33.決勝前夜-お祭り
残りの試合も決着がついた。
アナウンスが、闘技場全体に響き渡る。
『皆様、お待たせいたしました! 準決勝の組み合わせが決定いたしました!』
巨大なボードに、トーナメント表が映し出される。
観客たちが一斉に身を乗り出した。
ざわめきが広がる。
俺とリリィも、そのボードを見上げた。
準決勝。
第一試合:鬼塚剛 vs エドガー・フォンブルーク
第二試合:ダリウス・ジンガ vs レイナルド・メイズ
「エドガー来たね」
リリィが俺の隣で呟いた。
少し緊張した様子で、トーナメント表を見つめている。
「王国騎士団所属の剣士」
リリィが続ける。
「剣技特化。もちろんアリーナの効果を受けるわけだけど‥」
声のトーンが少し下がる。
心配しているのか。
「ああ、剣士か」
俺は拳を鳴らした。
関節がパキパキと音を立てる。
「ここまで準備してきた甲斐があるぜ」
この数日間、リリィと一緒に剣士対策を練ってきた。
ブロードとの模擬戦。
動きの観察。
間合いの取り方。
全て、この瞬間のためだ。
「実力はブロードと遜色ないはず」
リリィが腕を組んで考え込む。
「でも流派というか、剣技のスタイルに違いがあると思うの」
「エドガーはまさに剣士のお手本となるような、正統派の剣技を主流としてるの!」
「魔法も使うけど、剣技そのものがすごく洗練されてるの」
リリィの目が真剣だ。
研究者としての顔。
彼女なりに、俺のために情報を整理してくれている。
「なるほどな」
俺は頷いた。
正統派。
つまり、無駄がない。隙が少ない。
厄介な相手だ。
だが──。
「やることやってきたんだ」
俺は立ち上がった。
「それに関係ねえよ。俺は負けねえ」
この拳で、道を切り開いてきた。
明日も同じだ。
「とりあえず飯でも食いに行こうぜ」
リリィを見下ろす。
「そだね!」
リリィの表情がぱっと明るくなった。
さっきまでの緊張が嘘のように消える。
「屋台行こうよ! 冒険者が獲ってきた珍しいお肉がいっぱいあるんだよ!」
目を輝かせて言った。
「珍しい肉……?」
俺は少し不安になる。
この世界に来てから、色んなものを食ってきたが、まだ慣れない部分もある。
「大丈夫大丈夫! 多分美味しいから!」
リリィが俺の腕を掴む。
細い指が、ぎゅっと袖を握った。
「さ、行こ行こ!」
引っ張られるまま、街の中心部へ向かった。
夕暮れの街は、活気に満ちていた。
石畳の通りには無数の屋台が立ち並んでいる。
焼き肉の匂い、香辛料の香り、人々の笑い声。
全てが混ざり合って、街全体が一つの祭りのようだった。
ランタンの明かりが通りを温かく照らしている。
オレンジ色の光が、石畳に揺れる影を作り出していた。
「わあ、すごい人!」
リリィが嬉しそうに声を上げる。
確かに人でごった返している。
冒険者たちが酒を片手に笑い合い、商人たちが商談をし、家族連れが楽しそうに食事をしている。
色んな人たちが、この夜を楽しんでいた。
武闘会の熱気が、街全体に広がっているのを感じる。
「あ、あれあれ!」
リリィが指差す。
『ウルフ肉の串焼き』
看板が出ている屋台。
店主──筋骨隆々とした男が、大きな肉の塊を豪快に焼いていた。
ジュウジュウと音を立てて脂が滴る。
炭火の上で、肉が香ばしく焼けていく。
いい匂いだ。
腹が鳴りそうになる。
「二本ください!」
リリィが元気よく注文する。
「あいよ! お嬢ちゃん、武闘会見てきたのかい?」
店主が笑顔で答える。
「はい! すごかったですよ!」
「だろうな! 今年は盛り上がってるって噂だ」
店主が串を二本、リリィに渡す。
湯気が立ち上っている。
「ほら、熱いから気をつけな」
「ありがとうございます!」
リリィが俺の方を向く。
「はい、剛くん!」
一本、俺に差し出した。
笑顔が眩しい。
「おう、ありがとな」
受け取って一口かじる。
……うまい。
肉が柔らかくてジューシーだ。
香辛料の効いた味付けが食欲をそそる。
噛むたびに肉汁が溢れ出す。
塩気と香辛料のバランスが絶妙だ。
「美味しいでしょ!」
リリィが満面の笑みで言った。
自分も串を頬張っている。
「ああ、うまい」
俺も頷いた。
二人で串を食べながら歩く。
通りを抜けて、次の屋台へ。
「あ、今度はこれ!」
リリィがまた別の屋台を指差す。
『グリフォンの手羽先』
大きな鳥の足が、串に刺さって焼かれている。
普通の鳥とは比べ物にならない大きさだ。
「グリフォン……?」
「うん! 簡単に言うとおっきい鳥の魔物だね!」
リリィが楽しそうに説明する。
「A級モンスターなんだけど、肉は美味しいんだよ!」
「固いけど、噛めば噛むほど味が出るの!」
「……そうか」
A級モンスターの肉か。
この世界ならではだな。
俺たちは唐揚げも買った。
それから焼きそばみたいなもの、甘いクレープみたいなもの。
色々と食べ歩く。
そして、通りの端にあるベンチに座った。
ランタンの明かりが柔らかく二人を照らしている。
周りの喧騒が少し遠く聞こえる。
ここだけ、静かな空間のようだった。
「明日は準決勝だね」
リリィがぽつりと言った。
クレープを半分食べたところで、俺の方を見る。
「ああ」
「緊張してる?」
「してねえよ」
俺は短く答えた。
余裕ってわけじゃねえけど、まるで負ける気はしなかった。
昔を思い出す。
前世で何度も喧嘩してきた。
路地裏で、校舎裏で、色んな場所で拳を交えてきた。
勝つことしか考えてなかった。
負ける選択肢なんて、最初からねえ。
明日もそれと同じだ。
エドガーが相手だろうが、ダリウスが相手だろうが、関係ねえ。
俺は俺の拳で勝つ。
「明日はもっと飛び切り美味いもん食わしてやるよ」
リリィを見る。
「優勝祝いだ」
「うん!」
リリィがにっこり笑った。
目が細くなる。
「楽しみにしてるね!」
その笑顔を見て、少し穏やかな気持ちになる気がした。
「じゃあ、そろそろ戻るか」
「うん」
二人で立ち上がる。
宿へと歩き出した。
夜風が心地よい。
街の灯りが道を照らしている。
行き交う人々の笑い声が、背中を押してくれるようだった。
明日は勝つ。
そして恐らくダリウスと戦う。
決勝で、あいつと拳を交える。
そう心に決めて、俺たちは夜の街をゆっくりと歩いていった。
リリィが隣で鼻歌を歌っている。
楽しそうだ。
その横顔を見ながら、俺は思った。
(悪くねえな、こういうのも)
この世界に来てから、色々あった。
追放されて、どん底に落ちて、這い上がって。
でも今は──リリィがいる。
戦う理由がある。
明日、また一歩前に進む。
俺たちは帰路についた。
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