックの音。

 扉が開く。


 係員が顔を出した。


「ダリウス選手、まもなく入場です」


「うむ」


 短く答える。


(さて、行こうか)



 廊下を歩く。

 鉄の扉が目の前にある。


 向こうから、観客の歓声が聞こえてくる。


(鬼塚剛)

(お前の拳、受けてやろう)

(そして──倒す)


 扉が、ゆっくりと開き始めた。

 

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